第三話 「奴隷少女」は何も感じない
シーちゃんが灰になったあの日。
自分の中で何かが歪む音がした。
それ以来、痛みも、憎しみも、悲しみも、孤独も……何も感じなくなった。
ただ「ある願望」を除いては……。
死にたい……。
自分は闇の中で僅かに光る「死」を追いかけることしか頭になかった。
「ちっ、この忌み子、何で鞭で打ったり、燃やしたりしても声一つ出さねーんだよ。これじゃあまるでただの人形じゃねーか」
男は鞭を打つ手を止めると「あーもう、つまんねー」と文句を言いながら自分を鎖につるし上げにした状態でどこかへ行ってしまった。
「……」
それでも自分はピクリとも動かない。
いや、もしかしたら動けなかったのかもしれない。
日に日に酷くなっていく拷問。
半年以上何も口にしていない状況。
そして心にできた大きな穴。
何故ならそれらが原因で自分の体は動けないほどボロボロになっていたからだ。
その時だった。
男が帰ってきたかと思ったら「痛い! 痛いよ!」と鳴く道具を引きずりながら連れてきた。
「おい、忌み子! よく聞け。俺は今からお前に命令する。それでも俺の命令が聞けないようだったら……こいつを殺す。いいな?」
男は短剣の刃先を道具の首に向ける。
どうやら男は何をしても反応がない、もぬけの殻になっている自分に痺れを切らしたらしい。
「お、お願い。助けて……」
「少しぐらい黙っていられねーのか!! このクソガキが!」
男はそう言ってその道具の口に短剣の刃を入れる。
するとそれは股の間から臭くて温かいものを漏らすと、涙目で固まったままブルブルと震える。
「ちっ、きったねーな。だが、ちょうどいい。おい、忌み子。こいつのお漏らしを舌で掃除しろ」
男はそう命令しながら自分を鎖から外すと、髪の毛を掴んで床に広がる臭さくて温かい液体の上に落とす。
「……」
それでも自分は動かない。
男は繰り返す。
「聞こえなかったのか? 舐めて、掃除するんだ」
「……」
それでも自分はピクリともしない。
その時、男は道具の首に短剣の刃先を突き付ける。
同時に道具は「やだ! 死にたくない! お願い!」と泣きわめく。
「早くしろ! じゃないとマジでこいつを殺すぞ!」
「……」
だが自分は人形のまま。
そんな自分に男は我慢の限界が近くなる。
「もういい!! 今から三秒数えるやる。もしそれでもお前が動かないようだったらこいつを殺す! いいな!?」
「……」
「3……」
「ねえ! お願い!」
道具の首から温かい液が流れ出る。
「2……」
「動いて!」
道具の目から涙が溢れ出る。
「1……」
「私、死にたくな……がっ」
グサッとした音の後にバタンと何かが力なく倒れる音が響き渡ると、拷問部屋に静寂、そして鉄とアンモニア臭が混ざったような匂いが広がる。
「ちっ、これでも動かねーとか、こいつ、マジで異常すぎるだろ。前から傷の治りが異常に早かったり、致命傷を与えても死ななかったりといろいろ異常なところがあったが、余計異常さがましたぞ。これだから忌み子は気持ち悪いんだよ」
男はそう口にすると自分と使えなくった道具に魔法で火をつけ、その場を後にする。
男が去ったのを確認すると、自分は思考する。
自分のせいで同じ道具が使えなくなった。
それなのに何も感じない。
こんな臭い液体に浸されている。
それなのに何も感じない。
火炙りにされている。
それなのに何も感じない。
ああ……やっぱり。
「奴隷少女」は何も感じない。
何も……感じれなくなったんだ。
自分は火が消えるまでそれらの言葉を繰り返し繰り返し闇の中で孤独に口ずさむのだった。




