終わりと始まり
この作品が初作品なので読むに耐え難いところが多々ありますが、どうぞ暖かい目で見守っていただけると幸いです。
朝日がカーテンの隙間から差しこんでいる部屋にピピピという携帯電話のアラーム音が鳴り響く。
「……ん」
自分は目を開けずベッドに寝たままサイドテーブルに手を伸ばす。
目を閉じているため携帯を取るのにすこし時間がかかったがアラーム音が鳴っている携帯を無事手に取ると顔に近づける。
そしてようやく目を開くと携帯の煌々と光っている画面が見える、そこにはSTOPという文字と八時二十分といる時間が表示されていた。
「八時か、そろそろ起きるかー」
独り言をあくび混じりにをボソッと言うと、とりあえず携帯のアラームを止め体を起こす。
「……ん?なんだこれ?」
ふと、掛け布団の上に何かものが乗っているのに気がついた。
「あー、本か、そういえばしまってなかったな」
と言いながら『世界の戦車と日本の戦車』と表紙に書かれている本を手に取る。
そして本を開くとペラペラとページをめくり、昨日まで読んでいたところの続きを読む。
「ていうかいいよなー、ドイツ戦車とかは結構現存してる戦車あって、四式中戦車なんかこの世にはもうありませんよ、まぁ、仕方ないよな試作車二輌しか作られてないんだし比べるほうが間違ってるよな」
と独り言を言っているとピピピと携帯の方からまたアラーム音が鳴りだした。
「やべっ、十分たってんじゃん」
時間は八時三十分になっていた。
アラームをとめ、急いでベッドから立ち上がる。
伸びをした後、本を本棚に戻し一階のリビングへと階段を下りる。
すでにリビングには誰もいなかった、もう八時三十分だ親や妹は仕事や学校に行っているだろう。
自分の高校は十時までに行けば良いと少し遅めだったが、ここから五十分ほどかかるところにあるので九時くらいに家を出ないと間に合わなかった。
トイレや歯磨き、顔を洗うなどの事をした自分は朝食を食べていた、朝食と言っても焼いたベーコンにスクランブルエッグそしてスープにパンなどというオシャレなものではなく、納豆とご飯だ、まぁ結局一番美味しいんだけどねということを思いつつ黙々と食べていた。
朝食を食べ終え、長袖に長ズボンという一般的な制服を着替え終わった頃には八時五十分になっていた。
「んじゃ、行きますかな」
準備を終えた自分は、教科書と暇つぶし用の本が入った手提げカバンを肩にかけ、「行ってきます」と誰もいない家に向かって言ってから、玄関を出て最寄りの駅へと向かう。
電車の振動に合わせて自分の体が揺れる、残念ながら席には座れなかったが、電車の端の方に行けたため車体に体を預けカバンから本を取り出しペラペラと読んでいく。
三十分ほど定期的に揺られながら本を読んでいると自分が降りる駅の名前がアナウンスで読まれたので、パタンと本を閉じ駅に止まるのを待つ。
ボタンを押すとプシューという音とともに電車のトビラが開き自分も他の降りる乗客と一緒に歩いていく。
一、二分程度歩くと駅の外に出られ自分を含め各々が目的地へとバラバラに歩く。
そこからさらに八分ほど歩き無事目的地高校へと十時までに着くことができた。
自分の高校は普通の高校ではなく、通信制高校と呼ばれる高校だ、中学生のころなかなか学校に行けず不登校になってしまった経験があり、十時という遅い登校時間、毎日通わなくていいこんなところが自分と合い選んだのだ、となぜかそんなこと思いながら校舎の中へ入っていく。
「終わったー、疲れたー」
そんなことを呟きながら無事に今日の全ての授業を終えた自分は、下駄箱から靴を取り逆に上履きを下駄箱にしまう。
靴履き、つま先で地面をトントンと叩いていると
