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地図を頼りに、特に迷うことなく森を抜けて洞窟へと一行はたどり着いていた。
一時間ほど隠れて見張ってみると、なるほど。確かにここがどうやら蛮族たちのねぐららしい。結構な数が出入りしていた。
先ほど戦った緑色の肌の怪物、ゴブリンやほかにも二足歩行の犬などが出入りしており、なかなかの激戦を予感させる。
「ふむ、さてどうしたものか」
「さくっと範囲攻撃であぶりだす?」
「いや、そうしたら数の暴力で潰されるのがオチだ。侵入して確実に削った方がいいと思う」
「ですわね。幸いにして私達には斥候の心得がある人もおりますし、隠密自体はそう苦労しませんわ」
「そっかぁ...」
「えぇ。まぁ、強くなれば格下の蛮族など何体いても傷1つ付けられることが無くなると聞きます。正面突破は次の機会に取っておきましょう」
「いや、そこじゃなくて...まぁいいや、ありがとね、エレーナ」
「いえいえ」
どことなく暖かな空気が場を支配する。
このまま放っておくとなんだか取り返しのつかない事態に発展しそうだったのでヴァイスがその小さな手をたたいて注目を集め、緊張感を取り戻させる。
「いちゃつくのは後にして、今はどう突撃するか考えようぞ」
「いちゃ...!?いえ、そうですね、そうしましょう」
「だね...」
策を考えるとは言っても、結局は新人冒険者たち。あまりいい考えも浮かばなかったため、結局サーチアンドデストロイでいいや、とものの十秒で意見がまとまり、じゃぁさっそく、とばかりに立ち上がって洞窟の方へと歩いていく。
それほど賢いわけでもないのか、入り口には見張りが建てられておらず、やすやすと侵入することに成功した。
そこは、人が横並びで4人は並べそうなほどの広さがあり、壁に設置された松明を光源とする、いかにもという雰囲気の洞窟だった。
どうやら今回の件で掘ったものではなく、天然のものを住処としてある程度手を加えたもののようだ。
ハンスとヴァイス、エレーナは壁に設置された松明を拝借し、自身の明りを確保する。暗闇の中でも目が効くため、松明を手に持たなくてもいいローザとカタリナがそれぞれ先頭、殿に立ち、奇襲を警戒する陣形だ。
少し進んだ段階で、ぎりぎり聞こえる声量でカタリナが「止まってください」とストップをかける。
「何か聞こえるような気がして...すいません、少し耳を澄ますので待っていてくれませんか?」
全員が頷き、では、とカタリナが耳に手を当てて耳を澄ますこと10秒、物音の正体を探り当てたのか、どこか誇らしげに、
「蛮族の声と、それから足音です。種類まではわかりませんが、足音の質的におそらく小さめかと。数は一体。やりますか?」
「そうだな、気づかれる前にやってしまおう」
「で、あるな。増援を呼ばれても面倒くさい故な」
「では、まずは私とハンスが突撃しましょう。私たちは夜目は効きませんが、まぁこの程度なら問題ないでしょう」
「だな。危なくなったら魔法なり銃なりで援護を頼むよ」
「ふむ。吾輩の魔法を頼りとするか。よかろう、ちと手荒になるが構わんな?」
「...絶対に倒し切るぞ、エレーナ」
「...えぇ、心得てますわ」
どことなく緊張感漂う中駆け出していき、こちらに背を向けていたゴブリンに向かってエレーナが殴りかかる。左フックからの全力の右ストレートを華麗にヒットさせ、その後ろからハンスが飛び出し追撃を加える。上段から勢いよくバスタードソードを振り下ろし、ゴブリンにとどめを刺す。ゴブリンはついぞ、その首にかけられた笛を鳴らすことなくこと切れてしまったようだ。
「...倒せてよかったですわ」
「本当にな...、痺れるのは嫌いだ」
電撃の恐怖から解放された二人は、安堵のため息をつく。
後ろからヴァイスが「ち、つまらん」と言っているのが聞こえてきたら殴りかかりに行きそうだが、二人は息を整えるのにそれどころではなかった。
戦闘だけならば問題ではなかったのだが、倒し切れなければ未だなれない電撃を味わう羽目になることもあって、普段より精神的に消耗していた。
ローザだけがただ一人、電撃を味わう仲間なため、メイスで軽くヴァイスを小突いてから仲間を二人回収に向かった。