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11‐1 健康診断の通達

 ――毎日、毎日、毎日。

 ずっと見続けて飽きもしないな。



 燃え盛る豪邸。

 死んだ住人。

 それを肴に酒を飲む私。


 ずっと、繰り返して。

 ずっと、繰り返して。


 この先一生、この夢を見続けるのだろう。

 このワインだって、もう味もしない。



「本当にそれでいいの?」



 私の罪を、ソラシエルが問う。

 私は彼女を、「うるせぇな」と冷たくあしらった。


 お前に何が分かる。

 ……お前に何が分かる。


 ***



「お姉様、朝ですわ」



 優しい揺れで目を覚ます。

 私が目を開けると、エリーゼが不安そうにのぞき込んでいた。

 まだ暗い室内に、私はため息をついた。


 体を起こすと、妙に涼しい。

 後ろに手をつくと、案の定寝汗の湿っぽさを感じた。

 ……また、うなされていたのか。



「何か飲み物を用意しましょうか? きっと喉が渇いているはずですわ」



 エリーゼの気遣いがなぜか後ろめたくて、私は髪をかき上げる。

 心配する彼女を置いて、私はカーテンを開けた。


 霜が降りる外の景色が、余計に体を冷やしていく。


 ***


 朝食の席、ミゼラが渋い顔をしていた。

 いつも通りの食事なのに、しきりにため息をつく。



「何か、思い悩むようなことでも?」



 私が尋ねると、ミゼラは唇をきゅっと結ぶ。

 彼が嫌がるようなことがあるだろうか。大体の事はそつなくこなすだろう。梅干しみたいな表情をすることは無いはずだ。

 ミゼラはまたため息をついて、ナイフとフォークを置いた。



「今度、健康診断があるのよ」



 ミゼラは紅茶を飲むと、またまたため息をついた。



「健康に問題はないわ。でもアグラ……亥の血族が国の医療を担っているのだけれど、アタシと同世代のアグラヴァは、大の医療バカなの。人体をくまなく調べて隠れた病気も見つけちゃうくらいなんだけど」


「良いじゃありませんか。誤診して悪化しても認めない医者とかいますし。変態くらいが丁度いいですよ。何が嫌なんです?」



 ミゼラはさっと目を逸らし、小さい声で言った。




「……………………肌の水分量が減ったって言われるの」


「あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」




 美しさをキープしたいミゼラには怖い一言だ。

 ミゼラは頬を両手で包んで、小さく震える。



「水分量が減るってことは、肌が乾燥するってことじゃない? 肌が乾燥するってことは、小じわが出てきやすいってこと。顔が粉吹いたりとか、インナードライになる可能性もあるわけ。インナードライになってごらんなさい! オイリー肌まっしぐらよ!」



 ミゼラのセリフの後半はよく分からなかったが、とにかく怖いことだけはよく分かった。

 今から健康診断に向けて体を整えようと意気込む彼の前で、私は悠々と食事をする。私は関係ないから、特に気にすることも無い。今日は部屋で小説でも読んでいよう。



「ソラ、健康診断は来週よ。覚えておいて」


「なぜです? 予定の管理はトリスの仕事でしょう」



 私がトリスの方を見ると、トリスも渋い顔をしている。まさか、トリスも健康診断があるのか。ならミゼラのサポートを交代しても不思議じゃない。

 ミゼラは呆れた表情で私を見る。



「あなたも受けるのよ。健康診断」



 完全に他人事だと思っていた私は、間抜けな声を出す。

 私も必要? 一番要らないだろう。



「ミゼラ様、私は必要ありません」


「いいえ、受けてもらうわ。十二血族とその使用人は、この季節の健康診断は義務付けられているの」


「私は契約はしていますが、使用人の類ではありません。立ち位置が違います」


「あら、忘れちゃったの?」



 ミゼラはクスっと笑うと、ペンスリーから届いた手紙を私に見せつける。



「あなたも十二血族よ」



 手紙を読むと、ペンスリーはミゼラに『ソラシエルにも健康診断は受けさせよ』と通達していた。

 私は舌打ちをする。そうだった。忘れていた。



「ちくしょう」


「口が悪いわよ」



 ミゼラに注意されて、私は口をきゅっと結ぶ。

 農民時代は、健康診断なんて受けたことすらない。

 風邪は汗をかいて、その辺の草を食べれば直せる。……本当にそう言ったら、ミゼラが卒倒しそうだが。


 私が渋い顔をすると、ミゼラは「来週が楽しみね」と道づれを見つけて喜ぶ。

 私は彼に負けないくらい、大きなため息をついた。

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