一日目
背後に茂る木々から伸びた枝は、まだ新芽をつけたばかりだが、ほどよい加減に陽光を遮ってくれる。
その公園のベンチには、ひび割れまくった革ジャンを着た女が一人いた。
背もたれに両腕をまわすと、伸ばした肩がびきりと鳴った。
首を左右に動かしてぱきぽき言わせて、下を向いてから空を見上げる。
後ろに垂らした長い髪を分けるように、白髪が一条だけ混じっていた。
「はぁ~あ~……」
長い深呼吸。
開け放たれたジッパーの下、黒いTシャツの内のそこそこある胸が上下した。
「あー、もうめんどくさいなー……」
どうやらさっきのは溜息だったらしい。
伸ばしてきっていたジーンズの足をだるそうに組み替える。
腰のあたりに立てかけてあった丸い水筒がぱたりと倒れた。
いまにも靴紐が切れそうなスニーカーは、もしかしたら有名ブランドかもしれない。
くたびれぶりからみても、まったく大事にしていないようだが。
そのままぐったりしていると、不意に幼い女の子の声がした。
「おばさん、なにしてるの?」
「おば……。おねえさん。または葉桜さんと呼んで」
応えはしたが、顔を向ける気力もないのか、そのまま空を仰いでいた。
「またわはざくらさん、なにしてるの?」
「『はざくら』だけでいいよ。桜を探しにきたの」
「あっちにいっぱいあるけど、まだお花咲いてないよ?」
この地域に桜前線が到来するには、まだすこし早い。
天気予報の開花予想では、あと一週間か十日ほどと伝えられていた。
「んー。いまのじゃなくて、昔あった場所を探してるんだ」
「へえ、そうなんだ。みつかった?」
「全然。だって、まだちっとも探してないし」
ぷっ。
女の子が噴き出したらしい。
葉桜は首を動かして、声がした方を見た。
いまはもう誰もいない。
眠そうな目でゆっくり首を傾げると、またしても、ぱきりと軽い音がした。




