第十三章
真坂の仕置き器具の三角木馬で、陰部を激しく損傷、さらに下半身を焼けただれさせた多美は、もはや歩くこともできず、血液と悪臭の放つ体液で畳を汚しながら、数多との共有の部屋の隅にぐったりと横たわっていた。その三角木馬にも、多美の焼けてはがれた皮膚がべっとりついていた。
「邪魔なんだよ、おらっ!」
数多は部屋の隅に横たわった多美の脇腹と背中を何度も蹴った。想像を絶する痛みを絶え間なく加えられ、多美は廃人のようになっていた。
「殺して…ください。お願い、殺して…」
壊れた機械のように呟くだけだった。数多は多美の腕を引っ張り上げ、無理やり立たせた。
「畳まで汚しやがって。おかんの手伝いしてこい、おらっ!」
数多に殴打され、多美はまた畳の上に崩れ落ちた。ふいに数多の視界に何かが飛び込んできた。それは、皮膚がはがれ、溶けたようなどす黒い赤い肉がのぞいた多美の足だったが、そこで数多は顔をゆがませた。溶けかかっている多美の足の肉に、無数の「目」らしきものが浮いていた。瞼のない魚の目のようなもので、どれも血走り、大きな瞳孔でこちらをじっと見ている。それだけではなかった。赤黒い肉のような部分は次第に多美の両足全部と、腰の部分を覆い始めていた。
「な…」
更なる虐待を加えようとした数多は思わず手を止めた。彼の視線は多美の足から、激しく裂けて焼けただれた陰部へと移った。そこから何かがうごめいて出ようとしていた。ピシャッという音とともに、それが姿を現した。これも肉食魚の顎のような、牙の生えた口だった。
朝、けふ子が台所で猫瀉汁を作っていると、息子の数多が部屋から出てきた。
「あのメスガキは?」けふ子がぶっきらぼうに尋ねると、数多は「知らねえ。」と吐き捨てるように言って靴をひっかけるように履くと、朝食も食べずに学校に向かった。
「何やってんだよ。」
いきり立ったけふ子が、多美を引きずり出そうと奥の部屋に行きかけた時、背後で
「四年一組の、真坂多美の家はこちらですか。」
という声が背後で聞こえた。
けふ子が振り返ると、初老の男が立っていた。それは狗吼小学校の校長、下呂だった。
「二日前から学校に来ていないんですが、どうかされましたか?」
下呂に言われ、けふ子は、
「ああ、奥の部屋にいるはずですよ。今連れてきますから。」
とぶっきらぼうに言うと靴を脱ぎ、奥の部屋の扉を開けた。
そこにいたものは、これまで誰も見たこともないと言っても良いほどおぞましいものであった。体の右半分の胸の上からはかろうじて人間の少女とわかるものであったが、それ以外は、赤黒い腐肉のような、ドロドロとしたものと化し、その肉の上に無数の目ができていた。ところどころ牙の生えた口のようなものまであった。もはや両足がどこにあるのかもすらわからない。さらにおぞましいことに、完全に腐肉と化した左半分の、本来ならば目にあたる場所に、大きな口が縦にぱっくり開いており、そこにも牙が生えていた。その口がテケリリ、テケリ、と妙な言葉を発していた。畳の上には多美自身の体液か、腐れ落ちた皮膚の破片のような、ゲル状のものが散らばっていた。
「いったいこれはどういうことですか!」
下呂が嫌悪感をあらわにしながら、問い詰めるようにけふ子に聞いた。
「知らないよ、あたしは一切知りません!」
けふ子はヒステリックに、下呂の言葉を遮るように怒鳴った。彼女の剣幕に思わずたじろいた下呂だったが、
「と、ともかく今すぐ処分しなければなりませんよ、これは。」
と言い残すと、逃げるように帰っていった。