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15‐5 確認したいこと

 ロイと話した日の夜、私は食事の席でミゼラに今日あったことを話した。

 スタルトスの手先と思しき女に毒を盛られかけたことも話し、ミゼラの表情を観察した。

 ミゼラは申し訳なさそうに「そう」と返事をする。



(迷惑をかけてぇわけじゃねぇんだな)



 ミゼラの様子を窺いながら、私は話を終えた。

 ミゼラは肩を落としたまま、夕食を進めていく。彼に悲しい顔をさせたいわけじゃない。私は、ミゼラにもう一度確認した。




「本当に、スタルトスとの関係を修復したいと思っていますか?」




 私の問いに、ミゼラは歯切れの悪い返事をした。



「……出来ることなら。そうしたいと思っているわ。今だって」



 出来ないと思っている。ミゼラも、引き返せないことを察している。

 私も、彼の願いに寄り添えない。これはもう、ミゼラたちだけの話じゃなくなっている。

 他者を巻き込んで、『因縁』なんて言葉で片付けてはいけない。


 ミゼラは、深く息を吐いて食器を置いた。

 トリスはミゼラを心配するが、エリーゼがトリスを引き止める。



「心配するのは分かりますわ。でも、ここで寄り添うのはちょっと違うと思うの。他人が脅かされたのに、被害者面しているでしょ。ミゼラビリス様がするべき顔じゃないですわ」



 エリーゼの強い言葉に、トリスは言い返そうとするが、口籠ったままその場に留まった。

 トリスが庇えないのをいいことに、私はミゼラに言った。



「もう思っていないのですか?」



 曖昧なセリフの裏の意味を確かめる。

 ミゼラは仲良くしたいと、心の底では思っている。でも、それが難しいことも分かっている。


 葛藤。自分の希望と現実の葛藤。


 これ以上の理想は追い求めることは出来ない。でも、本当に不可能なのか?

 ミゼラの思考をじっと読んで、私は彼に進言した。



「なりふり構っていられない。スタルトスの状況は、あなたを失墜させることに重きを置いていて、自分が当主になった後のことも、あなたを蹴落とした後、自分がどう見られるのかも分かっていない。それでも、スタルトスと仲良くできるのですか? もう一度、兄弟として生きられると思っているのですか?」




「諦めた方がいい。彼は、自分も、周りも、未来も見えていません」




 私の言葉に、ミゼラもようやく腹を決めた。

「そうよね」と言うと、ミゼラは背筋を伸ばした。



「スタルトスを、警察に突き出しましょう。十二血族でも、法の下では平等に裁かれる。前例だってある。彼には罰を与えるわ。ロイとソラを危ない目に遭わせたこと、後悔させてやらなくちゃ」



 ミゼラが自信を取り戻す。

 私は「それでこそミゼラ様です」と彼の覚悟を称えた。

 しかし、十二血族も普通に捕まるのか。そういえば、私が脱獄の罪で連行された時、ミゼラも一緒に連行されていた。確かに前例はある。



(……あぁ、違うわ)



 ——前例は、私のことだ。


 ミゼラめ、しれっと私のことを貶したな。


 ***


 食事を終えた後、私はミゼラの部屋で話し合いをする。

 ミゼラの部屋は、前に訪ねた時より綺麗になっていた。あのごちゃごちゃに散らかった部屋を片付けたトリスにはプレゼント付きで褒めてやりたいくらいだ。



 ミゼラが私を呼んだ理由、それはスタルトスを逮捕する算段だ。


 彼を逮捕するには、彼が手引きした証拠を確保することが必須だ。

 残念ながら、彼が手引きした刺客を捕まえているのはロイ一人だけだ。しかも、自白はしているが、スタルトスが裏にいる証拠がどこにもない。


 と言うのも、その刺客はスタルトス自身に会ったこともなく、指定場所に置いてあったメモでしか指示を受け取っていなかった。

 これでは証拠としては薄すぎるし、スタルトスの名前を借りた誰かとも取れる。


 ミゼラ邸に来る刺客は、私とトリスが()()()もてなして、どこにとは言わないが()()()しまうので、家に来た証拠すら消してしまう。

 トリスに聞けば、証拠を残している可能性はありそうだが、どのくらい有効かも分からない。



「スタルトスが直接出てくる場面があればいいのだけれど」



 ミゼラがそうぼやいた。

 しかし、腐ってもドラク家の長男、ミゼラの兄だ。

 頭の良さは桁違いだ。それを欺くか、利用するかによっても行動が変わる。

 いいや、利用なんてできない。法律の血族に喧嘩を売るのだ。何かしら理由をつけて警察局に突き出されかねない。

 そうなったら困る。



(……誰が困る?)



 実行するのはミゼラか? いいや、彼が赴いたらスタルトスの思うつぼだ。

 トリス? いいや、彼がいなかったらミゼラのサポートを出来る人がいなくなる。

 エリーゼなんて、隣国とはいえ騙されて売られたのに、こんな重荷を背負わせるわけにいかない。



 都合のいい人間をつかわなくては。



 スタルトスが害を与えようと思えて。

 法律にも警察にも恐れない人で。

 スタルトスに忖度せず、彼に臆さない。

 それでいて、居なくても困らない人間。



 ……——あぁ。



(…………誰が困る?)



 適任がいた。

 一人だけ思い浮かぶ。

 どうせ、本当ならここにいることのなかった人間だ。

 知ることのなかった人間だ。



「ミゼラ様、私に良い考えがあります」



 私はミゼラに言った。

 ミゼラは何かを悟る。私は彼に微笑んだ。



「私に、スタルトスの家を教えてください」



 元農民の、元殺人犯の、元死刑囚が、思い浮かんだのだ。

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