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F@nd  作者: hiro.biz
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フェルン@と能力の一端

フェルとのID巡りから数日たったある日、ヤツから厄介な頼み事をされた。

ヤツとは……そう、ユッキーである。

「show、ワタシ@ちゃんと遊びたいの」

「へー、良かったね。フレンドリストに登録してるんだから、連絡を取って遊べばいいじゃん」

この後の流れは言うまでもなく予想は出来る。どうせフェルと遊べるように色々とセッティングしろと言う事だろう。

しかし、俺にはメリットが全く無いので適当に流せるものなら適当に流し、この会話は即座に終了と言う事にしたい。

「今、とってもフェルニウムが足りない感じなの、ショタニウムの中でも上質なフェルニウムを補給したいなー」

そもそも、フェルニウムとショタニウムと言う物質が何かは不明なのだが、おおよその予想は出来る。

きっと目には見えない物質で、尚且つ俺は全く補給しなくても良いものだろう。

「へー、聞いたこと無い物だけど、コンビニとかに売ってるなら買ってくれば?」

「それが売ってないのよね」

どうにかして、この下らない会話を終了させる事が出来ないかと思考回路が焼き切れるほどに色々な会話のパターンを思考している。

恐らく、就職活動中の面接の時以来ここまで頭脳をフル回転させていることは無いと思う。もしかしたらその時以上にフル回転しているかもしれない。

ユッキーへの次の一手を必死に考えている時にネロさんがやってきた。

「showさん、前にフェルン@くんと一緒したと聞いたのじゃが、近々会う機会はあるかのー?少しフェルン@くんと話がしたいんじゃが」

…………。フル回転していた思考が一瞬止まる。

そして、その後、すべてを悟った……。

終わった……。と。

完全に逃げ場を塞がれた……。ネロさん……、タイミング悪すぎです……。

「今、ちょうどshowと@ちゃんと遊ぼうって話してた所なの。グッドタイミング」

捏造(ねつぞう)(はなは)だしい。そんな事は一言も話していない。

そして、ユッキーにとってはグッドタイミングだったとしても、俺にとってはバッドタイミング以外の何物でもない。

「ほうほう。それは丁度良かったのじゃ。運営から回答があったんじゃよ。少しフェルン@くんのスキルとかの事が判明したのじゃ。その事について話をしたかったのじゃ」

ネロさんの言うフェルのスキルとかについてと言うのは、フェルがスキル習得できない謎についてだろう。それは俺も興味がある話だ。

そう言う事ならフェルにコンタクトを取ってみるのも(やぶさ)で無い。

フレンド欄を確認したところ、フェルは現在ログアウト中となっている。後でメールでも送って返事を待つことにしよう。

「その話、俺も興味があるので、一緒について行ってもいいですか?」

「まあ、ついてくるも何も、showさんに頼んでいるのじゃ、showさんが来てくれんとな……。ワシ1人で行っても良いのじゃが、それならわざわざshowさんには頼まんのじゃよ」

言われてみれば当たり前の返答だった。フェルと会うだけならネロさんもフレンド登録はしているはずなので、わざわざ俺を経由する必要は無い。

恐らく、フェルを救出した時以来、全く接点が無いので、先日遊んだ俺かユッキーでワンクッション挟んでからフェルと会いたいと言う事だろう。

一応横にユッキーも居るのだが、ユッキーに頼まなかったのは……。とても賢明な判断と言えるだろう。

「そうですね。今、フェルはINしていないようなのでメールしますが、ネロさんの都合の良い時間とか日にちはありますか?」

「そうじゃのー。土日の夕方から夜なら確実に居ると思うのじゃ。フェルン@くんの都合もあるじゃろうから、土日に無理そうじゃったら都合の良い時間だけ聞いておいてもらえるかのー?」

「ほいほい、了解です」

ネロさんの希望を聞いてフェルにメールを送ろうとフレンドリストを開いていたその時、ログアウト表示だったフェルの表示がログイン状態に変わる。

「あー、ネロさん、フェルがちょうど今INしたみたいですよ。今からでも大丈夫なら連絡を取れますがどうしますか?」

「今日は時間に余裕があるのじゃ。フェルン@くんの予定が空いているならお願いするのじゃ」

ネロさんの返答を受け、早速フェルにチャットで連絡を取ることにした。

/wis to フェルン@:ちわーす。フェル、今時間ある?