「一緒に帰ろうぜ」
自分の後ろからそんな元気な男の声が聞こえた、だが自分はその言葉に反応しない。
なぜか?それは自分に掛けられた言葉ではないからだ、案の定後ろから「おっ、いいぜ」という返事が聞こえてきた。
……あれだ、自分はいわゆるボッチと言うやつだ。
元から話すのが得意ではなかったし、不登校の影響もあってか、自分から人に話しかけるという行為に対し物凄い苦手意識を持っているため、全く友達が作れないでいた。
人と話すのは嫌いじゃない、得意ではないがどちらかというと話すのが好きな方だ、だが話しかけられた側が迷惑ではないか?と毎回考えてしまいなかなか友達になろうなんて言い出せなかった。
そんなこんなでボッチ少年な自分は一人で学校の外へ出る。
空はすでに少し赤みがかっていた、なにせもう九月だ夏ではなくもう秋なのだ、夏では明るかったこの時間も、夕方のようになっていた。
そして自分は帰り道へと歩む。
自分は今十字路で信号待ちをしていた、なぜ信号待ちや電車の待ち時間はこんなにも長く感じるのだろうと考えていたとき、何かが見えふと左を向く。
「オイオイ、大丈夫か?結構速度出てるよな」
左に見えたのはかなり速度を出した大型トラックだった。
ここからかなり距離があるが何か嫌な予感がし、数歩後ろに下がる。
十字路に近づいているのにトラックはまだ減速しない。
だが、自分は別に逃げないで十字路に立っていた。 トラックは道路に沿うように左から右へと真っ直ぐ走っているので、急にハンドルを右にきりガードレールに衝突しながら突っ込んできない限り、あのトラックはただ自分の目の前を猛スピードで突っ切るだけだからだ。
しかも、居眠りや気を失っているという雰囲気は感じられなかった。
こう考えている時も、トラックは十字路にどんどん近づいてくる、そして速度を落とさずトラックが十字路を突っ切ろうとした時、十字路の奥から一台の乗用車が飛び出してきた。
それはいかにも左右を確認していないようだった。
その乗用車は右側面をトラックに物凄い速度で衝突され、こちらの方へトラックと共に向かってくる。
「あ」
自分は動けず只々向かってくる乗用車を見ているだけだった。
乗用車は自分の手前にあるガードレールをなぎ倒しながら自分と激突した、メキメキという音を立てながら自分を何メートルも吹っ飛ばす、自分はコンクリートの地面の上を何度も転がり回りようやく止まった。
腕はおかしな方向へ曲がり、内臓は機能しなさそうなくらいぐちゃぐちゃになり、体中のいたるところから血が噴き出していた。
もはや自分の腕と脚がどこにあるのかすらわからないくらい感覚が麻痺し、口からは唾液と血が混ざったものが垂れ延々とコンクリートを濡らしていた。
朦朧としているが意識はあった。どうなってんだ、そう思い目を動かす。そして見てしまった、見えてしまった、ぐちゃぐちゃになった手脚を、地面に広がる血の海を。
……これはだめかなぁ、そう思い目を閉じる。
なんかダメな奴だったな自分は、なんにも役に立ってないよな、ここで終わるのか嫌だな、こう考えているうちもどんどん頭の中が黒く塗りつぶされるように考えられなくなっていく。
そして最後にこんなことを思ってしまう、役に立てるようになってやり直したいなぁ。そんな叶うことのないだろう事を最後に自分は意識を手放した。
自分はここで死んだ。
ピトッと背中全体が何か冷たいものに触れている感覚を覚えた。
……ん?なんだ?冷たい?……いや、待てよ冷たいと感じているってことは自分は生きている?体が動かせない……目も開かない。
自分は置かれている状況を判断しようと必死だった。
寝ているのか、病院か?ていうか、車の運転手たちは大丈夫なのか?
