5.クリティカルヒット
起動すれば、干し草のベッドで目が覚める。快適だったとは到底言えない感じで体がバキバキになってはいる。それでも、大けがをした時の寝起きと比べれば状態がいいことは明らかにわかる。
「とりあえず、初めてログインしたときに使った場所に行けばいいんだよね?」
さっきの場所に戻ればいいんだよね。少し離れている場所なだけですぐにたどり着いた。そこには、ガードナーの姿があった。彼に、声をかける前に向こうがこちらに視線を向けてきた。それは、まるで俺がここに来るのを事前に予測していた可能ように視線を向けてきたのだ。
システムだからと言われればそこまでかもしれないが、それ以上に生きているように見えるのだ。だって、それ以前の行動が、素振りをして鍛錬をしているように見えたからこそ、そう錯覚してしまったのだ。
「来たな。早かったじゃないか。とりあえず、次の訓練に移るぞ。次は、クリティカルヒットになる。ここをでる前に1回だけしていたな。それが、繰り返し出せるようになるといいな。それじゃあ、次の訓練を言い渡す。クリティカルヒットを10回連続でやれ」
「じゅ、10回ですか?そんなにできることなんですか?」
「ああ、できる。お手本を見せよう」
そういって、ガードナーは案山子の前に立つと剣を構える。その姿は歴戦の猛者のソレで、威圧感だけでも俺とは段違いだった。見ているこっちが怖くなるくらいで、この場にいるのが嫌になる気持ちが溢れてくる。そのまま、剣を振る。その軌道はお手本みたいに案山子にあたる。そのまま、案山子に連続で当てていく。徐々に音がカン、カンとなっていたのが、ガッ、ガッと音が変わっていく。剣の軌道も青かったものが赤に変化していく。そして、10回目の軌道が見えたときその色は銀色に起動に変化していた。そのまま、ガードナーが剣を打ち付ける。15回目になるタイミングで一瞬のタメが見えた。そして、そのタメの姿勢からでた軌道は黄金の色をして案山子にあたるとその案山子は壊れていく。
ガードナーは壊した案山子を無視してこちらに目をやる。まるで、ここまでできるようになれと言ってるかのように。それも、ミッションに対しての必要回数ではないのにだ。
「それじゃあ、お手本は見せた。やってみろ」
その言葉を合図に案山子が現れる。それは、前回の案山子と同じく少し小ぶりではあるが左右には揺れていないそんな案山子だった。
『クリティカルヒット10回連続でせよ』
目の前にある案山子に、レイピアで撃ち込み始める。しかし、前に見た軌道がしっかりとは見えなくてなんだか悔しい。なにか発動条件があるのかもしれない。そんな風に考えてみた。そうすると軌道が見える条件があるのかもしれない。あの時は正しい姿勢と力加減を気にしながら武器を振ったのだ。そうとなれば、それが条件なのだろう。
正しい姿勢、正しい姿勢。そんな風に意識したところで見えるようになると思ったが見えない。ならば、無意識にしなければならないのか?そんなことが可能なのか?
