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愛され転生令嬢は、頭が悪いと罵倒されました  作者: かないたちばな
王都学園一年目
20/36

入学式・不穏な気配


 シャーロット様と共に、事前通達のあったクラス分けに従い教室に入ると、20ほどある席の半分ほどが埋まっている。

 三日前に事前テストがあり、その成績順に新入生56名が三クラスにわけられた。

 一年生は知恵を司る神様の名がクラスについているのだけど、頭文字をとって上から順にS、A、Bと呼ばれている。


 我がSクラス16名は、さすがに錚々たるメンバーである。

 高位から、マーシャル第一王子殿下、キュラス第二王子殿下、カルタス・メイクロード公爵令息、シャーロット・コールドゥル侯爵令嬢、ヴァルハルク・セイレーン侯爵令息、ルナローラ・モルガン侯爵令嬢ときて、これにサフィア・エラーダ子爵令嬢を入れた7名の成績優秀者が名誉ある生徒会役員に決定している。


 あとは、コットンクトゥンに興味津々だった流行に詳しいユーリア・カプトレイ伯爵令嬢、農耕や牧畜で領ぐるみでお世話になっているシンシア・エクレール伯爵令嬢がSクラス。

 残る6名は子爵以下だが、男爵家の子息達はいない。礼儀作法とか社交も重視されるのでさすがに難しいのだろう。

 唯一の平民で、歴史ある大きな商会のご子息がいるが、人柄を見極める機会はあるだろうか。


 お披露目会前の茶会でお知り合いになった子達は、7人のお花ちゃんの内、残りの3人の伯爵令嬢がAクラス。

 第二王子派の公爵令息がAクラス、騎士団長の息子であるリンドール侯爵令息と南のエディンバラ辺境伯令息はBクラスとなっている。いつかお手合わせ願いたい。

 


 個人の点数は公表されてないけど、生徒会から声がかからなかったところをみると、私はAクラスギリギリだったのだろう。一応殿下の婚約者だから、惜しい方のギリギリなら優先されたはず。優先……といっていいのかはともかくとして。


 琴音の意識がなくなったことで、私の知能は当然の如く低下した。主に集中力とか思考の言語化あたりが顕著だ。

 とはいえ、琴音が私に合った暗記方法とか勉強方法を確立してくれたおかげで、習うことの八割程度は苦労せず身につけられるようになっている。

 定期的に送られてくる課題の達成度も中の上、及第点ぐらい。自分的には十分なんだけど、添削と共に送られてくるマーシャル殿下の手紙では、努力が足りないとちくっと怒られたりはする。その通りなので返す言葉もない。

 殿下は天才だけど、琴音曰く、その能力を遺憾なく発揮するためには努力が不可欠なタイプの天才、らしい。つまりこの二年、ただ好きなことだけやっていただけではないだろう。

 婚約者とはいえ、交流の少ない私には詳しくはわからないけど。



「ブルーム嬢、シャーロット嬢。久しいな」

 並んで席に着く私とシャーロット様に声をかけて来たのは、キュラス第二王子殿下。後ろにはメイクロード公爵令息とセイレーン侯爵令息。

 二年前のお茶会では、マーシャル殿下を蔑み、無視したり吃音をあげつらったりと、だいぶ感じの悪かった子達だが、マーシャル殿下のその後の成長で、だいぶ肩身の狭い思いをしていることだろう。

 それにシャーロット様はキュラス殿下の婚約者候補だし、私から敵対する理由もない。正味、王太子妃などという面倒な立場にならずに済むなら、その方がありがたい。


「キュラス王子殿下、ご令息の皆様もご機嫌麗しく」

「他人行儀はよしてくれ。ブルーム嬢は未来の義姉君になるのだから、どうぞキュラスと」

 にこにこと愛想よく紳士的に接してくるキュラス殿下。ただ、後ろにいる側近候補さん達は表情には出さないけど不満そう。まぁ第一王子ライバルの婚約者で後ろ盾なのだから、警戒する気持ちはわかる。


「キュラス殿下、リーリエラ様に無理強いはなさらないでくださいませね」

 返事に困る私を、小柄で小動物系美少女のシャーロット様が、私を守ろうとキュラス殿下を軽く睨むようにして釘を刺した。やだシャーロット様、子犬みたいなのに守ってくれるとか。きゅん。

 

「不敬だろう、コールドゥル嬢」

「僕は学園で身分を振りかざす気はないよ、カルタス」

 メイクロード公爵令息がシャーロット様を窘めるのを、キュラス殿下が静かな声で諌める。

 ふむ?