/wis from フェルン@:はい大丈夫です

/wis to フェルン@:ネロさんがフェルと話がしたいらしいんだけど良いかな?

/wis from フェルン@:どこへ行けばいいですか?

肝心の待ち合わせ場所を決めていなかった。

/wis to フェルン@:今、ネロさんと相談するから少し待って

/wis from フェルン@:はい

返事をしないで待っているだけでも俺は気にしないのだが、わざわざ返事を返してくるとは、なかなか律儀(りちぎ)なヤツだ。

「ネロさん、フェルも大丈夫みたいですが、どこで待ち合わせしますか?」

「私の部屋ね」

「却下」

ユッキーが相変わらず訳の分からない提案をしてくるので、速攻で却下しつつネロさんの返事を待つ。

「うん、それで良いのじゃ。フェルン@くんは部屋の入り方は分かるかのー?」

ネロさんの口から俺自身の耳を疑うような発言が飛び出した。

「へっ?マジですか?ユッキーの部屋ですよ?フェルが危ないです!正気ですかネロさん!?」

聞き間違いと言う可能性も捨てきれなかったので、念には念をと言うか、俺の聞き間違いか又はネロさんが正気を失っていないのかを確認するために再度質問をしたのだ。

「失礼ね!ワタシのどこが危険なのよ!」

まあ、どこがと言われると少し困ってしまう。なぜなら、全てが危険だからだ!

「あー、うん、そうじゃのー。ユッキーの部屋じゃなくても他に人が来ない場所ならどこでもいいんじゃが、ワシの部屋はちと遠い場所にあるんで、フェルン@くんが来れないのじゃよ」

「他の人に聞かれるとまずい話ですか?」

密室で話がしたいと言う事は外部の人間に話を聞かれたくないと言う事なのだろう。

フェルを救出した時にボイスチャットの設定をフレンドのみにしたはずなので、設定を変えていなければ見ず知らずの他人に話を聞かれると言う事は皆無だと思うのだが、念には念をと言う事なのだろうか?

「聞かれても特段まずいと言う訳ではないんじゃが、フェルン@くんが他の人に聞かれたくない可能性があるのじゃ。そうなると他の人が居ない所の方が良いと思ってのー」

「じゃあ、俺の部屋でも大丈夫ですか?」

「何でよ!!」

予想はしていたのだが、ユッキーからの猛反発があった。

「じゃあ、ユッキーの部屋でもいいけど、ちゃんと俺とネロさんを最初から入れる状態にしておけよ。初めにフェルだけを入れる状態にして2人きりを堪能(たんのう)してから俺達を入れるようにし直すとかは無しな」

「ヒューヒュー……」

ユッキーが漫画やアニメでしか見た事の無いようなあからさまな口笛での誤魔化し……。

しかも、ユッキーは口笛を吹くことが苦手なようで、口笛と言うよりはただ息が漏れているだけのような音だ。

「じゃあ、showさんの部屋で決定じゃのー」

「はい、じゃあ、フェルに連絡を入れてから行きます。ネロさんは先に俺の部屋でくつろいでいても大丈夫です。……ユッキーは必要ないから狩りにでも行けば?」

ネロさんもユッキーの部屋では駄目だと言う事を理解したようなので、俺の部屋を待ち合わせ場所にしてフェルと話をすることにした。

「ちょっ……待って!!ワタシも行く!」

ユッキーの事は放置して、フェルに連絡を取り直す。

/wis to フェルン@:お待たせ。俺の部屋で話をするみたいだけど、部屋への入り方分かる?