「でも、やらないと話にならないか」
レイピアをきれいな姿勢を意識しながら振りかぶる。うっすらと見えるだけで綺麗な軌道とははなはだ言いづらいがそれでも見えるようになってきたのだ。これがクリティカルヒットでいいのか確認をすれば
『クリティカルヒット連続回数2/10』となっていた。後半2回のうっすらと見えた軌道がクリティカルヒットだと判定されたのだろう。それならば、それに忠実に実行しようと思った。その矢先に目に入ったミッションの文言があったのだ。
『クリティカルヒット熟練度1%』ゲームの定石ではクリティカル率は装備などで上昇するのが普通だと思っていたのだ。しかし、そうではなかったのが驚きになる。
ちらりとガードナーのほうを盗み見るが特に表情の変化など無くただただ、淡々とこちらを見ているだけだった。アドバイスも何にもくれない様に見えたからあきらめてひたすら頑張るしかないのかもしれない。
レイピアを振る姿勢を気にしながら永遠と同じことを繰り返す。うっすらと見える黄色い軌道をなぞるようにレイピアを振るのだ。それが、徐々に濃くなることもなければ薄くなることもなくなるまでに失敗は何回も繰り返ししていた。
現在の最高記録は『クリティカルヒット連続回数7/10回』だ。これ以上うまくしようとしたら多分速度が必要になるのかもしれない。
「ステータスを振るしかないのか?」
「なんだ、まだステータスにポイントを振っていないのか?基本ここに来る奴らはもらった瞬間に振っているのに慎重なんだな」
「え、あ、はい、そうですね。どれに振ればいいのかとかもあまりよくわからなくて……」
「そういうことか。基本、クリティカルヒットは器用さと俊敏性が要求される技能だ。だから、DEXとAGIに振るのを推奨している」
「そ、そうなんですね。ありがとうございます」
ガードナーのアドバイスをもとにステータスを振ることにした。
『プレイヤー名:シオン Lv1 HP120 MP120
STR100 INT120 DEX100 AGIさ100 LUK200
チュートリアル報酬 ステータスポイント+5
初級レイピア熟練度100%報酬 ステータスポイント +4』
どのくらい振る必要があるのかいまいちわからないけれど、全部振るのは得策ではないだろうからとりあえずDEXとAGIをそれぞれ2づつ振ってみた。
『プレイヤー名:シオン Lv1 VIT120 MP120
STR100 INT120 DEX120 AGIさ120 LUK200
チュートリアル報酬 ステータスポイント+5』
これで、達成できなければさらにステータスポイントを使うしかないかな。とりあえず、考えているだけだったら何にもならないから行動に起こそう。姿勢を意識しながらまたレイピアを振るう。そうすれば、先ほどよりも黄色い軌道が黄金に近づいた色合いで軌道が濃く見えてきた。速さを上げたことによって、攻撃速度も上がっているのだろう。
つまり、ステータスの対応に関してはこういうことか。
AGIは移動速度だけだと思っていたが、攻撃速度にも関係してきているのだろう。DEXは姿勢を意識していたがそれに対して先ほどよりも適格になってきているから器用さ。なにかをするさいの姿勢だったりとかを意識しなくても行動しやすくなるのかもしれない。
MoAにおいて、連撃攻撃に関しては判定がシビアな場合とゆるい場合がある。ってクラスの人が話していたな。それも、結局はステータスに反映されてるのかな?
まあ、俺はどうせ誰とも話せないんだけどな。後で、ゲームのシステムについては調べてみるか。
「はぁ、はぁ」
どんだけ連続で攻撃をしても案山子を壊すくらいの威力が出ない。それでも、『クリティカルヒット熟練度 8%』に上がっただけでも成長だと考えるべきなのかもしれないな。高望みするべきではないんだろうけれども、やるからには期待に応えたいよな。
「もう、限界か?まあ、課題である10回連続は達成しているし次の試練に行くか?」
「だ、大丈夫です。まだ、できます」
息が上がっているがそれでも、連続で13回出来ているのだ。だから、15回だって夢じゃないんだと思う。だから、練習したいのだ。きっと、この後も大変になるからだったら頑張りたいと思うのだ。
そう思いながらまたレイピアを振る。最初のころよりも姿勢の意識も軌道の意識も明確にあるわけではないが、それでも成長しているのが明確にわかる。1回、2回とレイピアが突いていく速度が上がりながら攻撃がきれいに入っていく。それは、案山子の急所を狙うようにきれいに入っている。12回、13回、ここまではずっとできていた。14回目にクリティカルヒットではなくなっていたのだ。それが、今回は金色に近いがまだ薄い色の軌道をなぞる。
ピロン
『クリティカルヒット連続回数14/10回』
よし、成功した。最後は、お手本で見せてもらった少しタメを入れて攻撃をするのだ。これで、うまくいかなくてもきっと熟練度があがるからまた挑戦してみればいいのだ。
そんな風に思いながらタメの姿勢になる。誰に教わったわけでも、ガードナーがレイピアを使っていたわけでもない。それでも、レイピアでのタメの姿勢を自然と作っていたのだ。そして、無意識のうちに案山子に攻撃を入れる。その時、ずっとイメージしていた金色の軌道が目の前に見えた気がした。それと同時に案山子がまたもや壊れたのだ。
「ハハ、よくできたなシオン」
ガードナーがそんなことをつぶやいているような気がしたが、あまりにも疲れて視界がブラックアウトした。ゲームでも気絶とかあるんだな。現実に忠実だとは聞いていたけれど、ここまで忠実なのか。
こうして、俺は意識を手放した。