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愛され転生令嬢は、頭が悪いと罵倒されました  作者: かないたちばな
王都学園一年目
18/36

序章・ひとり立ち令嬢は爪を研ぐ

第二章開始です!

リーリエラ視点


「そのような低脳で王太子妃、延いては王妃が務まると思っているのか!!」


 リーリエラは震える手を隠す為に扇を閉じ、罵倒を止めない王太子と、その隣で嘲るように瞳を眇める子爵令嬢を見ながら、表情を曇らせた。


 学年最後の夜。学園主催のお茶会で、かっちりと正装を着こなしたマーシャル王太子殿下に大声で罵られたのだ。平気でいられるはずもない。


『其方は王太子である私の婚約者という立場でありながら、王太子妃教育も受けずに遊び回り、学生の本分たる学業も疎かにし、先日の試験の順位は下から数えた方が早いという体たらく!』


 それが殿下の言い分だった。


 そして、隣に立つ学年主席の才女、サフィア・エラーダ子爵令嬢。五年前、リーリエラがその頭脳を見出した元平民の少女である。

 シンプルな緑色のリボンで束ねただけの落ち着いた茶色の髪に、これまた緑の()()()な型のドレス。そしてレンズの厚い度の強い眼鏡。

 あまりにも手をかけていないその姿を、カジェンデラ夫人はどういうつもりで許したのだろう。


 試験の順位という秘匿されている個人情報プライバシーを声高に晒された。

 王太子という立場、婚約者に対してとはいえさすがにその行動は横暴で、顰蹙ものなのですが。


 思えばマーシャルは、昔から周りの空気を読むことが苦手だった。

 その優秀な頭脳で、自分の望む空気を作り上げるシナリオを書くことは出来る。だが今この場に満ちる侮蔑が、罵倒されたリーリエラよりも、居丈高に怒鳴りつける自分に向いているなんて気付きもしないのだろう。

 彼のシナリオの舞台は、いつでも彼の頭の中だけの世界なのだ。


 側近気取りのサフィア嬢が、その辺りをフォローしてくれるといいんだけど、彼女もその優秀さ故にマーシャルと同類で、さらにマーシャルに心酔しているために周りも自分と同じ気持ちであると思い込んでいる。

 まぁそれは、義理の祖母でありマーシャルの気が乳母ナニー家庭教師ガヴァネスであったカジェンデラ夫人の影響もあるだろう。

 ある種の洗脳ともいえる。やだ怖い。


 以前はこんな子じゃなかったのに、と彼女を見つめたリーリエラが扇の影でため息をつくと、サフィア嬢の顔色がさっと紅潮した。


「なっ、あなたはまた、そうやって外見でわたしを見下して……っ!わたしはシャルに並び立てるよう、日々勉強に忙しいの!貴女みたいに美容だお洒落だに使う時間はないだけよ!」

「なに!?リーリエラ、其方はそのようにサフィアを虐げているのか!?外見の美しさを鼻にかけるとは、なんて情けない……。其方もサフィアを見習って、知性を磨くべきだろう!」


 いや、言い掛かりですってば。被害妄想ですよ。

 いつもサフィア嬢はそう言って怒るけど、こっちはただ見てるだけだ。まぁ多少値踏みはしないでもないけど。

 勘違いして人を罵るのが知性を磨いた結果だとは情けない。

 それにその発言はいただけないと思うの。


「……発言をお許しいただけますか」

 ぱん、と音を立てて扇を閉じ、片足を後ろに引いて上体だけを倒す。直線と曲線を意識した礼に、殿下の勢いが削がれる。

 だって、この人は私の()()()愛している。


「っ、この会の主催は学園。生徒はみな平等だ。そのような他人行儀な儀礼は不要」

「ならば、遠慮なく」

 にこり、と微笑みかけると殿下の頬が染まる。

 こういうところは限りなくチョロい。


 私はしゅっと感情を引っ込め、無感情な瞳で婚約者を見据えた。

「それを理解されているなら、なぜ王族の正装でらっしゃるの。学園の卒業パーティーは非公式の場。主役は殿下ではなく卒業生の先輩方です。服装基準ドレスコードを弁えなさいませ」

「なっ……!?」

「どうせまた、威厳を示さねばなりませんとかなんとか()()()の言うことを真に受けて、前例も調べずに着ていらしたのでしょうけど、完全に場違いで礼を失しておりますわ。麗しい殿下にとてもお似合いなのは確かですけど」

 綺麗なのは間違いないので、そこは認めておく。

 私も殿下の()()()嫌いじゃないのだ。


「お、王族の正装を失礼だなどと……!」

「サフィア嬢。大切なのは外見ではないのでしょう?知性を磨くべきなのだと、先ほど貴女も仰ったではないの」

「私に知性が伴わないとでも言いたいのか!?落第で補習の其方が!」

 だから勘違いですってば。もー。

「殿下の知性は皆が認めるところですわ。ご心配なさらず。ただ、王族であれば知識を活かすということまでを」

「黙れ!低能が!!」


 私の指摘が逆鱗に触れたのか、ただの罵倒で話を遮る殿下にため息を吐いて、再び扇を広げる。


「……失礼致しました、王太子殿下」


 口先の謝罪は、ぴんと背中を伸ばしたまま。

 不快そうに顔を歪めるサフィア嬢に、この子なんとかしてくれとお願いしたい。

 王太子妃なんて、こちとら望んでいないのだから。






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