「ブルーム嬢も。確かに僕たちが、純粋な友人として交流を持つのが難しいことは理解しているけれど、学生生活は有限だ。相手の顔色を窺うばかりの関係しか築けないのは流石に寂しいだろう」

 そう言って、キュラス殿下が肩をすくめる。

 どこまで本心かはわからないけど、どちらにせよどれだけ腹を割った付き合いをしようと、足元を掬われないように気を配るのは貴族として当然のことだ。


「……確かに、それはとても面倒ですね」

 身を寄せてくるシャーロット様に微笑みかけ、その笑顔のままキュラス殿下に視線を合わせた。

「では、僭越ながらキュラス様と呼ばせて頂きますね。皆様のことも名前でお呼びしてよろしくて?私のこともリーリエラと」

「っ、……ああ、わかった。よろしく頼む、リーリエラ嬢」

 セイレーン侯爵令息であるヴァルハルク様が、ちらりと殿下の笑顔を見てから頷く。

 メイクロード公爵令息カルタス様は、否とも諾とも言わず、にこりと貴族らしい笑みを浮かべるのみだ。

 彼は確か二歳上にお姉様がいらしたはず。お披露目会の際に第二王子につく事になったカルタス様だけど、その後にマーシャル殿下が今までの悪評を覆されたことで王太子に一気に近付かれた。そのため私ではなくメイクロード公爵令嬢を王太子妃候補に、という申し入れがあったそうだ。

 ブルーム家は辺境の護りがあるので、後ろ盾としての力はあれど、領地を出ることもほとんどないし政治には不干渉。事細かな後見という意味では力不足だからね。マーシャル殿下と私の婚約に納得してない人は多い。

 一番納得してないのはブルーム家うちだけどね。

 つまり、メイクロード公爵家にしてみれば、私は二重に邪魔なのだ。故にあんまり仲良くできなさそうだけど、私的には代わってもらえるならその方がありがたいので、是非足元を掬っていただきたい。


 貴族らしい微笑みを交わすと、案内に現れた職員の方の指示に従って、講堂へと移動する。

 サフィア嬢の姿が見えないけれど、側近だからマーシャル殿下に付いているのかもしれないな。

 移動中にはAクラスのお花ちゃんたちにも会えて、みんなできゃっきゃしながら再会を喜んだ。

 やだ、学校楽しい。



 全校生徒が苦もなく入る、個別の座席が設置された講堂。

 クラスごとに一列になり、講堂の前で合流したマーシャル殿下を先頭に入場する。私を見るなりエスコートの手を差し出してきたけど、ご挨拶を控えてらっしゃるのでとやんわり断る。ここは学校です、空気を読んで。不満そうな顔やめて。

 殿下を先頭に拍手に迎えられて入場し、無駄にふかふかした触り心地の良いーーいざという時に立ち上がりにくいーー椅子に座り、学園長の挨拶を受ける。姿勢を正したままぼんやりと聞き流し、講堂の設備や護衛の配置に気を取られていると、担任の紹介があった。

 我がSクラスの担任は品のいいおじいちゃん先生だ。文学と歴史専攻ということで文官っぽい雰囲気だが優雅な身のこなしには隙がない。

 Aクラスは教師らしく地味な装いだが、しっかり流行のポイントを押さえた三十そこそこくらいの女性。家政と外国語が専門だそうだ。

 Bクラスは筋骨隆々の壮年男性。元王宮騎士で武道と乗馬が専門とのこと。是非ともご指導いただきたい。熱い視線を送っていると目が合った。なにか通じた気がする。


 上級生に歓迎の挨拶をいただいた後は、新入生代表のマーシャル殿下のスピーチだ。内容は事前に王家と先生方の何重ものチェックが入っているから、問題はない。……はず。なんかちょっと嫌な予感がするけど。



「女神の目覚めを寿ぐ春の日ーー」

 まだ幼いが落ち着いた声が、ゆったりとしたリズムで紡がれる。スピーチは王族の十八番。その話し方や間の取り方なんかもきっちり指導を受けている。結構ためになるけど、なんか詐欺の手口なのかなって思う時もある指導だ。