そんな疑問や心配が頭をよぎる、とにかく自分がどうなっているのかを把握しようと動かない体を必死に動かそうとしている時。
「鈴木 柊司さん」
ビクッ!と動かない体が動いたと思ってしまうほど驚いた。
突然、しかもフルネームで呼ばれたら誰だって驚くだろう。
だがびっくりしたと同時に安堵する、少なくとも名前を言われたということは、ここは病院だろう。
するとまた、
「鈴木 柊司さん」
名前を呼ばれた、最初は驚きすぎてよくわからなかったが、どうやらその声の持ち主は女性らしい、なんとも温かく、そして優しい声だった。
気づけば少し体が動くようになっていた、指先に力を込め手を握ったり開いたりしていると、もう目が開くのではと思い、まるで久しぶりに目を開くみたいにゆっくり目を開ける。
そして自分が目にしたのは……
「ヒッ!!」
自分の体がビクッと体が小さく跳ねる。
自分がびっくりしたのに反応したのか、相手もまた少し体が小さく跳ねる。
そう、なぜ自分が「ヒッ!!」だなんて声を出したのかというと、自分が目を開けた時に見えたものが超至近距離の人の顔だったからだ。
「ご、ごめんなさい、びっくりさせちゃいましたね」
申し訳なさそうに相手は謝る。相手もまたびっくりしていたのか少し動揺しているような話し方だった。
「びっくりしましたよ、何で自分の顔なんかのぞき込んでるんですか?」
自分は相手の顔ではなく、周りが気になり周囲を見ながら質問する。
ここは白い空間のような場所だった。
病室っぽくないなーと思う。
「いや、なかなか起きなかったので、大丈夫かなー?と思って……」
一通り部屋を観察した自分は、体を起こし相手の顔を見ながら話を聞く。
「そ、そうなんですか」
自分はそんなぎこち無い返事しか出来なかった。
そう、気づいてしまったのだ相手の人がとてつもない美人だということに、最初は顔が近すぎたり、ちゃんと相手の顔を見ていなかったから気づかなかったが、今まで見たことのないくらい美人、いや、美少女だった。
自分を落ち着かせるためゆっくりと深呼吸した自分は改めて相手を見る、美しい女性を女神と表すなら間違いなくこの女性は女神と表現すべきだと思えるほど整った顔、吸い込まれそうなくらい透き通った青色の瞳、シルクを彷彿とさせる滑らかで上品な肩のあたりまである銀髪、痩せすぎず、太りすぎず完璧と言っても過言ではない体型、その体を包み込むように着ているのは、白を基調とし所々に金、青などの色で装飾されている服。
さっきまであんな近くに顔があったと思うと、相手にも心臓の音が聞こえそうなくらい鼓動が大きく速くなる。
やばい、落ち着けー自分落ち着けー、と心のなかでつぶやくが効果はない。
何か変だと気づいたのか、その美少女は話しかけてくる。
「大丈夫?辛いときは深呼吸だよ」
そう言って自分の背中に手を当てる、温かく柔らかい手だった。
だが冷静になるどころか、逆に背中に手を当てられたことによって自分の鼓動は倍になっていた。
ドクドクと鼓動がうるさい。
「ほらほら深呼吸、吸ってぇ……吐いてぇ……」
と半ば強制的に深呼吸をさせらるも一向に落ち着く気配がない。
自分がこういうのにこんなに弱いとは、と自分の不甲斐なさに落胆していると、
「落ち着い……っ……ふふっ、あっはっは!」
急に美少女がこらえきれなかったみたいに肩を大きく揺らし笑い出す。
何が何だかわからずポカンとする。
「ちょっと私が人より可愛いからってそんなドキドキしないでよ!あははっ!」
そんなことを言ってさっきまで優しく背中に触れていた手で、バシバシと自分の背中を叩きながら言う。