/wis to フェルン@:すみません、わからないです

/wis to フェルン@:OK、じゃあ迎えに行くから前に待ち合わせをした喫茶店に来て

/wis to フェルン@:はい、すぐに向かいます

フェルがすぐ来るみたいなので早速迎えに行くことにしよう。

「やっぱりフェルは部屋への入り方が分からないみたいなので迎えに行ってきます」

元々迎えに行く予定だったので問題は無いのだが、フェルが部屋への入り方を知っていれば多少の手間が省けたと思いながらフェルを迎えに行く。

「了解なのじゃ、showさんの部屋は天空城であっとるかのー?」

「はい、そうです。ネロさんは先に入って待っていてください」

「ちょっと!!ワタシはーーーー!!!!」

ユッキーの事をすっかり忘れていた。しっかりと部屋に入れないよう設定しておかなければ……。

ユッキーが部屋へ入れないように設定をし、準備が整ったのでユッキーを連れてフェルを迎えに行くことにする。

後で部屋に入れないと分かった時のユッキーの反応が楽しみだ。

「あー……。ごめんごめん。今から喫茶店にフェルを迎えに行くけど、来たかったら来てもいいよ」

「もちろん行くわ!」

ユッキーが部屋に入れないと分かった時の反応を楽しむ為、『ネロさんと一緒に部屋で待ってろ!』などと野暮(やぼ)なことは絶対に言わない。

ユッキーの反応を想像するだけでニヤニヤが止まらない。

「あっ!そうだ!すっかり忘れてたけど、腐ってる部分は隠せよな」

フェルはユッキーのグロアバターが苦手なので隠してもらわなければ困る。出会った時のように逃げ回ってしまう可能性があるのだ。

追うのが面倒なので、今のうちに隠せる部分は隠しておいてもらおう。

「分かってるわよ。ショタ好きなのはバレてるけど、腐女子なのはまだ隠し通すわよ!」

「そっちじゃねーよ!アバターの腐ってる部分はフェルが苦手だから隠せって言ってるんだよ!!」

コイツ脳みそまで腐ってやがる……。

それに、俺の知る限りではショタ好きのほぼ100%が腐女子だ。つまり、ユッキーがショタ好きと露呈(ろてい)している時点で腐女子であることを隠すのはほぼ不可能と言う事だ。

「し、知ってたわよ!ただのジョークよ!ジョーク!」

絶対に嘘だ。

しばらくして、ユッキーの準備が整った所で早速フェルを迎えに行く。


~天空城(喫茶店付近)~

「えーっと、フェルは到着してるかな?……あー、居た居た。フェル、こんばんは。INしてすぐだったようだけど呼び出しちゃってごめんね」

「showさん、こんばんは。まだ何をするのかを決めていなかったので大丈夫です」

フェルを見つけ挨拶を交わす。

「違う!!」

急にユッキーが何かを否定し始めた。

「何が?」

ユッキーの言動は常日頃(つねひごろ)から理解し難い事が多いのだが、今回はいつも以上に訳が分からない。

俺はフェルに挨拶をしただけなのだから、特に文句を言われる筋合いは無いだろう。

唯一文句を言われる事があるとすれば、ユッキーよりも先に声をかけてしまったと言う事だろう。

しかし、その場合は「私が先に声をかけたかったのに!」的なことを言ってくると思うので、恐らくそう言う事ではないと思う。

……他に心当たりがあるとすれば、フェルがユッキーに気が付いていなくて挨拶されなかったことくらいか?……ユッキー(あわ)れだな……。

「show、オマエなー……、@ちゃんが先に来て待っててくれたんだから……」

あっ!そう言う事か!!呼び出しておいて遅れてくるのはけしからん的なヤツか!

