12‐1 ミゼラのお誘い
よく眠れるようになってから、仕事がより捗るようになった。
庭の罠にかかった侵入者を仕留めて、正面突破しようとする馬鹿を一人残らず射抜く。
そういえば、ブルームの船で借りたライフルは扱いやすかったな。
自費で仕入れても良いかもしれない。いいや、必要経費なら、ミゼラに申し出てみようか。買ってもらえるかもしれない。
逃げていく侵入者を尻目に、私は仕留めた奴らを回収していく。
一人で片付けるのは大変だが、これももう慣れてきた。
トリスが休みの日は、どうにも侵入者が多い気がする。私が仕留めすぎるのだろうか。でも残して仕事が増える方がめんどくさい。
ミゼラは起きてないだろうか。
私は屋敷の明かりを確認する。光がついている様子は無い。ちゃんと眠れているようだ。
私は後片付けをしながら、ため息をつく。
いつも通りの日々から悪夢が無くなっただけで、特に変わりがない。
「あ~、たまには息抜きしてえなぁ」
焼却炉に侵入者を詰め込んで、私は火を点ける。
何か、面白いことないかな。
***
明け方に仮眠を取って、私は朝食に向かう。
すると、ミゼラが廊下で声をかけてきた。
いつもならもうとっくにダイニングにいるはずだ。寝坊なんてありえない。
「おはよう。……いい朝ね」
「おはようございます」
ミゼラと軽い挨拶をするが、ミゼラはまごまごと口を動かす。
何か、話でもあるのだろうか。単刀直入に切り出すミゼラには珍しい。
「あの、そうね。……最近、困ったこととかないかしら?」
「困ったこと? 特にありませんが」
「そう。それならいいわ」
会話が終わっても、ミゼラはまごまごしている。
本当になんだろう。何か話さないといけないことがあっただろうか。
「あの、アタシに何か言うことってある?」
「え、特に……あ。仕事用にライフルが欲しいのですが、これは経費で落ちますか? できれば、音がしないやつ。サイレンサー付きの」
私が相談すると、ミゼラはあからさまに『これじゃない』顔をする。
何か違っただろうか。こういう事じゃないのか?
「……経費にならないです?」
「いいえ、経費にするわよ。そうじゃなくて」
ミゼラはため息をついた。力が抜けたように腕を組むと、壁に凭れて話をする。
「マル・チロ伯爵に、言われたことがちょっと気になったのよ。契約関係だって言っても、アタシとトリスは仲が良いわ。あなたとも、そうなりたいの」
「あぁ、そういうことですか」
私は納得して手を叩くが、だからといって会話になりそうな話はない。
「……さ、最近どうですか?」
「下手じゃない。ふふ……」
それっぽい会話をしようなんて思ったが、意識すると上手くいかない。
ミゼラはくすくす笑って、ダイニングに向かった。
他愛もない話をしながら、私は朝食を済ませる。
業務連絡を挟まない会話が久しぶりで、どう話していいかもわからない。
ミゼラのコスメの話を聞き、最近の調子を話して、それなりに会話が進むとミゼラがチケットを出した。
「今度、ショーを見に行かない?」
原色系の煌びやかなチケットに、大きな字で『ウィンター・ショー』と書かれていた。内容は何も書いていない。
何のショーだろうか。
「ショーですか」
「一種の大道芸みたいなものよ。いろんなグループがダンスや歌を披露するの。もちろんマジックもあるわ。どう?」
行ったことは無いが、面白そうだ。
良い息抜きになるかもしれない。
ミゼラはニコニコしながら私の返事を待っている。私が了承すると、嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ決まりね! 楽しみだわ」
ウキウキなミゼラが私のイメージと違い過ぎて、違和感が強い。
先に食事を終えた彼を見送って、私も朝食を済ませる。
食事を終えると、トリスにこそっと話しかけられた。
「ミゼラ様と、何かあったのか?」
「いいや。マル・チロ伯爵に言われたことが気になったとかで、私とも距離を縮めたいらしい」
「はぁ、それでか」
「業務的な立ち位置を維持していたのに、急にどうしたんだ?」
「さぁ、気が変わることもあるだろう」
トリスは仕事に戻り、私も部屋に戻る。
煌びやかなチケットを眺めて、私はベッドに寝転んだ。
「……ショー、ねぇ」
こんな娯楽があるなんて知らなかった。
一体どんなものが見られるんだろう。
「……ふふ、いいなぁ」
農民魂があるから『不要だ』なんて思ってしまうが、ちょっと楽しみだ。