うん。この子は自分をバカにしているらしい、そう感じ取った自分は少しイラッとするが、ドキドキしていたのは事実であるため何も反論できない。
「いやーごめんね、我慢しようとしてたんだけど面白くなっちゃって、こんな露骨に反応されたの初めてだったから、ふふっ」
と言って自分の目の前に移動する。
「別にいいんですけど……」
さっきまであんなドキドキしていたのがバカらしく、恥ずかしくなり冷静になる。
そこで自分はふと思い出す。
あ、そういえば事故に遭ったんだ、と目の前に居るこの子のせいで完全に忘れていたが、自分はかなり大きい事故に遭って、ここがどこかわからない状態だった。
ていうかこの子も何者なんだ?とても看護師などとは思えないが……
こういう時は本人に聞くのが一番いいと思いこんな質問をする。
「そういえばなんですけど、ここってどこなんですか?そもそもあなたなんですか?」
そんな質問を今だ肩を少し揺らしている、目の前の美少女(性格悪し)にする。
「あ、」
完全にそんなこと忘れていました、みたいな間の抜けた返事が返ってきた。
「あ、じゃないですよ、ここいったいどこなんですか?あなた何者なんですか?」
さっきと同じ質問を繰り返す。
「ごめん、ごめん完全にそんなこと忘れてたわ」
そう言って目の前の美少女が深呼吸をする。
先ほどのふざけた雰囲気から真面目な雰囲気に変り、思わず自分はツバを飲み込む。
そして目の前の美少女が何やら決心したような顔をすると、口を開く。
「鈴木 柊司さん」
「はっ、はい」
急に名前を呼ばれ、身構える。
「あなたはあの事故によって命を落としてしまいました、そしてここは死後の世界というところです。」
そんな信じられないようなことを言われた。
だが何故かその言葉は事実として受け止められた。
「じ、自分が死んだ……?そ、それじゃあなたはいったい何者なんですか……?」
自分は震えた声で質問する。
「私、ですか、私はいわゆる神というものです、女神のリリアといいます」
サラッと言われる。
意味がわからず、ゆっくりとその言葉を咀嚼する。
神?神……神、神!?
その意味を理解できた瞬間、ブワッと全身の毛穴が鳥肌が立つ。
正直神がなんなのかは知らない、だが人知を超えた存在であることは確かだ。
何故そんなものが自分の目の前にいるのか、神とはどんな存在なのか、そんなことを考えていると、
「あ、でもあなたの世界の神ではありませんよ」
自分の世界の神ではない?
そう疑問に思っていると、
「ほら、異世界というものです、私はその異世界の神なのです、リリアというのもあちらの言葉です。」
異世界……神もまだ受け入れられないのに異世界もあると知った自分は頭を抱える。
異世界の神だがそんなもの信仰した覚えはないぞ、どうなってんだ。
そこで自分は思い切って女神リリアに問う。
「あ、あの、女神様質問なのですが」
「なんですか?あとリリアでいいですよ」
「り、リリア様なぜ私の前に現れたのでしょうか?」
質問を聞きうんうんと、頷いた女神リリアは口を開く。
「そうですね、本題に入りましょうか」
本題?なんだろうか、まったく見当もつかない。
これからどんな事言われるのだ?と自分は身構える。
しかもわざわざ異世界の神が自分のところに現れたのだ、普通のことでは無い。
お前には地獄に行ってもらう、とかだったらどうしよう、と嫌なことばかり考えてしまう。
そして、女神リリアは口を開く。
「異世界、救ってみませんか?」
言われた言葉は自分の予想を斜め上にいくものだった。
「異世界……」
異世界なんかあると言われたことに衝撃を受ける。
しかも、今あの女神「救ってみませんか?」と言ったか?そもそもなぜ異世界は救わないといけない状況になってんだ?
