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愛され転生令嬢は、頭が悪いと罵倒されました  作者: かないたちばな
王都学園一年目
22/36

王城・側妃殿下のお茶会

このところ、読みにくい文章になってしまってすみません。

側近A✳︎叔父様✳︎✳︎✳︎リーリエラ✳︎叔父様 視点


「くそっ!」

 王族の側近に与えられた執務室に向かいながら、堪え損ねた苛立ちが口からこぼれた。

 ブルーム辺境伯令嬢、我が主であるマーシャル第一王子殿下の婚約者。

 僕を見下すだけではなく、殿下に対しても偉そうに意見をする身の程知らず。

 かつて王女様が降嫁なさったザクルー伯爵家の嫡男であり、第一王子側近筆頭のこのデミロデオ・ザクルーが、たかだか田舎貴族の二女に文句を言われるなんて、ああ、腹が立って仕方ない!


「あれが噂のマーシャル殿下の天使か〜」

「ものすごい美少女だな!振る舞いも気品があって」

 確かに見た目だけは美少女だが……浮かれて話す子爵家の同僚達をじろりと睨む。

「見かけに騙されるなよ、お前ら。マダムが言ってただろう。所詮、辺境の野猿だと」

「そうだ!嫡男である我々に対して身の程を知らないあの態度。聞いた通りの不遜な悪女だ!」

 そう声を張り上げたのはテルード。

 実家のミンディ子爵家は王家御用達の服飾を扱う商会頭で、隣国との輸入ルートを確立したことで子爵になった成り上がりだ。

 ()()()()()()()発見したクトゥンという新素材と、それを使ったティオルの専売権を得て第一王子派についた。マーシャル様の金銭的な後ろ盾でもあるため、テルードも態度が大きい。

 だが、威勢のいいことを言っても、先程の婚約者様の注意に一番震え上がっていた口だけ男だ。


「あー、確か身内の不始末を不問にしてもらうために殿下に取り入ってきたんだっけ?辺境伯なんかと縁を繋いでも意味ないのになぁ」

 肩をすくめて言ったのは、実家が豪農であるジョージ。通常、子爵以下は領地を賜っていないが、ガルド子爵家は個人で広大な田畑を持っている。

 これまた、()()()()()()()発見した、魔物の素材を使った土地の浄化方法によって相当な利益を得たために、第一王子派についた。

 ジョージは辺境領との繋がりには意味がないと言ったが、宰相閣下は土地の浄化に必要な魔物をブルーム領から得ていると言っていた。大っぴらにはなっていないようだが、要はジョージ自身に繋がりが必要だという事だ。後継が家業について知らないというのは、問題じゃないのか?


 それに婚約者様はブルーム産商品の権利譲渡を破棄したいと言っていた。そのブルーム産商品というのが、浄化に使う魔物素材なんだろう。

 王家への貢献などと高尚なものではないと、あの厚顔なマダム・カジェンデラが苦々しげに言っていたぐらいだ。随分と恩着せがましい言い方をするものだと腹が立った。


「けど、婚約してから二年間も手紙や贈り物のやり取りだけだったんだろ?殿下も冷めてるんじゃないの」

 ユージーンが金髪の長い髪を気障に払ってニヤリと笑う。ことあるごとに高位貴族に多い金髪碧眼を見せつけてくるが、見た目で実際の身分が上がる訳じゃないのにバカみたいだなと思っている。

「王族の婚約だぞ。冷めたからどうこうなるものか」

 マイト子爵家は学者の家系で、マーシャル様と現当主の話が盛り上がった縁で第一王子派になったそうだ。

 お堅い家業の反動か、テルードは不真面目で勉強嫌いだ。入学したばかりの学園でもBクラスだという。先が知れているな。


 今でこそ()()()()()の第一王子だが、成長が遅かったために同い年の高位貴族令息は早々に第二王子についてしまった。なので、余っているのはこんな奴らばかりだ。

 爵位も程度も低いやつらに呼び捨てにされるのも不快だし、なにより今日みたいに陛下に呼び出されたら謁見資格のない子爵位のこいつらは役に立たない。

 学園に入学した事で、年上の高位貴族が側近に名を連ねることになるだろうと父上は言っていたが、そうなると僕が筆頭から外れるのも面白くない。


 呑気にわいわい話しながら先を歩く同僚達を見ながら、ため息をつく。こういう時に相談できる大人が、元子爵夫人にすぎないというのも面白くないと内心でぼやきながら、うんざりした気分で足を早めた。



