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愛され転生令嬢は、頭が悪いと罵倒されました  作者: 叶橘
転生したのにスペックダウン?
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塩味に飽きました。


 おかしい。

 リーリエラとして過ごして三日、まだ琴音としての意識が戻らない。

 え、それ私の本体やばくない?三徹明けで爆睡してるだけだよね?

 エラの生活をリアルタイムに過ごしているのもおかしいけど、エラは幼児だからか一日の半分を寝て過ごしている。……いや、やっぱり寝すぎだな。

 朝は少し早いけど、夜寝るのも早い。体感的には五時起き八時寝くらい。加えて昼寝を最低三時間。カテラ曰く、これがエラの普通。


 起きた後は日課の鍛錬。終わると、カテラが手伝いたそうにウズウズしてるのを尻目に、自分で汗を拭いて着替えて朝ごはんを食べる。

 ご飯の後は読み書きやマナーの勉強なんかもあるけど、その他は自由だ。

 ルーにいさまに本を読んでもらったり、ガオにいさまと追いかけっこをしたり、カテラに着せ替えられたり。

 計算は必須なものの、高等数学的な学問は無いと言う。え、これほんとに私の夢?

 無いものは仕方ないので、流されるままに過ごしているが、なぜかめちゃくちゃ楽しいのはエラ4歳の精神に引っ張られているからか。


 ちなみに父様と母様は朝から別行動だ。朝ごはんも先に食べて公務に勤しまれている。ルーにいさまも次の誕生日で成人したら、父様を手伝うのだそう。

 ルーにいさまの美声での読み聞かせは至福のときなので、今から少し残念。

 昼ごはんはみんな揃ってしっかり食べるため、朝は炭水化物とビタミン摂取のための軽い食事が普通らしい。

 塩味の雑穀入りのおかゆと、蒸して塩振った温野菜、塩味のスープと果物。

 お米があるのは嬉しいんだけど、なぜか調理法がおかゆオンリーなんだよな……物足りない。


 そして物足りないと言えば。

 うん、わかってる。大学入ってからの一人暮らしで、ご飯を作ってもらって食べさせてもらえることのありがたみは思い知った。だからワガママ言っちゃダメだって。

 いやでも夢の中なのだから、言いたいことは言ってもいいよね?だってもう気付いてるよね?

 …………すぅ。



 塩 味 ばっか じゃ ないか!!



「なんで野菜スープが塩の味しかしない……?グルタミン酸仕事しろよ……」

 今まで使ったことのない声帯でボソリと呟くと、隣に座るガオにいさまがビクッとしてキョロキョロと辺りを見回し出す。

 長方形の大きなテーブルを囲む席は、奥の短い辺の誕生日席に父様、その横の辺に男女分かれて並んでいる。

 奥がルーにいさまで、その隣がガオにいさま。ガオにいさまの向かいが私で、私の隣が母様だ。

「どうした?ガオ」

「いや、なんか野獣の唸り声みたいなのが」

「ガオったら変なこと言わないでちょうだい」

 母様が困ったように嗜める横で、無口なお父様が眉を顰める。マナーの悪さに怒ってるような強面だけどこれは、真剣に耳を澄ませている顔だ。

「確かに何か聞こえるな……こう、地底から響くような」

 父様が言葉を切って私を見る。家族全員が釣られるようにそれに倣った。

 もちろん私はそれどころではなくて気付いてない。

「肉は塩振って焼くだけだと……?イノシン酸なめてんの?骨とか筋とかなんで捨ててんの?おかしい、西洋東洋中華問わずグルタミンプラスイノシンは世界共通の出汁文化では……?香辛料はどこですか?行方不明ですか?自分で育てるからせめてハーブ……」