「い、異世界はどんな状況になっているのですか?」
自分は唖然としながらも必死に頭を動かし、質問する。
「なぜそんな状況になっているかですが、別に今すぐ異世界が滅びるというわけではありません。異世界には人族と人ではない他の種族がいて、他の種族の一部、魔族と言われる種族が長年人族と争っていて、このまま戦っていけばおよそ百年後には人族は滅亡してしまうのです。そこであなたを異世界に送りだし、魔族を討伐または抑え込んでほしいのです。転生というやつですね」
聞けば聞くほど自分には無理に感じる。
自分には別に特別な力があるわけでもない、めちゃくちゃ頭が良いなんてことも無い、適役は他にもっといると思ってしまう
「自分にそんなことできるとは思えないんですけど、しかもなんで自分なんですか?他にいないんですか?」
「なぜ自分かですか、たまたまと言ったら終わりですけど、理由を挙げるとしたら、やはり若いからということが一番の理由です、私の力は亡くなった年齢で異世界に送ることができるというものです。申し訳ないけどヨボヨボのおじいさんやおばあさんを送っても何かできるとは思えないですし、何回かあなたとは違う民族の方を送ろうとしたのですけど、何やら送ったらもっと世界が悪くなりそうな民族がいたり、私が神だと告げたら、お前は神なんかじゃないだとか言って暴れ出したりしたのでそういう方たちは遠慮させていただきました。あなたと同じ日本人なら何人かはもう送り出していますよ、とても活躍してくれてます。」
話の途中で出てきた民族には何やら心当たりがある、女神も案外苦労しているらしい。
だがそんな事言われても、自分の気持ちはあまり変わらない、同じ日本人が何人かすでに異世界に行っているというのは心強いが、自分が役に立つとは限らない。
「やっぱり自分なんて役に立たないと思うんですけど、今まで送ってきた日本人とは違いますし……」
そんな弱気なことを吐いていると、
「いや、大丈夫ですあなたも多分活躍できますよ!」
女神が自分を励ますように言う。
いつの間にが女神の口調が砕けた感じになっていた。
「た、多分?」
ちょっと気になったところを聞き返していると、女神がゴホンと咳払いをする。
「あなた、私が何者か忘れていない?」
自分の前で仁王立ちをして、自信満々にそんなことを言う。
「覚えてますよ、女神様ですよね」
「そう、そうよ、女神よ、神にはいったいどんな力があるでしょう?」
どんな力?死んだ人をそのままの年齢で生き返らせる力があると言っていたそのことだろうか?でも、なぜ今さらそんな事を……と考えていると、
「正解はーっ、力を与えたりできる力です!」
クイズの答え合わせのように教えてくれた。
「力」が多いので混乱してしまいそうだが、つまりは……つまり?どういうことだ?
「えっと、つまりどういうことですか?」
「……察しが悪いわね、要は力を人に与えて、そこそこ強い状態で異世界に行けるってわけ」
そういうことか、と自分は理解する。
きっと送り出された日本人達もこの女神から力を分けられているのだろう、そしてもし自分が異世界に行くのであれば力を分けようということか。
それはなかなか興味がそそられる。
「では自分が異世界に行く、と言ったら力だったりを与えてくれるということですよね」
「その通り」
女神はビシッと親指を立て肯定する。
「ちなみになんですけど、最初に行った日本人達はどんな力を与えたんですか?」
力を分けると言われたが、具体的な事は分からないため聞いてみる。
「どんな力……」
女神は少し思い出そうするような仕草をした。
「力と言っても加護、祝福を与えるとかそういうものではなくて、例で言うと物凄い剣術、魔術、魔法の才能だったり、少し先の未来がわかる、なんて物も、後は私が創造した剣なんかも与えたわね」
サラッと魔術、魔法があるなんて知る。
だが、こう聞くと結構何でもありな感じたと思う。
「それって、リリア様が一方的に与えたものなんですか?」
もし自分が異世界に行く事になったらそこはかなり重要だ。
「いや、最初は一方的に与えたけど、最近はあれが欲しいだのこれが欲しいだの言われるから、要望をできる限り聞いているわね、あなたもないの?」
そうか、できる限りか……。
もはや自分は異世界に行く方に傾いていた。
「もしもなんですけど、現実にある物が欲しいとなった場合できますかね?」
そんな質問をすると、もしかしてコイツ行くか?と感じ取ったのかやや食い気味に回答してくる。
「ええ!そんな事をちょちょいのちょいよ」
まじかよっ!
