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8.少しの現実

 花のお兄さんとの冒険は、案外問題なく進むものだった。それこそ、花のお兄さんは魔術師で攻撃をいとも簡単に行う。そして、剣を使うことができる近接可能魔術師というNPCにしては設定が爆盛りのキャラだった。もしかしたら、人気キャラなのかもしれない。

 見た目は、かっこいい系だと思う。けれども、線が細いのが特徴だ。魔法職ということもあって筋肉がすごくある感じではない。所詮、細マッチョと呼ばれる部類になるのだろう。髪の毛は、色素が薄いのか銀髪に青い瞳で一定層の固定ファンが付いていてもおかしくないNPCだ。モチーフキャラがいるのかどうかが不明だが、いる場合は軽薄そうなキャラで胡散臭い感じでもある人だと思った。


 それにしても、本当に迷子の少女シリーズを身につけていると目的地に着くまでに道に迷いながら歩くことになった。しかし、宝箱などと遭遇する率が上がってゲーム内通過のG(ゴールド)が入手できた。とりあえず、目的地に着く前に小さな宿屋で休息をとることにした。花のお兄さんは、疲労していなさそうだが俺が疲労度で歩く速度にデバフがかかるようになってきた。ついでに、これまでの過程を動画として配信しているところとは別に切り抜きとかされたりする大手動画プラットフォームにアップロードすることにした。


「いったん、寝ることにします。2時間後にここを出ることにしましょう」

「ああ、わかったよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、私は部屋で休むのであとで合いましょう」


 その一言を皮切りに俺は部屋に戻って録画を停止した。そして、ベッドに横になりながらログアウトすることにした。時間としては、今は13時くらいでお昼が過ぎてしまったくらいだ。


「おやすみなさい、シオン」


 ログアウトすると必ず言われるのはおやすみなさいだ。まるで、あの世界のほうが本当なのかと勘違いしそうになるな。気を付けないといけない。起きたり、寝たりする時の挨拶なんてもうすることが少ないから困るな。

 ゲーム機から出れば、部屋にはご飯が用意されていた。こんなことをしてくれる人はこの屋敷に存在していないと思っていた。不信がって、手に付けるのを戸惑う。けれど、食器が銀であるのが一目でわかる。目利きとかは得意ではないけれど、祖母に無理やり教えられたのだ。父親は、何も教えてはくれなかった。母は、詳しくはないけれどもそれでもいいものを見分けるのは上手な人だったんだと思う。それは、祖母もそこだけは認めていたのだ。そんなことがあるわけないのに。誰が、気を使ってくれたのかは分からないが少し安心して食事をとることができた。1回あったのは、OD(オーバードーズ)に見せかけて殺されかけたのだ。銀食器が反応するのは毒だけのみだが、薬は味である程度理解できる。苦みがあるのだ。だから、一番怖いのは無味無臭の毒が盛られることだ。今時そんなことがあるのかと思うかもしれないが、実際に起きたことだから困るのだ。

 食事をとりながら、自身の配信を見返す。カメラ目線じゃないところもあるが、AIが自動でいいアングルを切り貼りしてくれている。カメラ操作とかをする必要がないのはいいな。現状、よく見られているのはガチャシーンとトリックスターが出現した場面が半々くらい。まだ、これからも変化していくことだろうから難しいところではあるのか。これから、見どころを作りつつ自分も楽しむのは難しい気がする。


「とりあえず、さっきまでの録画をアップして課題をしてからログインをしよう。配信は動画の反応みつつやるかどうか決めるか」


 なんとなくの方針を決めて、そのまま予定を進める。課題。これは、あいつの分も俺がしないといけないから結構な量になる。しかも、あいつの方が評価が上になるように調整しつつ実施しなければならないから、さらに労力を使う。だからだろう、勉強をすることに抵抗が無くなった。それに、調べることで知らないことを知れるのがすごく楽しかった。知識は俺の努力を裏切らないからすごい楽しかった。


「動画の反響は……。なにこれ、こんなに反響があるのか」


 動画の再生数を確認すれば、普通であれば出来たてのアカウントで伸びることのないはずなのにも関わらず、万再生されているのだ。こんな異常なことがあるのか、何かの表記ミスじゃないかと思って更新をしてみても数字は伸び続ける。


「はは、一夜にしてこんな幸運なことあるんだな。でも、未成年だからな」


 基本、未成年者の動画配信などは保護者の許可が必要となる。しかし、現状は無許可で行っている。納税関係もあるから早いうちに父親か母親に相談をしに行かなければならないけれど、反対されることが目に見える。先送りにしたい気持ちを抑えて早めに相談をしたほうがいいのだろう。いつなら会えるのだろうか。聞いてみないとわからないけれど、まだ未来があるのは父親のほうかもしれない。父親と呼ぶには不完全なそいつに相談しなければならないことに嫌気がさす。


「こんな時に、母さんがいてくれればいいのに」


 もう、叶うことのない願いを口にしてみる。そんなことを言ったて何にもならないのだ。それでも、とりあえずは、無許可のままで進めようと思う。収益が結構な額になったら相談をしよう。先送り癖はないけれども、先送りしたほうがどこかいいような気がしたのだ。こんな時の直感は信じた方がいい。従わなかった結果母親の死に際に立ち会えなかったのだ。それ以降は、絶対に直感を信じるようになった。死にかけることも何回かあったけれども、信じなかった結果は多分死んでいたのが安易に想像できることがあった。今回も少しの間は、先送りにして様子見をして話に行こう。


「課題も終わったし、それじゃあMoAやろうかな?配信もつけた方がいいよな。なら、ホットタイムとか言われる時間のほうがいいのか?20時くらいから配信したいな。けど、クエスト中だから多分入ったら再開しなきゃだよな。うん、時間とか気にしないでやろう!」


 有名になりたいわけではないと言ったらうそになるけれど、どうせ少しの間しか配信できないかもしれないのだから、自分のやりたいようにやろう。それで、失敗してもそれはそれで、いい経験になったって思うようにしよう。


「ゲームの中で吃音あんまり発症してないや。もしかしたら、治るかな?」


 人と話すときにでてくる吃音症が、ゲーム内だと出てきているのが少ないからもしかしたらいい治療になっているのかもしれない。緊張とか心的ストレスによってでているだろうというのが、医者の見立てだったからあの世界では少ないのかもしれない。


「それだったら、うれしいな」


 よし、ゲーム機内に入り起動を始める。

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