意外な宣告
「OK、聞く準備ができたようだね?」
「アッハイ」
何とも間抜けな返事しか出てこないが仕方がない。俺はまな板の上の鯛、あれ?鯉だっけ?まあいいか。
恐れ畏まるべき存在が目の前にいる。緊張しすぎて帰って冷静になるという不思議体験中だ。
「君が今ここにいるのは、偶然でも間違いでもない。いわば必然だ。そういうものだと受け止めてくれ。」
「ハイ」
気が付いたら、俺は正座の姿勢をとっていた。
「うん、いいね。まぁそこまで畏まらなくていいよ。」
正直正座は苦手なのでありがたかった。お言葉に甘えて少し座を崩す。
「さて、地球の君についてだけれど、」
ぽわぽわぽわ~んみたいな音がして、最後の記憶が目の前で再生される。
ーーー君は昨日の夜遅くまでネットゲームをしていたね。
そうだ俺は昨日の夜、久しぶりにネトゲ友人たちと遊んでいた。あともうちょっとが長引いて寝落ちして、気がついたら朝だった。連日のブラック勤務の疲れが来ていたんだ。正直仕事なんて行きたくなかったけれど、遅刻したくもなかったので急いで支度をして部屋を出た。
ーーーそれから?
駅の階段を駆け上がっているとき人を避けようとして靴ひもが切れたなぁ。だけど急いでたから後回しにしたんだっけ?その電車を逃すと遅刻確定だったから。電車が会社の最寄り駅についてからも走らなきゃいけなかったな。ああ、そうだ駅前通りを横断したんだ。その時ものすごい速度で走ってきたトラックに轢かれそうになったんだっけ?あんなにクラクション鳴らさなくてもいいのにイラッとして振り向いたんだよな。そしたら切れた靴ひもを踏んで転倒したんだ。だから後ろを向いたまま後頭部を歩道のガードレールにぶつけたんだったな。
「それで俺、いえ僕はどうなったんですか?」
「今それについては説明する必要がないだろう。」
ーーーつまりはそういうことなのだろう。
………何だかガクッとしたが、仕方がない。さっきも言われた通りそういうものだと受け止めよう。
「問題は君のこれからなのだが…、」
「もう正直に言っちゃうと、このままでは地獄に行って永遠の消滅を受け入れるしかないんだよね。」
「えっ?僕がですか?何か悪いことでもしましたっけ?」
まったく自覚がなかっただけに寝耳に水だった。
身に覚えのないことで悪者のような扱いは、正直腹が立つ。
天国とはいかないまでも、何か来世ではもうちょっと頑張って。とかそういう感じかなぁくらいに考えていたから、とても受け入れる気になれない。百歩譲って地獄行きは良いとして(良くないけど)、永遠の消滅とかいう響きは普通に恐い。
「うん、まあ、そういうところなんだよね。」
「いやいや、納得できませんって。僕は一度も捕まったこともないし、普通に生活していただけじゃないですか。」
「そうだね。一度も警察のお世話になったことはないし。普通の部類に収まってはいたと思うよ?」
「そうでしょう?」
「まぁ、でもそれだけなんだよね。ハァ…。」
なんだか露骨にガッカリされているのはわかる。
「じゃあいったい何がいけないって言うんですか?えーっと、ほら、それにいいことだってしましたよ。」
「学生の頃ボランティアだってしました。募金だってたまにはしていますし…。」
「もっと悪い人だっているじゃあないですか、同級生のヤンキーだった奴とか。」
「と、とにかく、納得のいく説明を欲求します!」
「う~ん。ほんとに知りたい?じゃあ仕方ないなぁ。ホントはこういうのガラじゃないんだけどなぁ。」
そう言って、どこからか書類の入ったフォルダーのようなものを取り出すと。
う~ん。う~ん。と唸りだした。