第四話 「奴隷少女」は世界に期待をしない
隣で何かがバタンと力なく倒れる音がする。
だが自分は無心にスコップを動かす。
ザクッ、ザクッ、ザクッ
「あー、こいつもダメになっちまったか。まあ、ここ最近は余計使いものにならなくなっていたし、いっか」
男からの冷ややかな視線を感じる。
それでも自分は地面を掘るのをやめない。
「はあ。おい、忌み子。今日の作業はここまでだ。さっさとそのスコップを倉庫に戻して独房に戻れ」
さぎょう……おわり?
きょう……はやい。
はじめて。
自分はスコップをいつもの置き場所に戻すためにすぐ近くにある倉庫に入る。
すると外から男の独り言が聞こえてくる。
「よりによって生き残ったのがあの忌み子か……」
じぶん……だけ。
もう、じぶんしか……。
過去にこんなことを聞いた。
ここの奴隷で最後まで生き残った道具は晴れて解放される、と。
そとって、どんなところ、かな?
自分は純粋にそんなことを考えていた。
だが自分はそんな思考をしたことをすぐに後悔することになる。
「まあでも、あいつはかなり顔が整ってる方だし、例年通り変態貴族に売ればそれなりの金にはなるか……」
貴族。
自分はそれを聞いて察する。
かいほう……ない。
じごく……おわらない。
自分は絶望しながらスコップを戻すと一歩一歩を噛みしめながら長年生活してきた独房に向かうのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
独房に着いた自分は隅で丸くなる。
……。
自分はようやく死ねると思っていた。
自分は最期くらい幸せな思いをして、死ねると思っていた。
自分は道具としてではなく、一人の人間として死ねると思っていた。
だがそれはただの幻想に過ぎなかった。
自分は恨んだ。
こんな惨めで、苦しくて、寂しい思いをさせる運命を。
この世界を。
何もかも恨んだ。
この世界は鬼畜だ。
この世界に平等なんてものはない。
この世界に自分たち奴隷が生きられる場所なんてない。
「奴隷少女」は世界に期待をしない。
その時だった。
突然、目の前に誰かが現れる。
自分は一瞬身構えた。
だがその人物からはあの男たちからいつも感じる気持ち悪さと敵意がまったくと言っていいほどに感じられない。
むしろその人物からはポカポカと温かいものを感じた。
てきいない。
それとポカポカ。
なんで?
疑問に思った自分はその人物に問う。
「だれ?」
顔は靄がかかっていてよく見えない。
「……幸せ……に……なって」
言葉はよく聞き取れなかった。
でもその時ようやく自分に向けられている温かいものが優しさだとわかった。
温かかった。
まるでシーちゃんを抱きしめて眠っていたあの日の頃のように。
その言葉は温かかった。
自分は顔をもう一度上げる。
だがもうそこには誰もいなかった。
あれ?
いない……。
そこで自分はとあることに気付く。
め、みえないのに……なんで?
自分は目が見えないはずだった。
それなのに何故か目の前に誰かの姿が映った。
自分は不思議に思って頭を回転させていた。
でも結局結論は出なかった。
だからあれは幻なのだと、幻覚なのだと自分に言い聞かせた。
なんか……つかれた。
久しぶりに疲労を感じた。
多分、未来に一瞬、期待の念を抱いてしまったからだろう。
そう思った自分は重い瞼をゆっくりと閉じる。
そして数週間ぶりに意識を深い闇に落とし込むのだった。
次回で最終回となります。




