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世界平和は俺が守る

 突如として前世の記憶がよみがえることはよくあることなのだろうか。

 たぶん良くあることなのだろう。だって前世でそういう本読んだことあるもん。転生もの、よくネットで検索してたわ。爆発的人気でサイト上位を総ナメしてたことあるくらいだもんな。

 一人うんうん、と頷く。

「ケイト様、どうされました?」

 頭に大きな角をはやし、大きな尾を振る女性がいきなり黙った俺を見上げる。

 見上げる、というのは、俺が彼女らよりも一段高く、そして大きな椅子に座っていたからで……

「……ああ、大丈夫だ」

 そう威厳たっぷりにこたえる。

「ようやくここまで来ましたね。もうすぐ、もうすぐこの世界は暗黒に包まれて……」

 角の生えた女性、ミランダの話をうんうん、と聞きながら頭を整理する。彼女は嬉しそうに涙ぐんでいるがそれに構っている場合ではない。

 確か前世の俺は高校生。友達は多いほうで、生徒会長をやっていて、なんで死んだのかは思い出せない。

「お父上が亡くなられてからケイト様はお若くしてそのあとをお継になって、今では素晴らしい魔王でございます。あと少しであの憎き勇者一味を根絶やしにすることが……」

「あー、あのさ、ミランダ」

 話を遮る。確認したいことがあった。

「何でございましょう?」

「その計画ってどの辺まで進んでるんだっけ?」

「はい、世界の九割を闇に染め、こちらに向かっている勇者たちも追手のおかげでじきに斃れます」

 あちゃーそこまで来ちゃってるか。っていうか勇者何してんだよ。世界滅んじゃいそうだぞ。今はこうやって魔王をやっているが、正直世界を滅ぼしたくなんてない。嫌なタイミングで記憶が戻ったものだ。いや、このタイミングならまだ間に合うだろうか。

 手で覆った顔をあげ、ミランダを見る。

「ご苦労。勇者は俺……私自ら倒そう」

 勇者をここへ生きて連れてこい、と命令すると、俺は真っ黒なただ重い邪魔なマントを翻して自室へと戻ることにした。

 とりあえず勇者が死ぬのは阻止しなくてはならない。俺が殺されるのがベストなんだろうけど、正直死にたくない。何とかどうにかして勇者と話をしなくては。

 俺は勇者の人となりを知るために、今まで上がってきた報告書に目を通すことにした。



◇◇◇


 「あーだるっ」

 どうして自分が勇者なのだろう。なんか知らんじじいにいきなり剣を渡されて、お前が勇者じゃーとか言われてこんな危険な旅に出されて。こんなのゲームの世界だけにしてくれよ。一般市民巻き込むんじゃねぇ。

 物心ついたころにはすでに前世の記憶があった。今までいた世界とは違い、中世ヨーロッパのようなよくゲームで舞台になる世界に転生したらしい。

 正直ゲームの世界に浸りすぎて現実との区別がつかなくなったと思ったけれど、引きこもった挙句久々に登校した学校でいじめっ子に目をつけられて死んだことを想いだした。

 人に必要とされないごみのようなくだらない人生だったけれど、生まれ変わった先がまさか勇者とは。

「最悪だな」

 こんな世界早く滅んでしまえばいいのに。

 ルークは後ろからついてくる自分のパーティーメンバーを振り返る。

「大丈夫です! もうすぐ魔王の城ですよ! 魔王を倒せばこの世界に平和がやってくるのです」

「刺し違えてでもこの世界を守ってみせる!」

 魔導士もランサーも元気なことだ。けれども刺し違えても守りたいものなんて自分にはない。

 この剣を捨ててしまいたい。この重いばかりの勇者服を今すぐ脱ぎ捨ててしまいたい。


 あー早く世界滅ぼしてくれないかなー魔王。


 ルークは紫色に変色した空を見上げて祈りをささげた。



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