8.これからの方針
ルシはこちらを見ているが、表情を読み取ることができなかった。それでも、聞かなければならないことが多いから俺はルシを膝から降ろして向かい合うように座らせようとした。しかし、浮かせようとした瞬間こちらにしがみついてきた。急に浮かせたのが怖かったのかと思い声をかけた。
「ルシ、少しお話したいから膝から降りてほしいな」
「……このままじゃ、ダメなの」
不安そうな顔でこちらを見てきた。それが、捨てられた子犬のような目で不安定な感じがしていた。それでも、話をするのならばしっかりと目を見て話した方がいいだろう。大事な話ほど、相手の表情を見て話すものだ。会話の中には現れない気持ちでも目を見れば少しはわかるものだ。そんな風に考えているからこそ、相手の目を見て会話をしたいのだ。
「なら、向かい合おう。お話は目を見てするものだから。これは、私の母の教えなんだけれどね」
「いい人なんだね」
「そう、そうだよ。私の自慢の母なんだ」
そう、自慢の母親だ。恋に生きた人ではあったけれども、俺を見てくれて愛してくれた大事な人。そんな母を俺は心から愛していたし信じていた。
「わかった」
向かい合うように座ってくれた。対面の座席だと遠いから嫌だったのか、ソファの移ったのはもう湯気が出ていないティーセットを運ぶときに時間の経過をしれた。お茶を入れなおしてから話そうかなと思って席を立つ。それについてくるよにルシとスルーズも席をたつ。
「お茶を入れなおすだけだから、座っていて」
「一緒にやる」
「私がやりますよ。シオンは、私の主でもありますしね。それに、私血のつながりはないのですが姉妹は多いんです。その中に紅茶にうるさい子がいましたので、淹れるのは上手なんですよ」
「そうなんだ、ならお願いしようかな」
「ええ、任せてください」
「ルシ、それじゃあ、席に座って待ってよ?」
返事はないけれど、うなずいて一緒にソファに座って待っていた。その時に、聞きたいことを少しだけ整理したのだ。なんで、小さいのか。記憶を無くしたのか。とか色々と聞きたいことがあったのだ。けれども、上手く聞ける自信がなかった。だから、優先順位を決めることにした。話すのが苦手な俺が、調べた中で一番効果的な方法だったからそれを活用したのだ。
考えていたからだろ、鼻腔をくすぐるいい香りのお茶が俺の前に置かれたのに気が付いたのは声をかけられてからだった。
「シオン、お待たせしました。熱いですから火傷に気を付けてくださいね」
「あ、ああ、ありがとうございます」
「敬語じゃなくていいですよ。ほら、ルシお前にはミルクを用意しておいた」
「……」
「言いたいことがあるのなら、言葉でいえ。私はシオンと違って優しくはないからな」
「……別に」
邪険な空気が流れ始めた。喧嘩をする前に話を始めた方がいいだろう。そう思い話したいことをまとめていたのを口そうとした。そうすれば、すんなりと言葉になる。
「ルシ、さっきの女性が言っていたことは本当なの?記憶がないってことは」
「本当。何も覚えてないんだ。いや、違う。覚えている。俺は、許せないんだ。何を許せないんだ?なんで、だ?」
ルシの様子が少し異変を起こす。綺麗な緑の瞳が濁りだして、グルグルと渦を巻いているかのように錯覚する。それに、頭が痛いのか頭を押さえだした。そんな状況にしてしまった罪悪感やそんなことにしてしまった申し訳なさから、声をかけて正気に戻ってもらおうとする。
「ルシ、ルシ、落ち着いて」
けれども、こちらの声が届いていないのか混乱した言葉があふれ出ている。さらには、まがまがしいオーラがルシを包む。それが、怖くてルシの頬をつかんだ。
「ルシ、こっちを見て。大丈夫だから、無理に思い出そうとしなくていいんだよ。ゆっくりと思い出そう。ね?」
俺の声が届いたのか、視線があう。緑色の目と俺の目が合う。その目に渦巻いているのは、癒しなんかではない。嫉妬に来るってしまったような目だ。その目がこちらを見ている。羨ましいと、妬ましいとそんな風に語り掛けてくるのだ。けれども、そんな感情だけに飲まれてはいけない。その感情に囚われれば悲しい思いをするのはきまっているのだから。
「ハァ、ハァ」
「落ち着いた?急にごめんなさい。思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。つらいことを思い出すのは苦しいだけだから。ね?」
「……けれど、」
「けど、じゃないよ。そうだ、楽しいことを決めよう!スルーズも聞いて、私ねやりたいことを決めたの。まずは、レベルを上げる。けれど、ダンジョンばかりとかだと大変でしょう?それにね、ここには温泉とかおいしいものやきれいな場所もたくさんあるって聞いてるの。だから、そういうことを経験していけたらなって思うんだ。その道中で困っている人がいたら助けて、仲良くなっていけたらいいなと思ってるの。どう?素敵な計画じゃない?」
夢物語みたいな計画。お気楽な計画かもしれないけれど、ルシの気分転換になるのならいいと思ったのだ。その言葉を聞いたスルーズはどこか呆れながらも賛同してくれているようだった。
「ルシはどう?それでもいい?」
「うん」
「そっか、よかった。それでね、さっきのガブリエルさんがルシのことをルシファーと呼んでいたでしょ?ルシの本当の名前はルシファーなのかなって思うんだけれど、心あたりとかない?」
「……ある」
「そっか、これからそっちで呼んだ方がいい?」
「ううん、ルシのままがいい」
「わかった、これからもルシって呼ぶね。それじゃあ、次に向かう場所の話をしようかな」
そういって、マップを広げる。初期装備に配布されているマップだ。自分で広げるか情報をもらって書き込むなどができるタイプのものだ。それを見ながら、話を始める。今いるのはこのゲームに来て1番初めに立ち寄る大きな都市だ。ここでのクエストにはいろいろなものがあるということだけは情報として仕入れている。だから、その情報をもとにできそうなクエストをピックアップしたのだ。
まず1つ目が、配達の依頼。これは、依頼料は低いものの難易度もその分低めに設定されている。さらに、レアなNPCとの遭遇もあるらしい。
2つ目が、図書館の整理。これは、ゴーストが悪戯してしまって荒れた図書館の片づけを手伝うというものだ。ゴーストの妨害があるものの、そこで手に入る書籍が魔法関係ジョブならば役に立つものが多いから一度は経験すべきとのことだった。
3つ目は、洞窟探索。これは、危険度が高いしレベル制限なども存在するものが多くクリアできるか怪しいものも存在するから参加するのは悩む。
この3つのうちのどれかを今日できたらと思っているのだ。
「さて、どれがいいかな?」
「そうですね、私としては洞窟探索がいいかと。やはり、実践を積むのが一番大切なことになりますからね」
「……これ」
2人の意見はものの見事に分かれた。スルーズは冒険。ルシは図書館。両方を今日するのは難しい。日程的には、図書館を早く終わらせれば洞窟に行けるかもしれないがそんな強行軍でやる必要もないしな。
「なら、こうしよう。今日は、配達の依頼と図書館。それで、明日洞窟。洞窟は準備も必要だから今日、資金調達をして明日の洞窟探索に役立てる。どう?」
「いいですね。シオンの武器の装備とポーションも用意しないといけないですからね」
ルシは言葉に出さないがうなずきで返事をしてくれた。これで、方針は決まった。ルシの記憶を取り戻すことと守ることも同時にするのだ。頑張ってレベルを上げないとな。




