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2.代り映えの無い日常? *

「あ、あ、あの、こ、これ、お、落としましたよ」

「え、あ、あ~、どうも」


 吃音。ちらりと見える腕からは無数の傷や火傷の跡。さらには不清潔な服。人は見た目ではないなんて言葉は金があるやつらの言葉なのだ。それが、ものすごくわかることの1つとして、俺のこの現状があげられる。別に家が貧しいわけではない。俺がいらない子で、俺ができな子であるがゆえに何の権利も特権ももらえなかっただけなのだ。背を丸めて歩くのは自身がない奴がすることだとか言われたが、自身なんて持つことができる環境で育った奴らがいうことなのだ。


「あっれれ~?出来損ない君がなんで、こんなところ歩いてるんだよ」


 そう声をかけられたと同時に背中から押された感覚があり前に受け身も取れず倒れこむことになる。何回も何回もその仕打ちを受けているからこそ、どんな状況なのかすら理解できることが憎い。それでも、反抗も反撃もしてはいけない。反応を示すだけでそれはさらに増すのだ。反応があるからこそ面白いのだろう。ずっと、蹴られたり、殴られたりするその状況をただ受け身で受ける。ここが学校だからといって、教員が助けてくれるわけではない。

 だって、こいつの父親はこの学校の支援者で俺の異母兄弟なんだから。父さんも俺に期待をしなくなってから、こいつを溺愛するようになった。父さんに似たその顔で出来損ないと言われて傷ついたのはもう、昔のことだ。でも、一回だけ父さんが俺をかばったことがあった。原因は、父さんが大好きだった母の顔に似た俺を傷つけたからだ。それがこいつとこいつの母さんの琴線にさらに触れたのか状況は悪化した。でも、顔を傷つけることがけは減ったのだ。父さんが大好きな母さんの顔に似た俺のこの顔を傷つけることだけは許さなかった。顔を殴ってできた鬱血痕を見て激怒して医者をよんだのだ。それ以降、顔以外の場所を傷つけるようになった。


「あ、神矢くん。こっちに来てくれるかい。この前話していた件でお願いしたくね」

「なに、先生、止めるの?」

「そうじゃなくて、今日、神矢くんを紹介したくてね。君みたいな優秀な生徒がいることを大学の教授方に紹介したくてね。早めに来てね」


 これが、日常だ。教員が校長が黙認し止めてくれないそんな状況でも俺は死ぬことができない。死ぬ勇気も度胸もない。だから、惰性的に生きているのだ。本当に絶望した人は死ぬことができるって聞いたけれど、俺はこの現状に絶望をしていないということに気が付かされて虚しい気持ちだけが残った。


「待たせるのもよくないか。そうだ、出来損ない。お前の部屋にガラクタ置いてるけど捨てるなよ。わかったな」


 痛みで呼吸もままならない状況で返事をしなければならない。そうでないと、また暴力の嵐がやってくる。それを回避したければ、返事をしなければならない。息を吸って吐く。そんな簡単なこともできない状況でも漏れ出す嗚咽の感じから返事をしたって思ってもらえるようにしなければならない。どんなに言葉を出そうとしてもそれは空をきって音になることはなかった。


「おい、黙ってないで返事しろっよ」


 その言葉と同時に蹴りが入る。返事が間に合わない。その結果、またお腹、背中に蹴りが何回か入れられる。その間に、返事をしようと頑張る。それでも、漏れ出るのは嗚咽だけで言葉にはならないものばかりが出てくる。


「わ、わ、わかった」


 かすかな声で届いたのかも不明瞭だけれども、言葉にようやくなったそれを吐く。数発の暴力のあとにどこかへと消えていく。早く立ち上がって教室に向かわないといけない。チャイムがすでに鳴っていて授業がすでに始まっていても誰も俺に見向きなんかしない。それもそうだ。もし、俺に声をかけて自分までもがターゲットになったとしたらそんな恐怖がほかの人の心を支配するのだ。その結果、俺は俺一人で頑張って地面を這ってでも移動をしなければならないことになっている。

授業を聞いて、放課後になれば家に誰にも会わないように裏門から徒歩で帰る。あいつは、お迎えが来て快適に帰っている中で俺は一人で無言で坂を上り、広い屋敷の門の脇から入っていく。そこから、道なりに歩きつつ途中で脇道にそれる。使用人とかが使うであろうドアから無言で入っていく。夕方のこの時間帯はだいたい、父さんや義母さんの迎えにあいつの迎えが重なるから、使用人が基本的に玄関側や厨房で仕事をしている。この時間帯だからこそ、安全に誰にも見られずに部屋に入ることができるのだ。それでも、まれに人とすれちがうのだ。もしすれちがえば仕事を押し付けられる。その仕事をしているところを父さんに見られれば、俺は怒られる。そして、お仕置きを受けることになる。義母さんに見られれば喜ばれる。あいつに見つかれば家の中で暴力を受けてまた仕事を1からやり直すことになる。そうすれば、夜は何も食べずに過ごすことになるからそんなことにならないように隠れて、バレない様に移動をする。


