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ミステリー小説創作論

作者: さば缶

 ミステリー小説を創作する上で、まず注目していただきたいのは“読者に謎を意識させる導入の作り方”です。

いきなり大掛かりな殺人事件をぶち上げても、読者がその世界観に入り込む前に混乱してしまう可能性があります。

むしろ、最初は小さな違和感を提示し、それを徐々に拡大させる方が効果的です。

たとえば“テーブルの上に置いたはずのグラスが、気づくと一ミリほどずれた位置にある”程度の変化。

こういった微妙な現象にこそ、人は不審を抱きやすいものです。


 導入で読者を惹きつけるコツは“日常のズレ”を匂わせることにあります。

本当に大切な伏線は、派手な演出よりも、さらりと混ぜ込んでください。

たとえばヒロインが髪型を変えた瞬間に感じる主人公の違和感や、何気なく手渡されたメモに刻まれた意味深な数字など。

こうした小さな疑問が後々大きな謎へと繋がり、“あれが伏線だったのか”という快感を読者に与えるのです。


 次に、物語中盤で忘れてはならないのが“読者の推理を誘導するための手がかり”です。

ミステリーでは、手がかりの配分や提示のタイミングが極めて重要となります。

もし一気に真実へ直結する証拠を並べてしまえば、読者は序盤で謎を解いてしまうか、逆に混乱するかのどちらかです。

バランスを取りつつ、“ここでこういう事実が出てくるのは不自然ではないか”と読者に考えさせてください。

その一瞬の思考が、物語へ没入する大きなきっかけになります。


 また、ミステリーでは“偽の手がかり”を使うのも効果的です。

いわゆるレッドヘリングですね。

疑わしい人物Aに繰り返し怪しい言動をさせ、読者の目をAに向けさせる一方で、実は真犯人はまったく別の人物——そんな展開は定番ながら、上手く扱えば強いインパクトを残せます。