まあ、遅れた訳ではなく、フェルが先についていたと言うだけなのだが、言われてみると確かに呼び出した事と少し待たせた事については、簡単にでもお礼と謝罪をしておくべきだったかもしれない。

「おまたせー。待った?……だろ?」

うん……。違った……。ユッキーはユッキーで深く考えた俺が馬鹿だった。

しかも、「おまたせーまった?」の部分が余所行(よそゆ)きの声で、いつもよりも1トーンか2トーン程度声が高い感じで正直気持ちが悪かった。

「はいはい、じゃあ、フェル……、ユッキーはここに放置してネロさんの所に行こうか」

ユッキーの事は真面目に相手をするだけで疲れるので、いつも通り適当にあしらってネロさんと合流することにした。

「はい、あの……ユッキーさんの事は……」

「気にしたら負けだ。気にするな……。ってか相手をしたら負けだ。相手にするな」

フェルはユッキーと出会って日が浅い。よって、ユッキーと言う(くさ)れの本性をまだ理解していない。

恐らくヤバいヤツと言う認識はあると思うが、まだ他の人とは少し違う程度の認識だと思う。なので、フェルはユッキーにしっかりと対応しようとしているのだが、それは悪手と言わざるを得ない。

特にユッキー好みのショタであるフェルがユッキーに対して優しく接すると言う事は、それすなわち……ユッキーの妄想が加速すると言う最低最悪の一手になりかねないのだ。

そんな理由もあり、フェルにはユッキーのヤバさと言うものを正確に理解してもらいつつ『適切な距離』と言うものを学んでもらう必要がありそうだ。

「showマジ許すまじ」

後方からユッキーの呪詛が聞こえるが無視して問題ないだろう。韻を踏んでいて少し笑いそうになったのも見逃しておこう。

むしろ呪い(物理攻撃)の方が怖い。夜道を歩く時は特に気を付けよう……。

ユッキーの家に行く時や、俺の家にユッキーが来る時などユッキーと対面する場合は手に何か持っていないかを注視する必要もあるだろう。

そして、ユッキーの事を無視して移動をし、無事ホーム入り口へ到着した。

「じゃあ、フェル、ここの扉をクリックして俺の名前を入力してみて。そうしたら中に入れるから」

「はい」

短い返事の後、フェルの姿が消えた。

問題無く部屋に入れたのだろう。ネロさんも待っているので俺も入室した。

「ネロさんお待たせしました……。って何宝箱漁ってるんですか!?」

漁ると言っても中身を見ているだけだ。他人の部屋の宝箱の中身を出し入れすることは出来ない仕様になっている。まあ当たり前の事だ。

「ここがshowさんのホームですか。カッコイイ武器が沢山ありますね」

フェルが壁などに飾られている装飾品を眺めながら部屋の感想を述べている。

フェルの言うように、壁には剣や銃などが大量に飾ってある。

これは完全に俺の趣味だ。剣や銃、鎧などに形式美を感じている。もっと言うならばゴツイ武器が大好きだ。

ゲームだと現実世界に有ったとしても使えないだろうと言う品も存在するので視覚的な満足感は高い。

そしてこれは残念な事なのだが、この部屋に飾ってあるものは装飾品に分類されるアイテムなので、実際に装備することは出来ない。

「しかし、殺風景なのじゃ。ワシの部屋はもっと色々と置いてあるのじゃ。……あと、部屋が狭いのじゃ」

ネロさんの言うように、壁掛けの装飾品が多数を占めているので殺風景に見えるのかもしれない。

しかし、数だけで言えば結構多いと思う。

部屋が狭いのは拡張していないからだ。部屋を広げないといけない程大量に物を置くつもりはないし、人を集めて何かをすると言う訳でもない。

ホームを作った理由も先程ネロさんが漁っていた宝箱がもれなくついてくるからだ。

