3.初めての剣
目を開けると小さな町みたいな場所だった。光で道しるべみたいなものが出ており、そこからそれるとその道しるべも変更されて同じ場所を目指すように指示をだしてくる。このことから、その道しるべをたどっていけば目的地に着くのだと思った。しかし、俺の考えは的外れなものであることをこの後すぐに知ることになった。
「町の外にでるのか?初心者に対して結構危険な気がするんだけど、本当にあってるのかな?でも、この世界だと検索とかはできないしな……。とりあえず、行くか」
チュートリアルにしては不親切なところが昔のゲームみたいで少し面白い。レトロゲーと呼ばれるVRゲームじゃないものの中にはチュートリアルがほとんど意味をなしていないものもあると聞いたことがある。これも、そのたぐいの1つなのだろう。そんな古のシステムを採用なんてしているなんて旧時代的なのを通り越して前時代的にも感じてきた。
「おい、君。まだ、ガードナーのところに行ってないだろ?ガードナーはこの柵に沿って歩いていくと奥の方に小屋と案山子がある。そこに行け」
「あ、ありがとうございます」
町の外に出ようとしたら、案内担当みたいな兵士の人に声をかけられた。チュートリアルの場所がわかりずらいのは仕様なのかもしれないが。案内してくれるのなら安心して、行けるだろう。
それにしても、沿って結構歩いてるけど案山子がある小屋なんてないんだよな。見落としたのかななんて思うが、そんなことはなさそうではあるのだ。奥に行けば行くほど、あるのは畑だけになってくる。それでも、目的の場所なんか見当たらない。諦めて引き返すのも手なのかもしれない。そんな風に考えていた。
「よく、目をこらせ。それが、もっとも最適な方法だ」
どこからともなく声がする。VRだからこそ、疲れなんか感じないけれども空腹ゲージや水分ゲージがある。そこのゲージが徐々に目減りしているのがわかるから、声の通りよく目を凝らすようにしてみた。そうすると、ゲームだからこその演出だろう。そこら中のものの情報がでてくることになった。情報過多でオーバーヒートしそうになる。それでも、その情報の中から必要そうな言葉を探してみる。
兵士の人の言葉では、ガードナーという人の家に行くように言われた。その名称の場所がないかもう一回よくよく見てみる。そうすると、うっすらと畑の中からその名称が浮かび上がっているのがわかった。畑の中になんでその名前があるのかわからないがそちらに向かって一歩足を踏み込むとそこは見えていた景色とは異なり、ぽつんと寂しい案山子と一軒の家が建っているだけの場所であった。
「ようやく来たか。お前のように察しの悪い若い奴は初めてだ。俺は、ここでお前が外に出ることができるように育てやるガードナーだ。名前だけでも、憶えておけよ」
「は、はい。初めまして。私は……」
自己紹介をしようとした瞬間システム音がした。目の前には、『名前を記入してください』と書かれた青白い盤面が目の前に出てきた。ここに来るまでにそういえば名前を聞かれることも名前の記入も一切なにもなかった。名前どうしようか。本名でやるのはネットリテラシー的によくないことは理解している。でも、俺自身はインターネットに関わること自体ができていなかった。調べものとかはできてもSNSは禁止されていたから、本名以外の名前だと「おい」とか「ゴミ」とか自分で申告したくない名前が多い。名前の設定をどうしようか……。安直ではあるけれども本名をもじるのが最適解な気がする。そうすると、本名である、神矢紫苑。花の名前に関連したものがいいな。母さんが好きだったて聞いたしな。こんな時にネットで名前の候補とか考えてもらえるかもしれないが、自分の頭だけだと何の候補も思い浮かばない。だから、紫苑をカタカナに変えてしまってそのまま使ってもいいかもしれない。どうせ、知り合いに会うことなんて天文学的数値だろう。
『名前を記入をしてください:シオン
こちらの名前でよろしいでしょうか?』
『はい/いいえ』
はいを選択した。そうすると目の前で止まっていたガードナーが再び動き始めた。長考するひともいるから動かないようにシステムが組み込まれているんだろう。俺が長考していたのかどうかわからないけれども、はいを選択した瞬間のガードナーの顔が少ししかめっ面がさらに悪化したように見えたのだ。
「ようやく決まったか。なら、これからこの世界で生きていく方法を1個づつ説明していく。理解できないようなら再度説明していくようにする。いいな」
「は、はい」
「それじゃあ、初めは剣術からだ。ステータス画面を確認してみろ。そのほかのステータスも記載されているからそこも確認するようにな。ステータスを見る方法は、初めは声に出して確認してみろ。慣れてくれば、声に出さなくともステータスを自在に出すことができるようになる」
「ステータス」
指示に従って声に出してみれば、目の前には俺の名前のほかにもステータス値としてはどうなのかわからない数値が並んでいた。
『プレイヤー名:シオン Lv1 HP120 MP120
STR100 INT120 DEX100 AGIさ100 LUK200』
こんな感じに数値が降られているのか。とりあえず、剣をふるうのに力のステータスが関係するのだろう。初期値として100ということはそれ以上になるから頑張ってあげていく必要があることになるな。それにしても、満遍なく平均的な数値みたいな感じなのにLUKだけ200になっている。LUKは文字的にLuckになるのだろう。そうすると、幸運値だけ突き抜けていい感じになることになる。このゲームを始める前に少し調べてみたら高いとうれしい程度でメインで振るべきステータスではないということは読んだ中で書いてあった。