「エ、エラ?」

「この不気味な声の主がエラですって!?」


 顔を俯けてぶつぶつと呟き続ける私に、父様と母様の声がかかるが今はスルー。

 はっとして、がたんと椅子を鳴らして立ち上がる。

「……そうか塩中毒か!体重×0.5グラムで中毒量!」

「毒!?まさかエラの食事に毒が!?」

「大変だ、すぐに医者を!」

「いや、エラはまだ食事には手をつけてない」

「え、なに。ルー兄、見てたの?ずっと?」

 くわっと見開いた目で地を睨みつけながら、仁王立ちで叫んで落ち着いたのに、慌てふためいたにいさま達に抱えられて自室のベッドに運ばれた。

 昼寝の時間だから眠気が自然にやってきたけど、夕方目覚めてからも起き上がる気がしなかった。お腹は空いてるのに食欲が出ない。夢だから餓死することはないけど、辛いは辛い。

 早く目が覚めないかなぁ……。




✳︎✳︎✳︎




 翌朝、鍛錬の前にカテラが料理長を連れてきた。

 私の食欲がないことを心配して、食べたいものを聞きに来てくれたらしい。と、言われても、塩以外のもの……は難しいだろうな。だったらやっぱり。

「お米!おかゆじゃなくて、普通に炊いて欲しい!」

「普通に……?」

「あのね、土鍋に研いだお米と水を入れて吸水させて」

「申し訳ありません、姫様。土鍋で研ぐとは?」

 ……そうですよね。異文化だものね。

 夢なんだからこう、想像したものが具現化するとか思ったものがパッと出るとかできたらいいのに。

「……私、厨房に行ってもいい?」

 説明するよりやる方が早いし、鍋とかも使えそうか見たい。

 カテラと料理長が顔を見合わせたけど、辺境伯家の女性貴族は兵への炊き出しなんかもするから、料理禁止とかはないらしい。良かった。夢、仕事した。


 厨房で焼き物の小さな鍋を見つけ、計量した米を研ぎ、水を計って入れる。自分でしようかと思っていたけど、薪のかまどだったので諦める。

 ついでに調味料について聞いてみたが、やはり塩一択だそうだ。味覚仕事しろ。

 しかし塩には無駄に種類があって、産地によってとかで使い分けるらしい。味覚仕事しすぎかよ。

 もう少し探ってみたいところだけど、鍛錬に行かないとにいさま達が心配して騒ぐので、料理長にこの後の手順を説明して後を任せた。


「エラ!来るのが遅かったけど大丈夫か!?」

「ああ、今日は顔色がいいな。くれぐれも無理はしないように」

「はぁい!」

 いつものように騒ぐガオにいさまと、美しい顔を曇らせて私を抱き上げるルーにいさまに、元気いっぱいの返事をすると、二人がふにゃりと溶けそうな笑みを浮かべた。え、きも……けど、ご機嫌だから許すよ!

 今日の私の朝ご飯、白いご飯なの!


「なぜ……塩……?」

 炊き立てご飯を口に入れた瞬間に感じた塩味に、一気に感動が吹き飛んだ。いつだ、いつ入れた。

 スプーンを手に白目を剥いていると、にいさまたちが興味津々に覗き込んできた。にいさま達はいつものおかゆのようだ。

「なにそれエラ」

「これ、水気が足りないぞ」

「それはいいんです。そう頼んで作ってもらったので」

 そう、初めて炊いたにしては素晴らしいよ料理長。

 ツヤッツヤだし、お米の粒がしっかりしてて美しい。茶碗も欲しいし粒を潰さないような盛り方の指導が必要だけど、ちゃんとご飯だ。

 だがしかし。しかしなぜ塩を振った……?

「ひ、姫様……いかがでしょうか……?」

 恐る恐るというように料理長が聞いてくる。私の顔を見て既に謝る姿勢。

 この夢は塩の呪いに侵されているようだ。

「……炊き加減は丁度よいですが、今後、塩は入れないでください」

「申し訳ございません!畏まりました!」

 やっちゃったものは仕方ないけど、次はない。

 慇懃な口調で怒りを表した後は切り替えて、久々のご飯を噛み締めた。




✳︎✳︎✳︎



「エラ、森に行かないか」

 期待の反動で若干ぶすくれていると、父様が珍しく近くの森へ誘ってくれた。今はカロという飛ばない鳥が栄養をため込む時期らしい。

「鳥……鶏ガラ!行きます!」

「う、うむ。ついてくるだけだぞ?」

 そう、ご飯で学んだ。食べたいものは自分でなんとかすればいいんだ!