返事を聞いた瞬間もう異世界行きますと言おうかと思った。
だが待て!と心のなかで叫ぶ、今自分が欲しいものはもうこの世に現存していないそれでもいけるのか、それを聞かないと。
「えっとですね、今自分が欲しているものは、もうこの世に現存ししてないのですけど大丈夫なんですか?」
いよいよ終盤だ、もしこれで「はい」と返事が来たら自分は異世界に喜んでいく、だが「いいえ」だった場合は行くには行くが、何ももらわずに行きたい。
そして女神の返事は……
「ええ、大丈夫よ」
答えは、「はい」だった。
ヨシッと拳を自分は握る、
ここで異世界に転生することを自分は決めた。
「ところで、どんな物を望むの?」
聞かれた自分は堂々とずっと憧れていたものの名前を言う。
「四式中戦車 チトです」
それを聞いた女神は、何やら懐から一冊の真っ白な本を取り出しページをめくる、そして少し読むと、
「分かったわ、四式中戦車 チトね、じゃ異世界に送る準備をするから少々待っててね」
女神が目を閉じ、口の中で小さく何か長い言葉をつぶやき始める。
ま、まずい大事なこと聞いてないぞ、と自分は思うが今話しかけるのはいささか気が引けた。
そんなこんなで話しかけるか、話しかけないかを悩んでいると、
「よしっ、準備がおわったわよ、あと五分くらいであっちに転生できると思うわ」
女神が言うと、床や壁、天井が淡く光りだす。
なかなか展開が早くて置いていかれそうになる。
五分、急いで質問しないとあっという間におわってしまうので焦る。
「あ、あの!四式中戦車の砲弾や燃料、整備、知識なんかはどうなるのですか!」
ここが一番大事な部分だ。
戦車があっても燃料がなければ動かせない、砲弾がなければ攻撃できない、このどちらかが欠ければ戦車はそこら辺の岩と変わらない。
それと整備、整備用具はどうなるのだろうか?整備できないのであったら、戦車が戦車の役目を果たせなくなるのは早い。そもそも砲身に寿命があるので必ず終わりは来るのだが。
知識は四式中戦車を調べていたため少しあるとしても、動かせるほどの専門知識は皆無だ、やはりここはやりながら覚えていくしかないのだろうか?
自分が心配していると、
「あなたが異世界に転生したら、砲弾と機銃の銃弾は魔力を使ってで生み出せるようにしておいたわ。燃料ですがあっちの世界の魔水って呼ばれるものが軽油の代わりになると思うわ。整備や修理だけど、修理は魔力を与えると直るけど、汚れとかは自分で落としてね。知識は転生した時に一緒にある程度は叩き込んであげるから安心してて」
真っ白な本を読みながら伝えた。
魔力とは一体何なんだとか、まだ聞きたいことは残るが一応最低限必要なことは聞けた。
一安心だな、と胸にそっと手を当てていると、
「そろそろだわね」
女神がそう告げてきた。
いよいよだ、そう思うと途端に緊張する。
「分かりました」
自分がそう返事をすると、床に直径三メートルほどの神々しく光る魔法陣が展開される。
「鈴木 柊司さん、あなたが無事に世界を救ってくれることを祈っています」
女神が少し真面目になっていた。
女神は魔法陣から出て、両手を魔法陣に向けて伸ばす。
「では、行ってきます」
それだけ伝えると女神は微笑む。
自分の下にある魔法陣が光の柱のようになり、魔法陣と魔法陣の外の世界を光が切る。
「ええ、行ってらっしゃい」
自分は女神のその言葉と同時に意識を手放した。
終わったと思っていた人生がまた動き出す。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。前書きにも書かせていただいた通りこの作品は私の初作品です。全く話が進まないやおかしい部分があるなどと言った、ご指摘やご感想を送ってもらえると嬉しいです。投稿頻度についてですが、できる限り早く投稿したいのですが、この話だけでも一週間以上掛かっているので一週間から二週間に一度のペースで投稿したいと思っています。こんなに執筆速度が遅いのは才能がないのか、初心者だとこんなもんなのか、どちらかと問われれば前者だとは思いますが、頑張って続けていきたいと思います。