二日目
今日は雨が降っていた。
桜の開花はやや遅れるだろうが、公園の芝生や木々にとっては恵みの雨だ。
葉桜の調査は二日目。
結局、昨日は何もせず、ベンチでだべってそのまま帰った。
さすがに雨の中、濡れたベンチに座りたくないのか、今日は公園をぶらぶら歩いているようだ。
差しているコンビニのビニール傘は、いつの強風に煽られたのか、骨が曲がり、あちこち引き攣っていた。
舗装された遊歩道の表面は薄い雨水に覆われて、歩くたびに小さな水飛沫が上がる。小さな波が立ち、芝生まで進むと、流れてすぐに沁み込んでいく。
平日、昼間の雨の公園。
こんな天気に行き交う物好きな人影など他に無い。
ぐるりと回って、丘の裏、東屋に着いた。
四本の柱で支えられた屋根の下には、板作りのテーブルと座席。
もちろん、いまは無人だった。
そのすこし離れた場所には小さな噴水がある。
あいにくの雨模様なので水は止まっていたが、忙しなく落ちる雨粒で水面は小さく粟立っている。
神崎の話によれば、かつてこの辺りに、桜が何本か植樹されていたという。
しかし、いま現在、その痕跡は一切見当たらなかった。
そんな状況で、かつてあったそのうちの一本の場所を探さなければならない。
葉桜は天を仰いだ。
のどが渇いたので、肩から下げた水筒に口を付けただけだった。
「はぁ~あ~……」
溜息なのか、それとも一息ついただけなのか、いまいちよくわからない。
「あれ? もしかして、アンタ……。『またはざくら』って人ー?」
不意に背後から声がした。
水筒のキャップを閉めて振り返る。
そこには、制服を着崩した女子高生がピンクの傘を差して立っていた。
登校時刻はとっくに過ぎているし、下校時刻にはまだまだ早い。
いまどきちょっと見かけないほどギャルギャルしいメイクだった。
「『また』は余計。『はざくら』だけでいいよ」
「きいたよー。なんかー、切られた桜? 探してるとかってー」
葉桜がこの公園で話した相手は、まだ一人しかいない。
もっとも姿は見ていないが。
「うん。この辺にあったらしいんだけどね」
「それってさー。もしかして『おばけざくら』のことじゃない?」
「そんなのがあるの?」
「あるっていうかー、噂? みたいな」
女子高生の話によれば、夜、季節外れの時期に満開の桜の木があるという。
「でもー、近付いてみたら、ぜんぜんそんなの無いんだってー」
「へえ。公園の怪談みたいなものなのかな」
「かもー。ぜんぜんコワくないけどねー」
「別に見たからって害があるわけじゃないもんねえ」
「ねー?」
強くなってきた雨の厚い帳の向こう、ギャルは小走りで帰っていった。
東屋に一人残された葉桜は、怠そうに座ると片肘で頬杖をついた。
屋根を叩く雨音が、逃げ去っていく足音のように聞こえなくもない。