「か、か、かく確認しました」
「STRが100~150ならこの剣、150~180ならこの剣、180以上ならこの剣を使え。そのあとは、案山子に向かって素振りを100回しろ」
「は、はい」
そういわれて示されたのは軽めの剣だった。剣というよりはレイピアと呼ぶ方が近いものなんだろう。それか、短剣のどちらかだがレイピアのほうが今後戦闘職をすることになるなら、レイピアのほうが使い勝手がいいだろう。レイピアを手に取って案山子に向かって素振りを始める。ピロンとシステム音が俺の耳に届く。そちらに目をむければ『素振り1/100回』『初級レイピア熟練度1%』さらには『はじめてのレイピアの使用ステータスポイント+1』と書いてあった。これで、合計何回しているのかがわかるのだろう。プレイヤーが回数を数えるなんてことをしなくてすむから、こなすだけでクリアできるのだろう。
適当に振って回数を確認してみる。そうすれば、回数が増えているのは確認できた。『素振り27/100』と数が増加している。しかし、1回目の時とは異なってレイピアの熟練度は増加することがなかった。ここから推測できることとして、しっかりとしているかどうかで左右されているような感じにする。それとも、回数をこなすことで熟練度が上がるのかどうかわからない。ゲームを終えた後で確認してみるのも一つの手段なのかもしれない。時間的にはまだ、夕飯を食べる時間でもない。部屋からでた方が厄介な仕事とかを任される羽目になる。その仕事をしているのを義母さんや弟たちがみればいじめられる。反対に父親が見れば、ぐちぐちと細かいことを俺に言ってくる。手を貸してくれることも、口出しをするようなことも何もしてくれないのに文句ばかり言ってくるのだ。「使用人がすることをするなんて」なんてことをなんて言葉を口にする。俺は、したくないことをさせられているのに自分から進んでやっているとか思っている。
こんなことを考えながら姿勢とか振り方とか考えながら振っている。熟練度が上がった姿勢で繰り返し素振りをしていく。
「素振り100回終わったなそれじゃあ、次は……」
「あ、ああの、まだ素振りしててもい、いいですか?」
「かまわないが、報酬はかわらないぞ」
「そ、そそれでも大丈夫です」
繰り返し行い続ける。しかし、90%になった段階で進まなくなってしまった。ここまでしか素振りでは上がらないのかもしれない。全部上がったら実践とか必要なくなるもんな。そしたら、次のチュートリアルに進めるべきか。
「あ、あああの、次はなにすればいいですか?」
「なんだ?もう、100%になったのか?」
「え、100%にできるんですか?90%から動かなくなったから、もう無理なのかなって思って」
「なるほどな。100にしたいんだろ?なら、こっちの案山子に変えて素振りし続けてみろ」
そう、やって出された案山子はさっきの案山子よりも小さくさらに左右に揺れるタイプの案山子だった。動くものになりさっきと同じ要領で素振りをしようとしてみても案山子に攻撃が当たることはなかった。すこし、工夫が必要なのかもしれない。案山子の動きをよく見てみると動きの軌道みたいなものが薄っすらと見える。それに合わせてレイピアを当てる。するとシステム音がしてそちらを見れば『初級レイピア熟練度90.1%』と出てきた。そういえば、チュートリアル1回目の報酬がなにか見てなかったな。確認してみよう。
「ステータス」
『プレイヤー名:シオン Lv1 HP120 MP120
STR100 INT120 DEX100 AGIさ100 LUK200
チュートリアル報酬 ステータスポイント+5』
ステータスポイントを受け取ってみたけれど、どれに振るか決めてないし保留しておこうかな。それじゃあ、続きの素振りを再開しよう。熟練度を上げることが重要になってくるだろうから、頑張ろう。1回当てれば0.1~1%の上昇があるから、結構いい感じに上がる気がする。
「むやみに上げようとしてもそこからは運しだいになるから次のミッションやった方が効率はいいんだが……」
「あと少しなので、そこまで上げてもいいですか?あと、1%で上がりきるので」
「あ、ああ」
案山子が揺れているところを先読みしながら攻撃の軌道が見える。今までとは異なり金色の道筋が見えたと思ったら案山子がドカッて音とともに壊れた。そして、システム音とともに熟練度が100%になった知らせを手にしたのだ。
「すごいな。壊したことは気にしなくていい。ところで、次のチュートリアルをしても平気か?」
「え、あ、あの、いったんログアウトしてもいいですか?時間が……」
「ああ、かまわない。なら、こっちに来てくれ。いいか、ログアウトと君たちが言っているそれはこちらでの睡眠になる。寝る場所が悪ければ状態異常などが入る。さらに、ダンジョンなんかで途中ログアウトをすれば最悪死ぬことにもなるから気をつけろよ」
「は、はい」
「それじゃあ、ここを使え。起きたら、さっきの場所に来てくれればいいからな。待ってるぞ」
「ありがとうございます」
この世界で、ログアウトをする位置には気を付けないとな。案内されたのは小さな小屋みたいな場所でベッドとして使えそうなものは干し草に布をかけたものだった。布は清潔感のある白で周りを見渡せば、掃除がしてあるのだろう。綺麗な環境であることがよくわかる状況であった。
「ログアウト」
『ログアウトを開始します。シオンおやすみなさい』