陽だまり令嬢が冷酷王子の心を溶かすまで
恋愛物を書くのは初めてです。拙い部分が多くあると思いますが、よろしくお願いします。
「初めまして、フローズ第一王子殿下。サンポット侯爵系の長女、リーナリアと申します。この度は婚約の挨拶に参りました」
初めて会う令嬢は私の前に来てそう告げた。彼女がお辞儀をすると、腰まで伸びるビンクブロンドのストレートの髪はふわりと宙に広がった。
「…そうですか」
あえて私は素っ気なく返事をした。理由?私に婚約者は必要ないからだ。立場上必要とはいえ、この令嬢と婚約をするつもりは毛頭ない。サンポット侯爵家の顔を立てるため、こうしてわざわざ会っているのだ。あとは適当にあしらっておくだけだ。
「あの…!」
「何かありますか?」
「私、第一王子殿下の興味を引いて見せます!私は以前から第一王子殿下に恋しているんです!なので、絶対に惚れさせて婚約を認めさせてみせます!」
突然の彼女の宣言に唖然とする。仮にも侯爵令嬢ともあろう御方が私のことを好いていると宣言しても良いのだろうか。だが、私に向かってそのようなことを言う令嬢も珍しい。…興が乗った。
「ほう…それは面白いですね。どうやって私のことを惚れさせてくるのか楽しみにしています」
「ええ、まずはこちらをご覧ください!」
そう言った彼女が取り出したのは、瓶だった。
「こちらの瓶は私が作った特製の魔法の瓶です。こちらに…」
彼女がそう言った直後、彼女の持っている魔法の瓶の中に炎がついた。おそらく、彼女が魔法でつけたのだろう。
「この魔法の瓶は中に魔法でも何でも入れることができるのです!」
彼女の技術は素晴らしいものだ。この国の為に役立つことに違いない。だが、婚約するほどではないだろう。婚約をせずとも彼女が技術を提供してもらえればいい。そう考えている内に彼女はいそいそと次の準備を始めている。
「次にこちらをご覧ください。」
彼女が手に持っているのは、一冊の分厚い本だ。巷で話題の恋愛小説。側近からお勧めされて私も読んだことがある。中々に面白い内容だった。
「この本の作者、私なんです!」
思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになってしまう。あの、恋愛小説の作者が彼女なのか…!?
魔法の革新的な技術も持っていて、更に文才もあるだと…!?ますます彼女には驚かされるばかりだ。
「貴女は文才もあるのですね。素晴らしいことです」
流石の私も賞賛の言葉を言っておく。私が心からの称賛の言葉を言うなんて、人生で初めてかもしれない。
「では、次で最後です」
ふいに、彼女はそう告げる。
「私と踊っていただけませんか?」
いつもの私なら断っていただろう。しかし、このような人と踊れる機会なんて滅多にない。私の心はそう言っていた。
「はい、ぜひ踊りましょう」
社交会のようにオーケストラの演奏があるわけではない。しかし、彼女と踊る時間はゆったりとしていてどこか楽しかった。踊っていてこのような感覚になるのは今回が初めてだ。こんな楽しい機会はもうなくなってしまうのか。彼女をこちら側に引き込むことができれば、また共に踊ることができるのだろうか。いやいやいやいや、私は何を考えている!?私は第一王子のフローズだ。そう簡単に籠絡される訳がないだろう。いや、もう遅いのかもしれない。
私は彼女のことが好きになってしまっている。
人を好きになるのなんていつぶりだろう。私は、生まれたときから周りの人々に利用され続けてきた。そんなことに気づくのはそう時間はかからなかった。それからは、信頼できる側近以外は周りに置かないように徹底してきた。そう、利用されないために。これは私の人生なのだ。誰かに利用され続けるのはごめんだ。しかし、彼女――リーナリア侯爵令嬢は違った。一生懸命に俺を振り向かせるために今まで努力してきたのだ。これまで、血の滲むような努力をたくさん積み重ねてきたのだろう。そんなリーナリア侯爵令嬢と婚約したい。婚約して、もっと彼女のことをもっと知りたい。心の底からそう思った。
「リーナリア侯爵令嬢」
踊るのをやめて彼女の目を見る。そして、私はリーナリア侯爵令嬢の前に跪いた。
「私と婚約してくださいませんか」
私がそう告げると、リーナリア侯爵令嬢は一瞬ポカンとした表情を浮かべた。まさか、私から婚約の申し入れをするとは思いもよらなかったのだろう。フリーズしてしまっている。
「リーナリア侯爵令嬢?」
私がもう一度声を掛けると、我に帰ったような表情をした。そんな仕草がとても可愛らしい。リーナリア侯爵令嬢は少し微笑んでから
「はい。喜んで」
と返事をした。私はリーナリア侯爵令嬢の手の甲に軽くキスをしてから、立ち上がりまた踊り出す。すると、リーナリア侯爵令嬢は私に質問してきた。
「なぜ急に私を婚約者にしようと思ったのですか?」
「貴女の仕草を見て、貴女のことが好きになりました。貴女はとても素晴らしい女性ですね。第一王子である私が保証します」
「私、第一王子殿下を惚れさせることに成功したのですね」
「はい。第一王子殿下なんて堅苦しい呼び方をやめてどうか、フローズと呼んでください。」
「ええ、フローズ殿下。私のこともどうか気軽にリーナと呼んでくださいませ」
「リーナ。これからよろしくお願いします」
「ふふ、出逢ってからまだ1日も経っていませんよ、私達」
「そうですね、私達はもうこんなに親しくなっています。それは貴女の恋心のおかげですよ」
フローズは優しそうに笑った。フローズが人前でこんな風に穏やかに笑うなんて生まれて始めてだろう。それほどまでに彼の心は冷たく冷え切ってしまっていたのだ。そんな彼の心を溶かしたのは陽だまりのような公爵令嬢。この2人ならば、共に国を暖かく照らせるのであろう。




