2話 : 初動
泰斗と辻が付き合い始めた。
俺がその事実を知ったのは、翌日のことだ。泰斗から話を聞いてると、俺の中にあった彼女への偏見が少しずつ形を変えていった。
傲慢でわがまま。そんなイメージを勝手に抱いていたが、実際はどうも違うらしい。何より驚いたのは、彼女の元彼の人数が「3人」だということだ。
……意外だ。いや、俺からすれば十分多いのだが、勝手なイメージでは7、8人は軽く掃いて捨てるほどいると思っていた。意外と一人ひとりと向き合っている……のか?
そんなことより、問題は俺だ。
このまま大学生、社会人になった時、交際経験ゼロというのは流石にマズいのではないか。
中学、高校と、俺は女の子と関わることを徹底的に避けてきた。理由は単純、怖いからだ。中学一年生の頃から、女子は急に大人びて見えた。話しかけるにも気恥ずかしさが勝り、そうやって逃げ続けてきた結果がこの有様だ。
男女混合の遊びの誘いがあっても、俺だけは絶対に行かなかった。そうして殻にこもっている間に、周りとの差は絶望的なまでに開いてしまった。
みんなはどうやって「慣れ」ていったんだ?
慣れている人間が、さらに経験を積んで慣れていく。この二極化はもはや社会問題だ。富める者はますます富む。まるで有機化学の「マルコフニコフ則」のようじゃないか。……ちなみに化学は得意だ。これもどうでもいいか。
この絶望的な格差をどう埋めればいい。
今からガンガンアタックするしかないのか? いや、実は今までも断続的に挑戦はしてきた。だがその度に空回りして、最後には決まって「無理しない方いいよ」と哀れみの言葉を投げられて終わる。無理くらいさせてくれ。こっちは後がないんだから。
そんなことを考えながらベッドに入ると、案の定、思考のループで眠れなくなった。
誰か練習をさせてくれる奇特な人はいないか。だが、俺には仲の良い女友達なんて一人もいない。男と女の比率をグラフにすれば「10:0」。般◯さんもびっくりだ。極限まで飛ばせば ∞ : 0 とも表せる。……数学も得意なんだ。またどうでもいいけど。
ん? 女……?
そういえば、直近で言葉を交わした女子がいた。
「そうだ、泰斗の彼女がいるじゃないか」
辻咲良。癪だが、あの子なら経験も豊富だし、何より「敵」を知るには最適だ。彼女に恋愛のいろはを教わろう。
俺は早速、泰斗にメッセージを送った。
『泰斗、相談なんだが、お前の彼女に恋愛を教えてもらいたい。協力してくれ』
すぐに返信が来た。
『嫌に決まってんだろ』
……えー、なんでだよ。冷たいな。俺は焦って、言葉を指が滑るままに打ち込んでしまった。
『いいだろ、減るもんじゃないし。彼女を貸してくれ』
送信した直後、自分の語彙力のなさに戦慄した。貸してくれってなんだ。消しゴムじゃないんだぞ。
だが、訂正するのも癪なので、俺はそのままスマホを放り投げた。もういい、寝よう。
――3分後。
枕元でスマホが震えた。
画面を見ると、そこには予想だにしない通知が表示されていた。
【 辻咲良から友達追加申請が届きました 】
俺の理論回路が、今年一番の音を立ててショートした。




