夢、覚めて。
真っ暗な部屋、目に入る天井には、薄らと顔に見えるシミの様なものが出来ている事に気付く。
「あんなの無かったはず」
ボソッと呟くと、横から唸り声が聞こえて、声の方を向く。だが、そこには何もおらず、視線を天井へ戻す。
「はぁ」
ため息一つ吐いて、目を瞑った。その瞬間、目元に冷たい感触が走る。
「え?」
何が起きたのかわからない。だが、これを取らないと。そう思って、目元の何かを触る。
「⁉ え、何これ、ベットベトで気持ち悪い!」
手に伝わる冷たさとスラムでも掴んだかのような感触。鳥肌が立ち、気持ち悪さがゾワゾワと体中に広がって行く。どんなに取ろうとしても、取れなかったそれが、急に腕に絡みついてきて、さらに悪寒が走った。
「うへぇ……」
間抜けな声を上げると、それは完全に腕に移動したらしく、目元から冷たい感覚は去っていた。
やっと目を開けられる。
安堵しながら、目を開く。目に飛び込んできたのは、緑色のドロドロとしたスライムだった。
「何、これ」
いや、スライムだって事は分かる。何でこんな所にあるのか、いや、居るのか? がよく分からない。数秒眺めていると、スライムが変形でもしようとしているのか、ウニョウニョと動き出した。
「え、えぇ、何」
スライムは形を鳥に変え、絡みつくのではなく、腕に留まっていた。妙に細いフォルムのフクロウ? の様な緑。
「フクロウだよな、これ……」
首を傾げたり、こちらをのぞき込んでくるそれに妙な可愛さを感じた。数分経って、今度は少しふっくらとしたフォルムに変わった。
……気になる。
眉のような触角のような、基本的な形は変わらず、体形というべきか、ふっくら度が変わる姿を見て、どうしても気になってしまった。ベッドのすぐ横にある机に置いてあるスマホを取って、フクロウの種類を調べる。
メンフクロウ……コキンメフクロウ……モリフクロウ……どれも違う。次に出てきた画像があまりにもそっくりで、スクロールする手を止めた。
「オオコノハズク……こ、これだ!」
やっと名前が分かって、すっきりとしていると、どこからか声がした。
「て……今日、スパ行くんだよね? ……てば、ねぇ」
誰の声だ? 考えていると、可愛い形をとっていたそれは大きく広がり僕を飲み込んだ。
「え?」
一気に暗くなる視界にどんどん増す息苦しさ。その暗さに怯え、目を瞑る。
「はッ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
目を開いてみると、明るい部屋にいつもの天井。額から背中にかけて汗をかいていて、布団はビショビショ。何が起きたのか分からないでいると、少し離れた所に座る母がこちらを見て言った。
「凄くうなされていたけれど、怖い夢でも見ていたの?」
あぁ、夢か。ホッと胸を撫で下ろす。スマホを取って開くと、フクロウの画像。
寝る前に見ていたものに引っ張られるのは分かるけど、あんな夢じゃなくたって……。
すると、ガタガタと足元から物音がした。
「グォオオ」
聞き覚えのある唸り声。
「え?」
冷たくドロドロとした感触がした。