✳︎



 すれ違っても挨拶の礼すらないそれらを、呆れ顔を隠しきれずに見送った。

 下位貴族が、披露目を終えたばかりの子供が、第一王子の側近になって浮かれているのが丸わかりの、品位に欠けた姿。そこに伴う責任や義務にまだ意識がついていっていないのだろう。


「エラの爪の垢でも煎じて飲め、未熟者どもが」

 ヴィート・レイド伯爵は、先程見かけた可愛い姪の振る舞いを思い出して心を落ち着ける。否、むしろ滾らせた。


「しかし、よくも不遜などと」

 自身の婚約者の側近の不始末に対し、苦言を呈すことなにが悪いのか。寧ろ、自身を顧みることなく影で罵ることの方がよほど不遜ではないか。

 第一王子の側近である子供達に高位貴族らしく注意をする凛々しい姿は、幼い頃に自身を躾けてくれた最愛の姉を彷彿とさせる。

 となると、相当数の崇拝者と同じように現れるだろう、反感をもって敵対する者達。


「まさかその筆頭が、献身を捧げる婚約者の側近だとは」

 そもそも第一王子がああも聡明になったのは、リーリエラの助言あってのものであり、マイト家を除いた先程の側近の家は、ブルーム領から搾取された事業に関わって力を伸ばしている。

 野菜然り、クトゥン然り、隣国からの輸入も辺境の仲介ありきの話。ザクルー家は運送業を営んでいるのに、国内の旅路の安全を二つの辺境伯軍が守っていることもわかっていないとは、嫡男が聞いて呆れる。

 更にはリーリエラが第一王子に取り入ったなどという戯言が、側近の中でまことしやかに語られているとは。

 リーリエラやブルーム辺境伯家に王家入りするメリットなどない。あるのは脅迫まがいの謀、そしてその隙を与えてしまった自分の罪だ。


「……魔女め」

 賢く愚かな第一王子の後ろで糸を手繰る夫人の姿を苦々しく思いながら、ヴィートはその優秀な頭脳を素早く回転させた。

 大切な姉と自分の、大切なものの為に。





✳︎✳︎✳︎




「ご無沙汰をお詫び申し上げます。カトレア妃殿下」

 先日贈ったばかりのブルームシルクで仕立てた細身のドレスを纏った側妃殿下は、美しい微笑みを浮かべて私をお茶の席に誘った。


「リーリエラ。娘みたいに可愛いあなたに会いたかったのは本心だけど、気にする必要はなくてよ。折につけての素晴らしい贈り物、わたくしは嬉しく思っています」

「光栄です。先日お届けしたばかりなのに、こんなにすぐに仕上がるなんて驚きました」

「夏の色を贈ってくれたのはわかったのだけど、いい色だったから急がせてしまったの。これが天然の色なんて信じられないわ」

 カトレア妃が座ったまま、美しいシルエットで床に伸びるドレスを揺らす。その仕草は優美でありながら可愛らしい。

 落ち着いたオリーブグリーンに合った、緩いマーメイドラインのドレス。これを着こなすにはかなりのスタイルが必要。思わず見惚れてしまう。これでキュラス様みたいな骨太の男子の母なのだから、恐れ入る。


 ブルームシルクの元になるのはワームの一種が吐き出す糸。ワームに与える餌の魔素によって糸の色が変わる。当たり外れはあるけどその分とても美しい。しかも、糸は強いし汚れを弾く優れものだ。

