10.配達依頼と厄介な顧客
配達依頼は、街にあるとある機関に物を運んで欲しいというものだった。危険物でなければ、配達専門のNPCが運んでくれるらしい。けれども、危険物となればそうはいかないものだ。その危険物には、生命体が多く含まれており人などに危害を加えると判断される存在が大半なのだ。
今回は、液体だった。なんの液体なのかはよくわからないけれど、割ったりすると街全体に被害がでると伝えられた。インベントリに入れれば簡単だと思っていたが、クエスト中は使用不可となっていて手に持っていくことになった。幸いなことに、目的地が近いことがあって簡単に終わる依頼だと思っていたのだ。
「それにしても、厄介な依頼ね。インベントリがあるから簡単に完了とか思っていたけれど、そんな風には出来ていないのね。まあ、近くだしその次の図書館の方向でもあるからいい感じね」
「そうだね。壊さないか不安だけれど、気を付けていこうね」
少し歩きはすれど、物を運んでいるのを確認すると避ける人が多いのがわかる。NPCらしき人たちは、自身に被害が来ないことを願っているんだろう。その反面、プレイヤーは関心が無いようにしているがスルーズを見るとどこか悪い顔をする人や興味を示す人がいるのを確認できる。
なんで、そんな風に見られているのかはよくわからないけれど気にしない様にしないといけないと思い込むようにした。視線がものすごく気になるけれども早く配達を終わらせるのが先決だ。
「ここだな」
「結構、近かったね。これ、受け渡しができたらいいんだよ……」
話終わる前にドアが勢いよく開けられた。そして、手に持っていた液体の入ったものと一緒に倒れると思った瞬間、後ろから支えられたのだ。そちらを見れば、ルシが低い身長ながら倒れないように支えてくれていたのだ。
「あ、ありがとう」
どこか、頬が赤いルシにお礼を伝えてドアから出てきた人物へと目を向ける。スルーズがその相手の首根っこをつかんでいた。それも、宙に浮いている感じでだ。それだと、息ができなくなるかもしれないと思うんだけれど。
「は、離せ!ここから早く離れなければならないんだ!」
「その前に配達物を受け取れ」
「だ、誰からのだ!それを言われない限り受け取らないぞ!」
「シオン、誰からだと書かれている?」
「え、えっと、送り主は書かれてないかも。それでも、ここにいる人に渡してといわれてるんだよね」
「な、なら、俺じゃないだろ」
「ほう、ここには、他にも人がいるのか」
「も、もちろんだ」
「なら、そいつを呼んできてもらってもいいか。貴様のせいで、シオンが怪我を仕掛けたのにも落とし前をつけてもらわないといけないからな」
「い、いやぁ、そ、それは……」
なにか、困っているように視線を泳がせている。慌てて出てきているのから考えると、もしかしたらここにいる人は今不在なのかもしれない。その間に、空き巣のように侵入して何かまずいことをしてこの男が慌てて出てきたとも考えられる。そうなると、どうしようかと思った矢先に人が目の前の人が急に小さくなってどこかへと走って逃げてしまったのだ。
「どうしようか。もしかしたら、空き巣犯の可能性もあるよね?」
「すまない、シオン。まさか、小さくなって逃げられるとは思っていなかった。それにしても、開けっ放しのドアをどうしたものか」
「おい、そこで何をしいる!」
声のした方に顔を向ければ、そこには緑と白の服に身を包んだ男が立っていた。その男がこちらへとどんどん近寄ってくる。そして、なぜか俺の手を引っ張てきたのだ。
「っい」
「なぜ、ドアを開けている。貴様たちは何者だ」
「配達に来たんです!」
「そんな、わかりやすい嘘をつくな。ここにあるものを盗みにきたんだろう。その手に持っているものが何よりも証拠になるだろ」
「え、え、話を聞いてくださいよ」
こちらの言葉を無視して、建物の中へと引きずりこまれていくことになった。建物の中はきちんと整理されているのに、一角だけ荒らされた形跡が残っていた。それが、さらに俺たちを犯人に仕立て上げる証拠のように思えて怖く感じた。そして、その男がさらに口を開いてなにかをまくしたてるようにこちらを攻めてくる。スルーズがそれに対して反論する。
上手く息が吸えない。なんでなのかわからない。息が吸えないから、頑張って息を吸おうとするのだ。しかし、そんな意図とは反対にどんどん酸素が薄くなっているような感じがするのだ。
「おい、息を吐け」
「ヒュー、ヒュー」
男が肩を揺さぶってきた。視界の片隅でスルーズの不安そうな顔とルシがどこか恐れている顔でこちらをみている。そんな顔で見なくても平気だよ。と伝えたいのに声が出ない。それどころか、息もうまく吸えない。
「いいか、ここに、息を、ゆっくりと吐くんだ。私の呼吸に合わせて行うぞ」
男が袋をかざしてくる。そして、おれに手を男の胸に持っていき一定のリズムで肺の膨らみと萎む行為が感じられる。そのリズムが一定だったからなのか、ゆっくりと息が吸えるようになってきた。そして、気が付いたら落ち着いてきたのだ。
「はあ、落ち着いたか。とりあえず、床では冷えるから向こうの椅子に座っていろ。茶を用意する、それで話を聞かせろ。おい、ワルキューレ。こいつを運んでやれ」
「あ、ああ」
スルーズが椅子に運んでくれた。そして、それについてくるようにルシも来た。そして、俺の手をキュッとつかんでいたのだ。子供体温に安心を覚える。呼吸がうまく出来ないことに不安になっていたのかもしれない。それでも、これで安心できると思ったのだ。
「それで、お前たちはここでコレを……。いや、これはここに無いヤツだな。これを運んできたのか」
「何回も、そう言っているだろう。お前たちは、せっかちなのか。もう少し、話を聞いてくれ」
「すまない。ここ最近忙しくてな」
お茶を入れて落ち着いて話が始まった。話と言っても冤罪をかけられていたものが自然と解決しただけではあるけれども。そして、部屋を荒らした可能性のある男の特徴を伝えた。綺麗な金色の髪に青い瞳をした男性。それも、体格がしっかりとしていたということを覚えている。それを聞くとうなだれたのだ。
「すまない。それは、私の祖父かもしれない。本当にすまない。詫びと言っては何だが名乗ろう。我が名はアクレピオス。アポロンの息子でもある」
「え、あ、シオンです。こちらは、召喚に応じてくれたスルーズと諸事情で預かっているルシです」
「ほう、ワルキューレに堕天使の組み合わせとはどんな理由だと思ったが面白い。ワルキューレを倒すくらいの力がある……ないな。ないのに、なぜだ……いや、方法はある。しかし、何も聞いてない。もしや、シオン。この世界に来たばかりなのか」
「え、は、はい」
「そうか、それならそのワルキューレが初めての召喚になるのか。ふむ……もう少ししたら私くらいなら呼べるか?」
「レベル的にはまだ先になるだろう」
「そんなに低いのか?」
「ああ、けれど魔力量はそこそこ初めからあるから見込みはあるだろう」
「なるほどな。なら、これを渡しておく。今回の依頼の報酬と迷惑をかけた迷惑料だ」
そういって、アクレピオスから手渡されたのは蛇が巻き付いた杖の模型のようなものだった。アイテム名を確認したら驚きの内容が書いてあった。
『アクレピオスの杖
遺物。アクレピオスを呼び出すことができる杖の模型』
「その杖で私を呼び出せ。そうすれば、怪我とかは治せるだろ」
「あ、ありがとう」
そして、お茶を少し飲んだら次の依頼のために家を出て図書館へと向かったのだ。




