白い山
寒い空気の中、いつものバスを待つ。
いつもの冬、いつもの朝、いつもの通勤風景。
どこか違うところに行けたらなって思う。
誰も私を知らないところに行って、誰も知らない私になりたい。
……まあ、異世界なんて行っても今より評価されるわけでもない。
特技もない、特筆すべきことも、なにもないんだから。
面白おかしい物語になんかなるはずがないのだ。
後ろから、少年の会話が聞こえた。
「モンブランって響きがいいよな。こう……モンブラン! って感じで」
「そう? 別にどんな名前でも味は同じじゃないか?」
「マッターホルンよりいいだろ?」
「うーん……もしエベレストだったらどうだろう」
「やっぱりモンブランだなー。エベレストよりモンブランのほうがモンブランらしい」
「俺はモンブランがモンブランである世界で16年生きてるから、もしエベレストな世界だったらその判断はできないと思う」
なるほど。
最初からモンブランがエベレストだったらなんの疑問も持たないだろう。
もしかしたら、この私は誰かの異世界転生した人生なのかもしれなかった。
ごめんなさい、前世の私。こんな平々凡々な人生で。