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練愛  作者: 竹子


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1話 : 新学期

今日から新学期。クラス発表の日だ。

俺、村上拓実は、登校しながらその事実に特段の感慨も抱いていなかった。正直、クラス替えという行事にはマンネリを感じている。小学校、中学校、高校とこれまで10回。幼稚園までカウントすれば13回だ。……いや、なんで俺は今、幼稚園の記憶まで引っ張り出してきたんだ。

友達なんて作ろうと思えば新しくできるし、万が一できなくても旧友とつるんでいれば、そのうち新しいコミュニティに馴染む。不安なんて皆無だ。

それよりも俺は、この学校の効率の悪さが気になっていた。全8クラス、1クラス30人。計240人。これなら1クラス40人構成にした方が、余った教室を部室や物置に転用できるし、一度に出会える人数も増えて合理的じゃないか?

そんな、学校経営陣にでもなったような「どうでもいいこと」を考えながら、俺は掲示板を見つけた。去年は紙だったが、今年は大型モニターでの表示だ。その無駄なハイテク化に小さく感心していると、目の前に見慣れた背中があった。

一年の時の親友、山本泰斗だ。俺を含めた仲良し4人グループの一人である。

「泰斗、クラスどうだった?」

後ろから声をかけると、泰斗がゆっくりと振り向いた。その目には、なぜか涙が溜まっている。

「……良かった。本当に、良かった……!」

「えっ、まさか俺ら4人、全員同じクラスか!?」

俺は歓喜した。8クラスあって、仲良し4人が2年連続で同じクラスになる確率。今朝、家を出る前にAIで調べたら「約0.00026%」という天文学的な数字だった。そんなミラクルが起きたのか。っていうか実はずっとドキドキしていて、昨日は一睡もできなかった。

「最高だな泰斗! 俺たちの絆は本物だ。先生も粋な配慮をしてくれるじゃないか!」

熱い友情を確信した俺に対し、泰斗は魂を震わせるように叫んだ。

「辻と同じクラスだぁぁぁーー!!」

……。

「え、辻? 辻咲良のことか?」

辻咲良。一年の時も同じクラスだった女子だ。

どれくらいモテるかというと、去年のバレンタインに俺がチョコをもらい、舞い上がってホワイトデーに手紙付きのキャンディを返した際、彼女の当時の彼氏に見つかって手紙を破られた挙げ句、校舎裏でボコボコにされたほどだ。……思い出しただけで喉の奥がヒリつく。

ていうかあんな男が同じ高校に居たのが1番の衝撃であった。おそらく上級生か他校の生徒であろう。


「あ、辻と俺の名前しか見てなかったわ」

泰斗は「悪い悪い」と、本当についさっき忘れていたような軽い調子で言った。

……俺らの友情って、そんなもんなのか? 3年間同じクラスになれるかもしれない確率を家で必死に計算してきた俺の情熱を返してほしい。

掲示板をよく見ると、俺の名前もしっかり泰斗と同じクラスにあった。どうやら残りの仲良い二人は別のクラスに散ったらしい。まあ、8つもクラスがある中で、一人でも親友が被ったのは運が良い方だと自分を納得させることにした。

「っていうか泰斗、お前……辻のことが好きなのか?」

これまで俺たちは、バカな話で盛り上がることはあっても、まともな恋バナをしたことがなかった。泰斗はいつもふざけて適当なことばかり言っているが、こういう核心に触れる大事なことは意外と言い出さないキャラだ。今の涙を見てしまった以上、この機会に聞き出しておきたい。

「……1年の最初の時から、ずっと好きだったんだ。辻のことが」

それは意外な言葉だった。そんな素振りは一切なかった気がする。

別に何でも話せと強制するつもりはないけれど、一番仲が良いと思っていた親友が、一年もの間、そんな大きな秘密を俺に隠していた。その事実に、友人として少しだけ胸の奥がチリッと寂しくなった。

「……なんで今まで、告白しなかったんだよ」

どの口が言うんだという話だが。俺だって彼女いない歴イコール年齢だし、告白なんて一度もしたことがない。

「それは……辻は男を取っ替え引っ替えしてるだろ。なかなか入る隙がなくてさ」

「あー。確かに、そんなイメージはあるよな」

実際、辻咲良は誰に対しても愛想を振りまいていて、全男子から好かれているような印象だ。俺は正直、そういう八方美人なタイプがあまり気に入らなくて好きではない。むしろ苦手な部類だ。

「けど、辻は今フリーらしいから」

その言葉に一瞬驚いたが、驚きはすぐに冷めていった。

なぜなら俺は今日、彼女が男子生徒と二人きりで、親しげに笑いながら登校している姿を目撃しているからだ。

彼女のようなタイプの言う「フリー」というのは、単に「今は特定の誰かと契約していない」というだけで、すぐに次の相手を作れる状態を指す。

いわば、シリンダーに満タンの銃弾を詰め込んだリボルバーのようなものだ。いつでもその気になれば撃つことができるし、もし一発外したとしても、すぐに次の一撃を見舞うことができる。

泰斗はそんな危険な銃口に、自ら飛び込もうとしているわけだ。泰斗も可哀想に。そんな「男のゴミ収集車」みたいな女に騙されて。

……そんな毒を吐くことはせず、俺は「上手くいくといいな」とだけ言った。

それは俺の偏見であり、事実無根の感想に過ぎないからだ。

しかし、親友に幸せになってほしいという気持ちは、紛れもなく本心だった。恋愛を非効率なゲームだと決めつけ、行動もせずに無駄な思考ばかりを張り巡らせている俺に比べれば、純粋に誰かを追うあいつは希望の星のようなものだ。

「頑張れよ、泰斗」

春の陽気に浮き足立つ泰斗と校庭を眺めながら、俺はそう願った。

辻咲良というリボルバーに装填される弾丸が、どうか、あいつの心臓を撃ち抜く「運命」であってほしいと。

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それから一ヶ月後。

泰斗は辻咲良と付き合い始めた。

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