 カテラににいさまのお下がりの狩猟服に着替えさせてもらい、長い髪を結えてハンチング帽をかぶる。

「これは……!倒錯的……っ」

「まさかまだこんなパターンがあったなんて!」

 カテラとメイドがうるさい。なんのことだ。

 その後、迎えに来てくれたルーにいさまも蹲って悶え、合流した父様とガオにいさまと、見送りの母様までが尊いと涙を流した。え、この家の人怖い。


「あの茂みの奥だな。ウェスタン、行け!」

「ワンッ!」

 狩猟犬かっこよい。短毛の黒の大型犬が、父様の命令で茂みを飛び越えていく。

 ルーにいさまとガオにいさま、父様の側近の人達が連携をとって素早く動き出す。

 狩りは戦いの訓練でもあるそうだから、辺境伯領の兵士達の動きは無駄がない。

 いいなぁ。私も犬をモフりたいけど、4歳児の体に大型犬は同等以上に大きい。結構怖い。

 てか、ついてきたはいいけどやることがない。狩りには当然参加させてもらえないので、カテラと一緒に外用の簡易お茶セットを前に待機中である。

 仕方ないので、草の少ない地面に棒で線を引き、数独パズルを自作することにする。

 あ、でも土の色が薄くて線が見辛いな。


「姫様、お絵描きならお屋敷から石板をお持ちしましょうか?」

 察しの良いカテラの言葉に少し考える。お屋敷はここからでも見えるけど、ここまでは父様の馬に乗せてもらってきたし、決して近いわけではない。もちろんカテラでなくだれかお付きの人が取りに行ってくれるのだろうけど。

「うーん、そこまではいらないわ。もう少しわかりやすく……あ、あっちの黒土の方に行ってもいい?」

「ええ、構いませんよ」

 立ち上がり、びょこびょこ歩いて移動する。

 黒土の辺りはじめっとしていて、生えている木の根本には苔が生えている。

 湿った緑の匂いに、じい様の家を思い出す。エラのじい様ではなく、現実の琴音の祖父だ。数学者で、小さい頃から私に数学の面白さを語り聞かせた人。

 昔ながらの日本家屋に庭園で、大きな松は苔むして、松ぼっくりを拾うときに難儀した。

 五年前にじい様が亡くなってからは足が遠のいているけど、夢から醒めたら久し振りに行ってみようかな。


「黒土もうまく書けないなー……あ、あっちの白い土撒いて線を引くとか」

「……姫様は天才ですか」

「ん?いやでも、そこまでしなくていいや」

 口を押さえて感動しているカテラに運んでもらうのも悪いし、土を掘る道具もないし、手を汚してまでやりたいことでもない。

 山芋掘るとかなら汚れても頑張る。とろろご飯、いい。

 ……結局、食の方に意識が向いてしまうのは、やはり極限なのだと思う。

 ため息を漏らしてふと目を上げると、木の幹に何かがついている。びらびらしたなにか。茶色の薄い木耳みたいな……

「そうか、キノコ……」

 しいたけなどのキノコはグアニル酸うまみがある。また別風味の予感!

 カテラに聞いたら、キノコは食べ物じゃないと言われた。市場とかでは売ってないらしい。

 でもキノコは毒キノコと見分けが難しいっていうし、ほいほい採って食べるのも……あ、そっか。

 私、夢だから死なないわ。見つかったら怒られそうだけど。


 今夜は猟の獲物でバーベキュー的なことをするらしいから、紛れてこっそり焼いてみようっと。




とりあえず二話。

ストックなしで投稿しますので、更新頻度はぐずぐずです。

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