 鑑定によれば防刃布ができるみたいなので、織り方を研究中。もう一工夫だと思うんだよね。


「本当に、惜しいこと」

 側妃様が頰に手を当て、しみじみと呟いた。

「あの、ブルームシルクになにか?」

「そうじゃないわ。今日の登城の理由のこと」

「……未然に防ぐことができず、申し訳ございません」

 優美な妃殿下に癒されて忘れていた記憶と、ついでに側近の態度まで思い出して眉を顰める。

 本来ならあまり表情を出しすぎるのは淑女らしくないと怒られるけど、側妃様は大らかに笑って自身の眉間をちょんとつついて指摘してくださった。

 母様なら視線で刺される。いや比喩じゃなくて。


「第一王子殿下の側近達に会ったのでしょう」

「……はい」

「どう思って?」

「力も意識も不足であると」

 きっぱりと言い放つと、カトレア妃は柔らかな笑みを浮かべたまま瞳を曇らせる。

「第一殿下の情緒は大分と安定なさいましたが、他人と関わるのは相変わらず不得手でらっしゃるの。雛の刷り込みのように慕うカジェンデラ夫人の言うままに、側近をお取り立てに」

 道理で、と頷く。カジェンデラ夫人に高位貴族にそれほどの人脈があるとは思えない。なんせ、お披露目会前の顔合わせで、マーシャル殿下のお守りに徹していただけの人だ。他の子達にうまく引き合わせる手回しもできていなかったと思う。

 性格や取り扱いに難があろうと、あの日のマーシャル殿下のぼっち具合は夫人の失態なのだ。


 一番側近に取り立てやすい同級生は、中立を保つ南の辺境伯家をのぞき、お披露目会の年にはキュラス第二王子殿下の側近入りを表明していた。

 マーシャル殿下の事情が変わったから、今なら側近入りしてもいいという方はいるだろうけど。


「一度側近入りすれば主人は変えられないのでしたね」

「王命でもない限り、王家への裏切りと見做されるのでタブーですね。だからこそ、側近が主人をきちんと育てるのです」

 なるほど。側近の不出来に困るのは主人だものね。だとしたら、責められるべきはやはり夫人ということになるのだけど……。


「陛下はなぜ、マーシャル殿下の側に他の教育係を付けないのでしょう」

 どう考えても、王太子となる王子の教育係がいつまでも前子爵夫人なのは分不相応だ。誰にも見放されていた二年前ならいざ知らず。

「……陛下は、正妃様が亡くなられたのは自身の責だとご自分を責めていらっしゃるの。ですから、母を奪った罪滅ぼしにと、乳母でもあった夫人を遠ざけることをしたくないのでしょう」

「はぁ……」

 思わず呆れる。十年以上経つというのに、ずいぶんとご自身に酔ってらっしゃるものだと思う。

 正妃様の死を悼むのとは別の話で、現実にはそれは美談などではない、ただの放置だ。

 人を変えられないなら、その人が教える内容を指導すればいい。

 そう思えば、さっきの殿下に対する叱責はどうかと思う。正しいことを学ぶ機会を与えずに知らないことを詰るとか、ないわ。


「……まさかマーシャル殿下を立太子にと拘られているのも」

「それは多分、わたくしへの意地ね。わたくしがお申し出を断って正妃にならず、側妃のまま自由に振る舞っているから」

 目を瞬く。あれ、正妃様を悼んで正妃の座を空けているって話では。

「てっきり、陛下が亡き正妃様にお心を残していらっしゃるのかと」

 言葉を選びながら首を傾げて見せると、妃殿下はどこか薄ら寒くなるような笑みを浮かべてお茶を飲んだ。


「確かに、わたくしが正妃となれば丸く収まることも多かったのだけど」

 妃殿下が完璧に隠した感情。だけどほんの僅か溢れたのは……怒りのように思えた。

 これ以上は聞かない方がいいと口をつぐみ、そうなのですねと相槌を打つにとどめる。


「……勿論、子爵以下を重用することが悪いとは言いません。ですが、彼らは高位貴族の常識を知らないし知ろうともしない。今回の名乗りを止められなかったのもそのせいね。誰一人、してはいけないことを知らなかったのよ」

