第二話 「奴隷少女」の「友達」はもういない
あれからいくらかの年月が経った。
シーちゃんは自分と出会った頃と比べて一回り大きくなっていて、シーちゃんを包み込む自分の手も少し大きくなっていた。
そんな自分たちは昨晩も一緒に夜を乗り越えた……はずだった。
「お願い! シーちゃんを、シーちゃんを返して!」
「がはは! ロウ、聞いたか? この忌み子、ネズミなんかに変な名前を付けてやがるぜ? 滑稽だよな」
そう言う男の手には尻尾をつままれ、宙ぶらりんになっているシーちゃんの姿が。
そんなシーちゃんは上下に揺さぶられ「キー!キー!」と苦しそうな声をあげる。
シーちゃん!!
「うひひ、そうですな、ボス。まったく忌み子の分際で……」
「お願い……。シーちゃんを返して。シーちゃんは私の『友達』なの……」
自分はそう言いながらボスという男の足にしがみつく。
だが、
「俺に触るんじゃねーよ!! この忌み子が!!」
と蹴り飛ばされてしまう。
「がはっ……」
自分は蹴り飛ばされた勢いのまま壁にぶつかる。
そして背中から内臓に響く衝撃に口から大量に暖かいものが吹き出てくる。
「げほっ、ごほっ」
「ふん、このネズミが友達とか意味の分からないことを抜かしやがって……。そんなにこれが大事ならこうしてやる!!」
ボスという男はそう言ってシーちゃんを左手で握り潰すように持つと聞き覚えのある言葉を口にし始める。
それと同時にシーちゃんは「ギィー」と大きな悲鳴をあげながらもがいていた。
「闇を照らす朱き灯よ」
「え? ダ、ダメ……。それだけは……それだけは、絶対ダメ!!」
「我が前に立ちはだかる障壁を食らいつくせ」
「ねえ、お願い……やめて!!」
「火魔法発動」
「ダメ!!」
「爆炎」
するとシーちゃんが握られている手が紅い悪魔のような灯に包まれる。
炎に包まれたシーちゃんは最初こそ「キッ、キッ」と鳴き声にならないような音を吐き出していたが、最後はパチパチという音以外聞こえなくなっていた。
シーちゃん……。
う、嘘……。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
この時、自分はシーちゃんが動かなくなったのを感じた。
そして生まれて初めて激高した。
激高した自分はシーちゃんを燃やした男に殴りかかる。
だが相手は大人の男性。
それに対し自分は半年以上飲み食いしていない少女。
体格的にも体力的にも大きな差があった。
だからもちろん、そんな相手に勝てるわけがなく、男に髪の根っこを掴まれ持ち上げられる。
「がぁーー!!」
「ふっ、お前みたいな忌み子でも怒ることはあるんだな」
「うっ……」
「おい、忌み子。ほれ、これがお前の大事な友達の姿だ。 ちゃんと目に焼き付けておけよ? って、目が見えないから友達の無残な姿なんて見えるわけがないか!!」
男はそう言って大きな笑いをする。
自分はその振動で上下に揺られ頭の上からブチブチという音が痛みと共に全身に響く。
「い、痛い……」
すると突然、男は冷静になったかと思えば突然鼻息を荒くし始める。
「まあ、お前にはちょこっと悪いことをしたし、ちょっとしたご褒美をあげるよ」
そう言って男はまだパチパチと燃え盛っている左手を私に近づけてくる。
「い、いや……それは嫌……」
「何を言ってるんだ? 今からお前の友達と同じ思いができるんだぞ? こんな最高のご褒美、断るというのか?」
「違う。そんなの……ご褒美じゃない」
自分がそう言うのと同時に男は左肘でおでこをゴンと叩きつけてきた。
「うっ……」
「おい、前も言っただろ? 俺たちの言うことは絶対って。まさか忘れていたわけじゃねーよな? あ?」
「シーちゃんを……返して……」
男は舌打ちをする。
「ちっ。耳までダメになっちまってんのかよ。はあ、まあいいか」
そうして男は自分の服に左手の炎を引火させた。
「いやああああ!! 熱い! 熱い!」
男は無表情で赤い灯に包まれている自分を灰の塊になった物体と一緒に独房の壁に叩き投げる。
そして、
「はあ、もっと面白い反応をすると思ったんだけどな……。つまんねーの」
と言ってもう一人の男と一緒にどこかへ行ってしまうのだった。
声が……でない。
音も……聞こえない。
シーちゃんの……温もりも……感じない。
感じるのは……ざらざら……だけ。
そこで自分はようやく実感した。
「奴隷少女」の「友達」はもういない、と。
そしてそれを実感した自分は心が一気にどす黒い感情に侵食される。
痛い。
熱い。
辛い。
寂しい。
暗い。
怖い。
……死にたい。
自分の意識はそこで海の底に沈んでいくのだった。