「本当に、あいつ帰ってくるの遅いよね」

「ああ、あの穀潰しくんね。本当に、あの子がいれば私たち楽なのにね。最近、見つからないように隠れてるんじゃないかって噂よ」

「本当、困るわ。こんな仕事、あの穀潰しにさせればいいのにね」


 危なかった。もし、見つかれば仕事を押し付けれ以上に暴力が来るかもしれない。今後より一層気を付けなければならい。


「なんで、こんな目にあわないといけないんだよ」


 こんな弱気なことを言っても誰も助けてなんかくれない。そういえば、あいつが俺の部屋に何か置いたって言ってたっけ。どうせ、不必要なものを捨てたくないってわがままの元俺の部屋に置いてるんだろう。

 部屋に入ると目の前には型は少し古いものの今でも現役で動くと話題のゲーム機であった。この部屋に置いているということは多分、最新機を手に入れて置く場所に困った結果というのが理由としてあげられるのだろう。


「俺も使ってみたかったし設定とか確認して使おう」


 機械を確認すれば、現在はやっているMagical of Arcane【マジカルオブアーケイン】に使われているMoAのソフトのダウンロードがされている。データの移行とかも完了しているので新規データでできると思った。


「どうせ、夜は遅くじゃないとごはん食べられないしやってみるか」


 機械を起動して機械の中に入って閉じるようにする。大きいけれど少し圧迫感がある感じがする。それでも、現在一番人気な理由は現実ともとれるような感覚だ。その売りが功をなしたのか評判がものすごくいい。老若男女問わず旅行で行ってみたい場所などであげられるのもMoAの世界があげられるくらい幻想的な場所がたくさんあることだ。俺もやってみたいとは思っていたけれど、結構いい値段がするしMoAができるネットカフェも機械的に時間をとることも考慮してだろうがそこそこいい値段する。


「初期設定はこんな感じか。それで、機械のメイン起動は音声登録って書いてあったし音声登録しないとか。起動してくれないかな?」

『ハロー、マイマスター。音声登録をします。目の前の文章をゆっくりよみあげてください』


 女性のガイド音声と同時に目の前に文章が現れる。


「私は、このゲームに対して不平不満を漏らすことなく楽しく遊びます」

『音声の認証をしました。キャラクターの制作をしてください』


 その言葉の後に目の前に出てきたのは髪が長い中性てきな姿の人だった。


「母さん?はは、なんだよこれ、俺本当に髪を伸ばせば母さんに似てる感じになるのか」


 この見た目からの変更は髪型とかは結ぶか下すかだけで、長さの変更は不可。色味の変更は可能で目の色も変更はできるが形の変更は不可。本来の見た目に近い形で作られているのだろう。


「なんで、髪が長い感じなんだ?現実に近いモデルが出来上がるって噂だったけど、それがこの見た目なのはおかしいだろ。とりあえず、色とかは派手すぎない茶系でいいか」


 結果、生前の母さんの写真に似た感じの人が出来上がった。これが、これからの姿になるのかと思うと気が重い反面、知っている人に見つかっても俺だなんて誰も思わないんだろうなんてバカみたいなことが思いついた。一人称が俺よりかはわたくしのほうがいいかもしれないな。


「ボイスチェンジャーの使用は……。できるのか。でも、音声の変更はできないから慎重にしないといけないな」


「よし、見た目ははこんな感じでいっか」


 見た目は、髪を下した状態でハーフアップみたいに編み込みで結んでいる状態にした。声は、変えると違和感がものすごくあったから変更はしなかった。その結果として、本当に中性的な感じになった。ズボンにして、武器は短剣だけ初期装備としてもらえるから短剣を足に携える形にした。上着も上着でベルトが付いているタイプで胸はないようにした。


「初期装備だけにしては結構いい感じになったな」


 チュートリアルは基本操作とかだろうな。そのあと、ジョブ選択だな。戦闘職が今一番の花形だし、前衛職だとソロ討伐も可能って口コミにもあったからチュートリアルの時に剣術とかの訓練はしっかりして、すぐにクエスト出られるようにしよう。


『キャラクターメイクの完了を確認しました。それでは、新たなMoA【じんせい】をお楽しみください』


 その音声とともに視界が暗転した。


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