目
友人の長野から誘われた。
心霊スポット巡りに。
行き先はあの犬鳴村だ。
当日は長野の車で向かった。
古い峠道を走ると、鉄の門があった。
そこで前で車を止め、そこからは歩きだ。
しばらく進むと、ブロックでふさがれたトンネルに行き当たった。
長野が言った。
「上が空いているな。通れそうだ」
「うん、通れそうだ」
俺と長野の会話は緊張感など微塵もなく、まるでハイキングにでも来たかのようだった。
長野が小さくうなずき、ブロックに取り付いた。
そして登りはじめた。
俺はそれをぼうと見ていた。
長野は上まで登り、そこから中を覗き込んだ。
その途端、長野は「うわっ!」と大きな声を上げると、ブロックから滑り落ちてきた。
「どうした?」
俺が駆け寄ると、長野は尻餅をついたまま、少し震えた声で言った。
「目が……、目が合った」
「目が。誰と?」
長野はなにも返さず、立ち上がり駆け出した。
「おい、待て」
俺は長野を追いかけた。
長野はそのまま車まで走り、乗り込んだ。
俺も慌てて飛び乗った。
「どうしたんだ?」
長野は震えた体で車を運転していたが、俺が何度聞いてもなにも返答しなかった。
数日後、長野から電話があった。
「どうした?」
そう聞くと、長野が答えた。
「目が合うんだ。あれ以来ずっと。いつでも、どこでも」
「誰と。どんなやつと?」
電話は切られた。
その後、共通の友人から長野の目が急に見えなくなったと聞いた。
「これでやっと、あいつと目が合うことがなくなった」
長野はそう言うと、狂ったように笑ったそうだ。
終