アイテム整理の為に使う宝箱で、ぶっちゃけた話、この部屋は宝箱欲しさに作っただけの部屋なのだ。

「showさんは盾だからこんなに大量の青ポは必要ないと思うんじゃが?ワシが貰って処分してあげてもいいんじゃよ?」

宝箱を物色していたネロさんが青ポことMPポーションのおねだりをしてきた。

「赤ポと交換してくれるならいいですよ」

ネロさんの言うように、青ポは貯まる一方で処分してもいいとは思うのだが、せっかくの機会なので交換交渉をしてみる。

俺が盾で青ポを使わないのと同様に、ネロさんの様なヒーラー職は赤ポが余っているケースがあるからだ。

因みに、赤ポはHPポーションの事だ。赤い色のポーションがHP用、青い色のポーションがMP用なので赤ポ、青ポと呼ばれる事がある。

「1:1で良いかのー?」

「大丈夫ですよ」

「青ポの方が若干高いので助かるのじゃ。後で赤ポを持ってくるのじゃ。その時に交換をお願いするのじゃよ」

ポーションは赤も青も両方ともフィールドやIDなどの雑魚を倒した時に確率は高くはないがドロップすることがある。

そして、フィールドでもIDでも狩りをする時にわざわざHPポーションをガブ飲みしながら狩りをする事は滅多にない。

フィールド狩りの場合は自分のレベルに合った場所で狩りをするか放置狩りが一般的だ。長時間狩りをし続ける場合も休憩可能な安全地帯を確保しつつ狩りをすることが多い。

よってHPポーションは基本的に使わないと言うことになる。

IDにしても、PT構成をしっかりと整えてから行くことが多い。ヒーラーに何らかの事故(MP切れや回復量不足、ヒーラー死亡、回線の不具合によるラグなど)が無い限り道中でのHPポーション使用はほぼ無いと言ってもいいだろう。

IDではボス戦で使う事があるくらいだと思っていいだろう。

しかし、MPポーションはそうはいかない。MPはスキルを使うのに必要なのでフィールド、IDにかかわらず基本的に減るものだ。

そうなるとMPポーションはHPポーションに比べ使用頻度は圧倒的に高くなってくる。

よって、MPポーションはHPポーションよりも価格が高くなるという訳だ。

NPCから買う場合もMPポーションの方がHPポーションよりも多少だが価格が上だ。これはこのゲームに限った事ではないのだが、運営の悪意を感じざるを得ない。

ただし、これは一般的な職種の場合の場合だ。

盾職はMP消費の激しいスキルはあまりない。攻撃スキルに関してもヘイト上げのスキルを併用して使うので火力の高い(すなわちMP消費激しい)スキルを使う必要は無い。(ただし、火力が高いに越したことは無い)

……と言うよりは、攻撃スキルに余計なスキルポイントを振る余裕が無いと言った方が適切だろう。

これはIDでの狩りの場合は問題が無いのだが、フィールド狩りの場合は火力不足で敵を倒しきれなくなってしまうのだ。

なので、盾職はフィールド狩りでもPTを組まざるを得ない場面が多々ある。

フィールドでもIDでも基本的にPTを組むのでMPの消費は少ない。

逆にIDなどではヒーラーの回復が最優先で飛んでくるのだが、それだけでは足りない事も多いのでHPポーションの併用が基本だ。

中にはHPポーションを使う必要が無いと思う人も居るには居るのだが、そんな人でもボス戦などでのダメージ量を凌駕(りょうが)するだけの回復量を持つヒーラーはほんの一握りしかいない。もちろんヒーラーや盾のレベルが高すぎる場合は別の話だ。

よって、IDは基本的にはヒーラーの回復スキルとHPポーションの併用と言うことになる。

IDの道中は基本的に少量のHPポーションとヒーラーの回復で間に合うのだが、アタッカーの火力不足によるモンスターの殲滅速度の低下や、ヒーラーの回復量不足などでガブ飲みを余儀なくされる事もたまにある。