要は読者を惑わせる手立てを複数用意し、結末の瞬間に「騙された」と気づかせるのがミステリーの醍醐味なのです。


 ただし、読者が“納得”できる形でオチを作るのも重要です。

ミステリーは“理詰めの論理展開”があって初めて快感を生みます。

「読者を騙す」ことを目的にするあまり、無茶な超展開を入れすぎると、かえって冷められてしまいます。

犯行のトリックや犯人の動機に一定の整合性があれば、衝撃の結末でも読後感は悪くありません。

むしろ「そこまで仕込んでいたのか」と感嘆させられれば大成功です。


 最後のどんでん返しを演出するには、“読者の思い込み”を逆手に取る方法があります。

たとえば視点を限定した一人称での描写をフル活用し、読者に情報を制限するのです。

主人公が見ていない場面を一切描かないことで、真相に近づく手立てを意図的に隠せます。

そのうえでクライマックスにおいて“実は主人公こそが真犯人だった”など、読者の思考をくつがえす事実を提示すると、強烈なインパクトを与えられます。


 では、具体的な構成例を挙げてみましょう。

第一章では日常のちょっとしたズレを提示し、登場人物同士の関係を薄く匂わせます。

第二章から第三章あたりで小さな事件、あるいは謎めいた出来事を次々と起こしつつ、中心人物に疑惑がかかるよう仕向けてください。

このとき、読者が“Aこそ犯人ではないか”と考え始めるように仕掛けるのがポイントです。

ただし、真の手がかりはさりげなくBやCの発言の中に混ぜ込んでおく。

第四章で証拠集めが進み、クライマックス直前に“一見犯人はA”と読者に思わせます。


 そして最終章において、“犯人は実はC”という形で真実を明かしましょう。

ただ暴露するだけでなく、“すべての手がかりがCを指し示していた”証拠を次々に示して読者を納得させます。

ここで重要なのは、“読者に振り返って理解できる”仕組みを用意することです。

伏線を大きなパズルピースのように並べ、ひとつずつハマっていく快感を演出してください。


 ここまでが、ミステリー小説の基本的な流れです。

しかし、本稿では最後のどんでん返しとして、さらに一手を加えることを推奨します。

読者の予想を上回るだけでなく、“現実を侵食するようなオチ”を提示すること。

ミステリーなのにホラーめいた空気を纏う結末——それこそが忘れられない読後感を生むのです。


 例えばどうすればいいのか。

ここでは、あえて“この創作論を読んでいるあなた”を物語の一部に引きずり込む方法を考えてみましょう。

たとえば物語の終盤、探偵役がすべてを解明し、真犯人に迫るシーンを描く。

普通なら“犯人逮捕”か“自首”で幕引きですが、そこで次の文章を入れます。

「ただし、最後にもう一人、処理すべき存在がいる」

読者は誰のことだろうと身を乗り出すでしょう。


 この時点で、犯人が“次に狙う標的”を言及させるのです。

ただし、それを“物語の外”に向けるよう演出します。

探偵や犯人が、なぜか“読んでいる相手”の存在を知っているかのような言動をし始める。

「お前がすべてを知ってしまったからには、生かしてはおけない」

ここでは読者が「まさか自分?」と疑う程度で十分です。

まだ直接的な描写は避けましょう。


 そして本編が終わったあと——作中の登場人物が“実はこの創作論そのものを利用して、次の犠牲者を選定している”という構図を提示します。

例えば、こんな一文を加えてみてください。

「あなたが読んでしまったミステリーの筋書きは、すでにあなたの個人情報を把握している。

なぜなら、ここまで読み進める過程で、あなたが無意識に送信したデータが揃ったからだ。

さあ、いつどこで……狙われるのだろうね」


 読者はそこで「いや、そんなこと現実ではあり得ない」と理性で思いつつも、一瞬ゾクッとするはずです。

自分が物語に巻き込まれたような錯覚が生じれば成功です。

この感覚こそ、本稿が目指す“現実を侵食するオチ”の真髄と言えます。


 最後の締めとして、読者に後悔させる言葉を添えましょう。

たとえば、次のような独白をイメージしてください。

「読み終えた今、この創作論があなたの手元に残る限り、決してあなたは自由にはなれない。

どこかで微かな足音がしないか。

鍵をかけたはずのドアが、先ほどとはわずかに角度を変えていないだろうか。

もし、そうだとしたら……あなたはすでにターゲットだ」


 こう書かれてしまうと、読者は“まさかね”と半笑いしながらも、ひそかに自分の背後や部屋の扉を気にします。

そこにこそ“後味の悪い恐怖”が生まれるのです。

ミステリーという推理ゲームの興奮に、最後の一瞬だけホラーの不安感を混ぜ込む。

この手法は使いどころさえ間違えなければ、非常に強力なインパクトを残せます。


 総じて、ミステリー小説は“謎解き”という論理的快感を追求する一方で、読後に予想外の余韻を残す工夫が必要です。

明快な解決ばかりではなく、ほんの少し歪んだ闇を差し込むのです。

そして、もしあなたがこの論を読んで、さっそくミステリー創作に挑むならば……どうか気をつけてください。

なぜなら、この章を最後まで読み込んだという事実が、すでに誰かに把握されている可能性があります。

もしドアの外で足音が止まった気がしたら、あなたは振り返らずにいられますか。


 創作論をただの机上の学問だと思い込んだまま終わらせるのか。

それとも、自分に迫る死角を感じ取り、一瞬でも後悔の念に苛まれるのか。

あなたがこの文章を閉じたとき、果たして何事もなく日常へ戻れるのかどうか。

どうぞ、自己責任でご確認ください。

もし夜道で誰かの視線を感じたり、部屋の奥に不自然な暗がりを見つけたりしたら——その時に初めて、あなたはこの創作論を読んでしまった事を心底悔やむかもしれません。

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