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14‐3 トリスが適任な理由

 毛皮を売り捌いている輩が居るのは分かったが、まずは拠点を確かめないといけない。どこで活動しているか分からない事には、叩きようもない。


 私は屋敷から歩いて拠点を探す。

 屋敷を出てしばらくは森が続き、その先に農村がある。

 周辺の地図でも貰ってくればよかった。土地勘が無いのに、飛び出すなんて馬鹿の所業じゃないか。



(まぁ、屋敷の場所を把握していれば、帰ることは出来るし)



 私は村に向かって歩いて行く。

 後ろから誰かの足音がした。聞き慣れたその足音は、私と距離を取りながら後ろをついてくる。

 私が止まると、足音も止まる。私は聞こえるようにため息をついた。




「お前が離れたら、ミゼラが困るだろ。何でいるんだ……トリス」




 トリスは私の傍まで来ると、私に言った。



「俺も連れていけ」



 普段なら絶対について来ようとしないトリスの態度に違和感があった。私が何をしようと、興味すらないくせに。

 私は冷たくトリスをあしらう。



「いらねぇよ。お前がついて来て何になる」


「俺なら、ここの土地勘がある。道案内だって出来る」


「お前がミゼラの護衛外れたら、ミゼラが襲われた時どうすんだ」


「エイヴ様の側にいる。あの方は、誰にも襲われることがない」


「エイヴが? 私なら、真っ先に襲う……いや、それもそうか」



 エイヴの体力は農業をやっている人なら大体わかる。あの重労働を毎日こなしているのだ。襲ったところで桁違いの力で放り投げられるのが分かっている。それに、あの温厚な性格の人間が滅多に怒るはずが無い。怒った時は、自然災害と同じくらいの熱量で叩き潰されるだろう。


 それでも、トリスが「一緒に行こう」と言ってくる理由が分からない。

 彼がついて来ようとする理由は? 血が苦手なくせに、拠点見つけられるのか? 見つけた瞬間に吐くに決まってる。だって、獣の皮の処理は外でしないといけないのだから。



(……あ、分かった)



 私はトリスの方を向いた。

 彼の赤い髪、血が苦手な性質。私と似たような忌み子の扱いを受けていて、ミゼラに拾われた経緯。

 彼からそれらを尋ねたことは無い。けれど、尋ねなくてもヒントはあった。

 どうして今まで気づかなかったんだろう。私は答え合わせをするように、トリスに言った。



「お前、動物の毛皮加工やってたんだろ。メリディアム領で」



 私の言葉に、トリスはビクッと肩を震わせた。大当たりの反応に、私は「そうかよ」と言った。



『赤い髪は、悪魔の色』


『赤い髪は血の色だから、悪魔と悪い契約をしなければそんな色にはならない』



 会ったばかりの日、トリスはそう言っていた。

 同じ境遇だったと仮定すれば、彼も望まない生活を送っていたはず。

 トリスにとって、それが動物加工だったという話。



(たかが髪の色ごときで。人間ってのはとことん腐ってんな)



 トリスは視線を合わせずに、「俺は、場所に詳しいから」と私について来ようとしてる。私は、自分の経験から、彼に声をかけた。




「……向き合えない過去には、向き合わなくていいんだぞ」




 悪夢でうなされようとも、誰にも言えない経験をしようとも、それをわざわざ口にして「気にしてないよ」とアピールするよりも、自分が手放したくなるまで握っている方が、よっぽど健全だ。

 無理に何とかしようと思っているうちは、それはまだ手放す時期じゃない。


 受け入れる覚悟も、忘れる勇気もないうちは、何とかしようとしない方が良い。


 トリスは迷っていた。表情に出てしまうくらいに。

 けれど、トリスは声を振り絞った。



「……お前は前に進むことを選んだ。俺も、そうしたい」



 トリスは確かにそう言った。

 私の目を見ることは無かったが、彼には一歩を踏み出す勇気がある。必要なのは、誰かが手を引っ張ることだ。

 ……それが、今の私の役目だと思う。



「そうかよ。じゃあ、案内よろしく」



 私はそう言って、さっさと農村へ歩く。

 トリスの顔なんて見えるはずもない。だが、彼の足音は私の隣にあった。



「村へはあと三十分の距離だ。そんなに遠くない。まずは情報収集か?」


「そうだな。毛皮製品がどのくらいで回ってんのか、目で確認してぇとこだ」


「毛皮製品の目利きは?」


「触ってどうかくらいしか分からん。最近のは、触っても分かんねぇけど」


「やっぱり俺が必要だろうが」


「毛皮の有無を見たら、さっさと拠点を探せばいいだけだろ」



 軽口を叩き合って、私たちは森を歩いて行く。

 しばらくして、大きな農村が見えた。家の数よりも、畑の方が多い村に、私はかつて住んでいた村を思い出す。


 まずは手掛かりを探そう。何か見つかればいいが……。

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