「……知らないで済むことでしょうか」

「今回は済んでも、次はどうかしらね。……でも本来、大人の監督の元でしっかりと指導するために、子供のうちからの側近制度を取り入れているというのに……。

 夫人が自分の発言力の低下を恐れて、成人の側近を増やすのを許さないの。自身の不足には気付いているのかしらね。

 なによりそれを良しとしている第一王子殿下は、高位貴族の立ち回り方を学ぶことができるのかしら」

「……為さねばならない、が正解ですね」

 つまり、側妃様はその立ち回りを身につけさせるのが私しかいないと仰ってるのね……。面倒だけど、確かに私から殿下に助言すべきなのだろう。

 知らないで済まないのは、私も一緒だ。


「不躾なことを伺いますが、カトレア妃殿下はキュラス殿下を立太子させたいとは思われませんの?」

 ストレートに聞きすぎて、周りの侍女がギョッとする。後で怒られそうだ。

 でももう、キュラス様が立太子した方が手っ取り早い。マーシャル殿下の優秀さって、人の上に立つタイプじゃないって気がするし。私もそうそう説教ばかりしたくないわ。

 妃殿下はほんの少し目を瞬くと、ゆるりと微笑んで答えてくれた。

「わたくし自身は、我が子を国が乱れる要因にしたくないと思いますわね」

「成る程」

 つまり、国が乱れないなら次代の王とするのも厭わないと言うことだ。


 なんでもないような顔で微笑み合い、その後はお茶とお菓子と商談を楽しむことになった。

 貴族付き合いの探り合いとか面倒くさいって思ってたけど、探り合いすらできない貴族付き合いはもっと面倒くさいんだなって、思い知った入学初日だった。

 




✳︎



「やっぱり娘はいいものね」

 側妃殿下とのお茶会が終わる時間を見計らってリーリエラを迎えに来るなり、妃殿下の物騒な台詞が聞こえた。

 ……娘、とは。

 思わず口元が引き攣る。

「また成果は商会の方に知らせます。楽しみね」

「本当に!また新しいものができそうです」

 スルーか。スルーなのか、エラ。

 そこからは礼儀正しく挨拶を交わし、先に退室する妃殿下を離れた廊下から見送り、侍女の先導で近付いてくるエラに声をかけた。

 

「リーリエラ様」

「お……レイド伯爵様」

 うっかり気を緩めたエラが、急いでつんとした表情を作るのが可愛らしい。

「エラ、入学おめでとう。入学式に行けなかったお詫びに、馬車まで叔父様に見送らせておくれ」

「ありがとうございます、叔父様」

 声をひそめ、叔父としての口調に変えて寿ぐと、嬉しそうに笑ってちょこんと礼をとる。無邪気ないつもの姿にホッとした。

 妃殿下付きの侍女殿からエラを引き取り、エスコートで歩き出した。馬車は準王族の使う門に回されるそうだ。


「しかし、もう入学とは……いつの間にか立派なレディになってしまって、少し寂しいな」

「まぁ、叔父様ったら」

 ふふ、と愛らしく笑うエラが、小さくつぶやいた。

「必死にレディの仮面を被ってるだけよ」

 幼い顔に一瞬浮かんだ疲れた表情に虚を突かれる。

「……エラ」

「まだ初日だから被り慣れてないだけだと思うわ」

 かける言葉に迷う内に、エラはすっと表情を戻してしまった。

 気になるが、あまり王宮内でエラを甘やかす素振りはできない。本当は今すぐ抱きしめて頭を撫でたい。

 


「側近の件は俺からも陛下に奏上してみる」

 馬車に乗り込むエラに手を貸しながら、耳元で囁くと、エラが驚いたように目を瞠る。

「叔父様、でも」

「このくらいは問題ないよ。殿下のためになることだ」

「……お願いします」

 ほんの少し緩んだ目元にホッとして、馬車から離れる。

「それじゃあ、気をつけて。週末は()()()くるんだろう?」

「はい!」

 尋ねると、ばっとエラの顔が輝いた。


「週末は()()と、()()お伝えください!」


 学園寮へと戻る馬車を見送り、笑顔が見られてよかったと素直に思う。だが同時に憂鬱な気分でため息をついた。

 陛下に奏上すると言ったが、陛下はきっとカジェンデラ夫人に任せるとしか言わないだろう。何を考えているのかわからない大人より、側近の中で唯一見込みのあるサフィア嬢に学ばせるのがいいかもしれない。

 あの子は()()()()()使えそうだから。




 

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