10曲目 ピアノート子爵とフォルテ嬢
バタバタと部屋の外から足音が聞こえてくる。
「なんですの、今の音は!」
バーンという音とともに現れたのは、メロディと同い年くらいの女だった。きれいな青髪だな、おい。
「おい、フォルテ。部屋に入る時はノックくらいしなさい」
「これは失礼しました、お父様」
お父様ってことは、この子は領主の娘か。だいぶ気が強そうだな。
俺はメロディに抱えられたまま、領主とフォルテと呼ばれた子どもをじろじろと見つめている。
「あら、ずいぶんと生意気な道具ですわね」
フォルテと呼ばれた女が、俺に近付いてくる。こいつ、俺の視線に気がついたというのか?
「まあ、ずいぶんと睨んでくれますわね」
「あの、もしかしてフォルテ様、リードさんのことが分かるのですか?」
「えっ? この道具、そんな名前がありますの?」
「えっ?」
フォルテという子どもとのやり取りで、メロディが混乱している。
だが、俺の視線を感じられるってことはだ、一か八かやってみる価値はありそうだな。
『おい、そこのフォルテとかいう女。俺の声が聞こえるか?』
俺は思い切ってフォルテに話しかけてみた。
「なんですの、今の声は」
おっ、やっぱりメロディと同じで俺の声が聞けるようだな。
「どうしたんだ、フォルテ」
「いえ、何か変な声が聞こえてきた気がしまして……」
変な声で悪かったな。
だが、聞こえるんならさっきの話について聞けるように、こいつを利用してやろうじゃねえか。
『おい、そこの女。俺はメロディが抱えるギターだ。さっき俺によく似た道具を見かけたっていう話を、詳しく聞かせてもらえるように頼んでくれねえか?』
「抱えるギター……?」
俺が呼び掛けると、フォルテはじっと俺の方を見てくる。
「もしかして、今の声はこのへんてこな道具からですの?」
「あれっ、フォルテ様ってリードさんの声が聞こえるんですか?」
「ということは、あなたも聞こえていますのね?」
「はい」
「おいおい、どういうことだ。フォルテ、説明してくれ」
メロディとフォルテのやり取りに、領主はどういうことなのか状況の把握に追われている。
まっ、しょうがねえよな。俺の声が聞こえねえんじゃ、何も分かるわけないからな。
俺は大きなため息をついた。
「お父様、どうやらこのへんてこな道具が、先日見つかったという道具のことを知っているようですわ」
「道具が道具を知っている? まさか、その道具には意思が宿っているのか?」
「そのようですわよ。わたくしにさっきから生意気な口を利いてきますもの」
フォルテが説明すると領主は後ずさりするほどにびっくりしている。ずいぶんたいそうな驚き方だな、おい。
「……まさか、そんなはずは……」
領主は自分の後ろにある壁にもたれかかるようにしながら、何かショックを受けたような様子を見せている。一体どうしたというんだよ。
「このピアノート子爵家で、そのようなことが……」
なんだ、よく分からん反応をしているな。
俺はとっとと、俺とよく似た道具があるとかいう場所に連れていってもらいたいんだがな。
「お父様」
俺がイラついていると、フォルテが領主に話しかけている。
「わたくしとこの少女を連れて、その道具の場所まで案内してくれませんかしら。この道具と引き合わせれば、何かが起きるかもしれませんわ」
「いや、しかしだな……」
おっ、いい流れになってきたな。
だが、領主は相変わらず渋ってやがる。よっぽどその場所は子どもが行くにはよろしくないって場所なんだな。
『もっと言ってやれ。メロディ、何か危険があるようだったら、迷わずに俺を演奏するんだ』
「はい、リードさん」
俺が声をかけると、メロディは間髪入れずに元気よく返事をしていた。
その様子を見ていた領主は、俺たちを連れてきた兵士に命じて、誰かを呼ぶように伝えていた。
命令を受けた兵士はすぐに部屋を出ていき、誰かを連れて戻ってくる。
「お呼びでございますでしょうか、子爵様」
「うむ。メゾよ、今すぐにヘオネ大森林へ向かう兵を編成してくれ」
「ヘオネ大森林ですか? なぜまた急に、そのようなことになったのでしょうか」
「そこの変な道具が理由だ」
「変な道具?」
戻ってきたメゾとかいう兵士が、俺の方を見てくる。俺を見た瞬間に、なんともびっくりした表情を見せていた。
「なるほど、合点がいきました。ではすぐに編成をして参ります。今日は遅くなってまいりましたので、報告は明朝とさせていただいてもよろしいでしょうか」
「うむ、その分、しっかりとした編成を頼むぞ」
「はっ!」
返事をして、メゾとかいう男は部屋を出ていった。
「では、お父様」
「うむ。フォルテの望み通り、その道具と一緒にお前たちを連れていく。だが、決して私たちから離れるではないぞ?」
「分かりましたわ。では、この方はわたくしの部屋にご案内させていただきますわ」
「お、お嬢様。いけません、勝手にそのようなことをされては」
俺たちをここまで連れてきた兵士が、フォルテの判断に意見をしている。
「ご心配要りませんわ。年も近いようですし、この道具についてお聞きしたいのです。お父様、よろしいでしょうか」
「ああ、フォルテに任せよう」
「ありがとうございますわ。では、参りましょうか」
「は、はい……!」
俺を抱えたメロディは、フォルテに手を引かれて領主の部屋から出ていく。
やれやれ、思うように事を運べてはいるが、一体どうなるんだかな……。
こうして俺たちは、わがままお嬢様の部屋でひと晩を過ごすことになりそうだった。