 王族のスピーチなので、生徒も教師も全員が真剣に聞き入って……少なくともそのフリをしている。私みたいに。

「ーーこの歴史ある王都ロダール学園の一員として、勉学に励み、たゆまぬ努力をーー」

 意外と無難な内容だなぁと思ったが、マーシャル殿下が本気を出したらみんなポカーンのおいてけぼりな難解な講演になってしまうかもしれないもんな。

 それよりあの明かり取りの天窓のガラスは強化されてるんだろうか。ちらっと見た外壁は登れるようなとっかかりはなかったけど、例えば校舎の四階から強弓でてっぺんを狙ってフック付きロープを……って違う違う、侵入する方じゃなく守る方を想定せねば。

「ーー先生方、先輩の皆様、ご指導のほどをよろしくお願いーー」

 あ、そろそろ終わりそうかな。さすが長すぎず短すぎずでいいんじゃないかしら。


「新入生代表、マーシャル・リュクス・エナ・カル・ロダール」

 ……ん?正式名フルネーム真名まなって言うんだっけ。この挨拶は成績優秀者としてだから公務じゃない。だから、真名は名乗らなくていい、じゃなくて、名乗っちゃダメ、なはずでは……

 さりげなくキュラス様に目をやると、表情は変わらないものの目が微かに泳いでいることから、動揺していることがわかる。

 そりゃそうだ。真名を詐称とか悪用とかされたらすっごく困るもの。例えばマーシャル殿下の真名を使って誰かを処分する命令を出したら。税率を上げる命令を出したら。それだけ力があって、厳重に秘匿される情報なのだ。つまり、絶対、王位を争ってる第二王子なんかに知られちゃダメなやつ。

 公務で名乗る時も綴りがわからないように発音を変えるみたいだから、今のもそうだと思いたい。だけど正式に名乗るような公務は王太子になってからだ。けど、準備くらいしてるよね?


 ……嫌な予感、これ?

 平静を装っている口元がぴくりと引き攣る。

 ええ、まさか二、三回しか会ってない名ばかりの婚約者に監督不行届とか言われないよね……?

 ……いや、済んだことはいい。仕方ない。最後にやらかしたとはいえ、スピーチも名乗りも終わったんだ。これ以上なんかやらかす前に早く戻ってきてほしい。とはいえ、後は壇上から降りるときに転ぶとかくらいしか思いつかないからだいじょう……

 

 

「我が真名に誓う!いずれ訪れる新たな御世が、諸君らの献身にあるものであるよう全力で努めると!」


 大丈夫じゃなかった。

 なんかめっちゃキリッてして宣言した。それはいいけど、めっちゃ上から目線!ダメだから!新たな御世が自分のものみたいな発言は立太子される前に言っちゃうと不敬だから!まぁ立太子はされるんだろうけども!その内々の話があったとかで張り切っちゃったのかな?フライングでぶちかましちゃったのかな?

 ほらざわついた。みんなざわついてるから。先生方慌ててるから。真名の時から顔色悪かったけど、完全にあたふたしてるから。

 これ私まで怒られるの決定くない?とばっちりで注意受けるやつくない?カジェンデラ夫人とかにだから王都でちゃんとした教育をとか、ねちねち言われるやつだ。マーシャル殿下の分まで言われるやつだ。

 せめて一緒に怒られてくれないものかとキュラス様を振り仰ぐと、絶対にこっちを見るものかと言わんばかりに力の入った首筋で逆を向いたキュラス様が見えた。くそぅ。



 二年前。私がブルーム領に戻ってから、入れ違いに王都に向かった父様と王家の間で正式に婚約が結ばれた。

 そうなると、王都に住んで王子の婚約者としての教育が始まるはずだったわけだが、まだ就学前で辺境領住まいだったことや、婚約の年齢が早くて時間の余裕があることで後回しになっている。

 偶に教師が派遣されてきたりそれなりに課題は出されていたけど、若かりし頃は王都貴族の華と言われた母様に対する信用もあり、私のペースでやれていた。

 つまり王家の細々した事情についてはさわり程度しか学んでいない。

 そんな私でもわかる、マーシャル殿下のやらかし。

 これって誰が対応するの?やっぱ誰か報告とかするんだよね?やっぱ側近だよね?サフィア嬢、あれ、サフィア嬢どこいった?殿下と一緒だと思ってたけど姿が見えないぞ?


 完全に白目を剥いた私を、完全なるドヤ顔で見ながら席へと戻ってくるマーシャル殿下。

 あ、こいつ全然わかってない。よし、説教だな。


 しかしその後は確実に私も説教なのだから、心の中でこいつ呼ばわりするぐらいは許して欲しい。





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