三日後
それから三日経った夕方、神崎から事後報告の電話があった。
見つけるまでが「さがしもの屋」の仕事。
なので、それ以降のことは別に知らせなくてもいいのだが、律儀な男だ。
「おかげさまで、例の場所に案内しましたら大変喜んでおられました」
思い出の桜は無くなったが、代わりのものがあった。
「あの写真、役に立ったね」
チョコちゃんの飼い主から貰った六枚の写真は、そのまま神崎の元の依頼者の手に渡った。
貰い物を右から左へ流しても、葉桜は別になんとも思わない。そういう女だ。
「これで心残りなく老人ホームへ入れるとおっしゃっていました」
孫の名札を付けた桜の木は、小学校入学の記念に植樹されたものだ。
だが、名前の子は小学校へは行けなかった。
入学式前日の夜、風邪が悪化して、そのまま亡くなったのだ。
悲しみに打ちひしがれた両親は、四十九日が過ぎると、この土地を後にした。
おばあさんも離れたところに住んでいたので、公園の桜だけが残された。
植えたときにはまだ若木で、来年にはきっと花が咲く。そう期待されていた桜。
その桜は両親にもおばあさんにも咲いた姿を見せられないまま、切られて消えた。
しかし、六枚の写真の内には、細いながらも立派に咲いたその桜の木の姿が残されいた。
「そういえば、高校入学祝いのプレートの子。何かわかった?」
「はい。交通事故で亡くなってますね。友達と先輩の車に連れ立ってドライブ中、スリップしてガードレールにぶつかったそうです。他の子たちは軽傷だったんですが、運悪く彼女だけは打ち所が悪かったようで」
「事故の原因は」
「雨の夜にスピード超過。当時の新聞記事ではそうなってます。それと、その事故現場は公園からわりと近いようですよ」
「若い身空で」
「まったく、気の毒な話です」
それから口座に入る報酬金額の確認をすると、二人は電話を切った。
スマホを顔から離してポケットしまって、ふと葉桜は空を見上げた。
遠くベンチの上に伸びた枝に、また新しい葉が芽吹いている。
特に用があったわけでもないが、葉桜はまたあの公園にいた。
腰かけているのは最初に座っていたベンチだ。
はじめに声をかけてきた幼い女の子。
雨の中をわざわざ話にきた女子高生。
二人は向こうからやってきた。
だが、それも偶然といえないこともない。
ぼーっとしてるようにしかみえない葉桜の前を、二人の女子高生が通り過ぎていく。
「そういえばさ、聞いた? あの話。この公園の!」
「なになに? なんの話?」
「あれだよ、あれ。『おばけざくら』!」
「あー、木もないのになんか夜光るってやつでしょ?」
「それがさ、なんか『おばけざくら』の精が出たんだって」
「せい? せいってなに? 幽霊?」
「みたいな感じ? なんか、なくなった桜を探し回ってんだってー」
「へー、マジで? どんな姿してんの? そいつ」
「探し続けて疲れてるらしくてさ、すっげーぐったりした女らしいよ」
「なにそれ! マジ気持ち悪くね? 会ったら呪われんじゃね?」
去っていく女子高生たちを横目で見送ると、おもむろに葉桜は立ち上がった。
つぼみが綻び始めた桜並木の道を、女子高生たちとは逆方向へ歩く。
心なしか、いつもよりきびきびとした動きで。