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10‐7 悪質な商人は要らないでしょう?

「麻薬密売人を捕まえる⁉」



 私たちの申し出に、リュウマは目を丸くした。

 私たちを昼食に誘ってくれた席で、蕎麦にむせるリュウマに、ブルームが説明した。



「そうじゃ。わいは悪質な商人を許せない。そちらさんは国内に蔓延る麻薬を取り締まりたい。ウィン・ウィンな取引やんね」


「待て待て! 確かに困っとるが、ヒノモト全土に広がっとるモンを、どうやって取り締まる気じゃ?」


「全部は確かに難しいわな。でも、撤退させる方法はあるけん」



 ブルームが説明する。

 ヒノモトで暗躍している組織はある程度割り出した。その組織の潜伏場所を割り出せたら、一斉検挙をする。

 今いる地域の組織はブルームと私が捕縛し、根絶やしにする方法だ。


 かなり大規模で、全ての構成員を捕まえることは出来ないが、根城を叩けば、残党狩りをするだけで後処理が楽になる。

 その話をすると、リュウマは渋い顔をした。現実味がない作戦だ。全国と連携を取って同時に逮捕なんて、イーグリンドでもやったことがない。

 実を言うと、私も本気で出来ると思っていない。この作戦を却下された後の、小規模作戦の提示・実行によるイーグリンドの規制緩和が本来の目的だ。

 しかし、リュウマはとんでもないことを言い出した。



「……出来なくはないのう。ヒノモトも、密売組織の潜伏場所を割り出しておる」



 ――割り出してる?


 ブルームはリストを出して、「どこの?」と確認する。リュウマはリストの名前に「知らん」と言った。しかし、組織の数を数えると、ブルームに返却する。



「名前は分からん。でもここにある数と同じだけの場所を確認しとる。もちろん別れた同組織の可能性もあるがの」


「それで十分やき」


「ただ、山におる奴はともかく、海沿いを縄張りにしとう奴は難しいのう。船で逃げられたら、海域を超えられたらワシらは追うことが出来ん」


「それは、私たちで解決できます。どうでしょう、お互いに困っている身、助け合っては」



 私たちの申し出に、リュウマも「前向きに検討しよう」と言ってくれた。

 ただ、これが何日後に答えが出るか。一朝一夕で出せる答えではない。



 昼食を終え、リュウマと別れて一時間後。

 ブルームとヒノモトの工芸品を見て回っているときに、伝令役の人がブルームの前に走ってきた。



《リュウマ様より伝令! 作戦の申し出を受諾! 明日午後11時より作戦開始との事でした!》



 ブルームが伝令役に何かを伝えると、突然走って土産街を突き抜ける。

 私はブルームの急な行動に驚いて、慌てて彼について行く。



「い、一体何があったんですか⁉」


「作戦の受諾があったっち、急いで買い付けんといけんもんば出来よった!」


「即決だったんですかね。もっと協議が必要だと思っていましたよ」


「わいもじゃ。明日の夜11時頑張って起きてとうせ!」


「早いなぁもう!」



 ブルームの買い出しについて行って、私も必要なものを揃えよう。

 この国にあるか分からないが、何もないよりマシだろう。


 ブルームの向かった行きつけの武器屋。そこは彼の店ほどではないにしても、十分な数の武器が揃っていた。


 ***


 深夜11時。

 猫が私の足にすり寄ってひと鳴きした。

 作戦開始の合図に、私は深呼吸をした。


 山に潜伏した奴らを炙り出すため、私は暗い色の服を着てクロスボウを握る。

 拠点から発せられる小さな明かりを頼りに、私は彼らと距離を詰める。


 黒い髪はとても便利だ。闇に紛れて、誰にも気づかれない。

 だからこそ、この国の人はすごい。こんなに目を凝らしても、一緒に潜伏しているはずのヒノモトの仲間が一人も見つけられないのだから。


 私はクロスボウを構える。

 狩りの小屋を奪って拠点にしている彼らの様子が、小屋の中のランタンのお陰でよく観察出来た。

 明るい髪色が目立ち、ヒノモトで稼いだ金を数えている。

 私たちに狙われているとも知らず、下卑た顔で利益を数える彼らが滑稽で仕方がない。


 私は引き金を引く。

 放たれた矢が、小屋のランタンを見事射抜いた。

 真っ暗になった小屋から騒ぐ声が聞こえ、すぐに止んだ。


 ……急に冷静になったのか? いや、頭の切れる司令塔がいるのかも。


 私が息を潜めて小屋に近づくと、捕縛された密売組織の構成員がぞろぞろと出てきた。


 明かりが消えたあの一瞬で、ヒノモトの人たちが小屋に侵入。暗闇になれていない構成員の背後を取り、素早く捕縛。逃げられないように連結して、丁度出てきたところだった。


 ――ヒノモトの人間というのは、隠密行動に慣れているのか?

 それとも、元々特別な訓練を受けているのか。

 町民といい、作戦に協力してくれた警察組織の人たちといい、この国には超人しかいないのでは?


 とりあえずこちらの仕事は終わった。

 私は作戦通り、この現場を彼らに任せて離脱する。


 ***


 船に戻ると、ブルームが出向の準備を終わらせたところだった。



「あと三十秒遅れとったら置いちょこうと思うちった」


「すみません。ヒノモトの手際の良さに見惚れていて」



 ブルームが船を沖に出すと、東側遠方の海からヒノモトから追い立てられる船が三隻見えた。ブルームが船の明かりを消して気配を消すと、一隻の船はこちらに向かって進んでくる。


 陸地に避難するつもりなのだろう。

 しかし、船の距離がギリギリまで近づいた瞬間。



「明かりを灯せ! 目ぇ潰したるくらいの気持ちでビッカビカにしぃ!」



 ブルームが船の明かりを点けた。

 ギラギラに光る船に目くらましされ、船の方向が急に変わる。舵取りを失敗したのか、船は転回し、ヒノモトの船へと突っ込んでいく。

 残りの二隻は上手く避けて、私たちの船を避けるように逃げていく。


 ブルームが船の明かりを戻すと、指の骨を鳴らして二隻を追いかけた。

 獲物を見つけた鷹のように目を光らせて、ブルームは船を睨んだ。



「商人の看板に泥を塗りよって、酉の商人の前で陸地に着けると思うなぃよ」

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