7.教会(5)
少年の手を取り、地下へと向かう。地下は地上と同じくらい広い空間が広がっていた。まるで、島丸ごと上からかぶせているかのように見えるくらい広い感じがしたのだ。
「大きいね」
「そうね。それにしても、不思議な空間だけれど……」
スルーズの言葉は目の前にある大きな木によって紡がれることはなかった。その木は、地上にある御神木とまったく同じ見た目をしていたのだ。正確に言えば、地上にある樹よりもここにある樹の方が生き生きとしている。まるで、上にある樹から栄養を吸い取っているかのように。
その木を見て、少年は目を細めてなにかを観察している。目的が結局なんなのかよくわからないから、声をかけようにもむずかしいのだ。とりあえず、樹に近づいてみる。そうすれば、鑑定をすることができた。
『フィレス・レ・テロス
樹は大きく成長する木で、萎んだ葉が特徴的。
葉はハート型で、短い葉脈が特徴的。
この木は樹皮が丈夫で、空気を汚染する能力がある 』
この書かれている内容を見た瞬間に驚いた。その内容は、上にある樹とほとんど同じように見えてところどころ異なっていたからだ。「空気を汚染する能力」これは、上にある御神木と相反する能力である。しかし、こっちの樹が上の樹の栄養も吸収しているのだとしたらそれはそれで、問題なのかもしれない。
「この木、上の樹とほとんど同じなのに汚染する能力あるのまずいと思うんだけれど」
「……そうね。それこそ、これが原因でダンジョンの発生した可能性もあるものね」
「ん?ここに、ダンジョンがあるの?」
「え、う、うん」
少年が急に声をかけてきた。いま、話題のダンジョンを知らないなんてことがあるのかと驚きが現れて少しどもってしまった。それにしても、あんなにもプレイヤーが来ているのに知らないなんておかしな話ではある。だいたいの人の目的がそのダンジョンなのだから。
つまるところ、この子が知らないというのは嘘に近い。それでも、ダンジョンの話を聞いた時に驚きながらこちらをまじまじと見つめる目が嘘とは思えなかった。
「ふーん、ダンジョンね……」
「そういえば、なんでここに来たの?」
「それを君が知る必要はまだないよ。時がきたら自然と知ることになるだろうしね」
その言葉を残して少年は一人でどんどんと中へと進んでいく。それを見送るだけでもよかったのかもしれないけれど、そんな退屈な状況にするよりもついていくことがいいと思った。もともと、好奇心が旺盛だったのだと思う。けれど、あの家に入ってからだんだん心が死んでいた。痛いのは嫌い。怖いのも嫌い。けれど、ワクワクすることは大好きだった。
「シオンは彼についていく気ですか?」
「うん。気になっていることがあるんだ」
「そうなの。シオン、これは忠告です。彼についていってもいいですが犠牲が付きものになりますよ」
「どういうことなの」
「そのままです。ここは、私たちがくるには早いと感じる場所だということです。それこそ、摂理に反しているということです。いえ、反してはいないのでしょうけれども」
「なぞとき?私、そういうの苦手なんだ。時間かけてもいいならできるけれど、そうもいかないでしょう」
「わかりました。シオン、後悔のない選択をしてくださいね」
スルーズは優しい手で俺の頬を撫でて少年の後を追い始めた。その背中がどこか、覚悟を決めたような感じがしてなんだか俺まで嫌な予感がしてきた。俺のこの予感は当たることがあるのだ。それこそ、あの時の母親と離れ離れになったときもそんな感じがしたのだ。
少年はなにか目的をもって歩いているのがわかる。なんで俺がそう感じるのかと聞かれれば、広くて入り組んでいるこの場所で迷いなく進んでいくのを見るとそう思うのだ。
「さて、ここらへんかな」
「なにが、ある……」
おれは、質問しようと思って視線の先をみれば大きな扉があるのを視認することができた。