その他に自分の力量以上の雑魚を釣りすぎてヒーラーの回復が間に合わなくなるなどだが、これは自己責任なので文句は言えない。

そう言う理由で、全体的にHPポーションを使用する頻度は他の職に比べればお良いのだが、MPポーションを使う機会は少ないと言うのは事実だ。

ヒーラーは逆に自己回復が出来るのでHPポーションを使う必要が無いのだ。IDなどでPTを組む場合もヒーラーなるべく攻撃を受けない立ち回りを要求される。ヒーラーのみ無傷などと言う事もざらにある。

よってヒーラーはHPポーションが余る。

そして、両職とも攻撃スキルに余計なポイントを振れないためにフィールド狩りが大変になる……。

ネロさんのような殴りヒーラーになると多少違うのかもしれないのだが、HPポーションが余る事に変わりは無いだろう。

「いえいえ、俺も知り合いが交換してくれる時の為に取ってあるので交換してくれる人なら誰でも大歓迎ですよ」

盾はHPポーション、ヒーラーはMPポーションの確保先が多いに越したことはないのだ。

盾とヒーラーはこう言う点においてもwin-winの関係と言えるだろう。他にも色々と理由はあるのだが、盾とヒーラーは相性が良いのだ。

そんな話をしているとユッキーから熱烈なラブコールが届いた。

/wis from ユッキー:入れないんだけど?

ユッキーを入れないようにしていた事をすっかり忘れていた。……と言うより、ユッキーの存在自体を忘れてしまっていたのだ。

急いで出禁設定を解除し、ユッキーも入れる状態に戻し返信をする。

/wis to ユッキー:バグかな?もう1回試してみたら?ダメなら運営に連絡かな?

もちろん、俺は『何もしていないので悪くないですよ』と言うアピールは欠かさない。設定を変更していた事がバレたら後で五月蝿いからだ。

返信後しばらく待つとユッキーが入室してきた。

「あっ、入れた」

「いやー、大変だったねー、部屋に入れないなんて事もあるんだねー。バグだったのかなー?」

少し棒読み気味で白々しい返事をしておく。

「へー、そんな事もあるんですね」

「showさんがユッキーの事をブラリしたんじゃな……」

純粋なフェルの質問に対し、ネロさんが的確な指摘をしていた。

ヤバい……。ユッキーにバレてしまう……。

因みにブラリとはブラックリストの事で、ブラリしたとはブラックリストにぶち込んだと言う事になる。つまりはブロックしたと言う事だ。

厳密に言うと今回はブラックリストに登録した訳ではない。単純に部屋に入れる人をネロさんとフェルの2人に限定をしただけだ。その理由はブラックリストに登録するとチャットや会話などが出来なくなってしまうからだ。

ユッキーの顔色を窺おうとユッキーの方を見ると、ユッキーがこちらへ顔を向け、じっと見つめてきている。ユッキー以外の女性だったら俺に気があるのでは?などと勘違いしてしまうかもしれない。

「showサン、チョット……オハナシガ……アルン……Death……ガ……」

完全に闇のオーラに包まれている。

俺の利き間違いかもしれないのだが、『です』と言う単語が『Death(死)』に聞こえたような気がした。

夜中に1人で暗い部屋に居て、間近でこの不気味な声を聴いていた場合、俺は恐らく発狂していた事だろう……。

「お、俺は特に話することは無いかなー」

最後に口笛を吹いて誤魔化したつもりだが、まず誤魔化すことは不可能だろう。

因みにユッキーと違い、俺は普通に口笛を吹くことが出来る。

「今度の休日に何か差し入れ持っていくわね……。釘バット……、バールのようなもの……、包丁……、何がいいかしら……?フフフフフフ……」

「あずきバーがいいのじゃ!」

ネロさんが雰囲気を和ませる為なのかボケで返す。

これは絶好のチャンス!!……かもしれないのでネロさんのボケに乗っかりこのピンチを凌ごうと考えた。

「やだなーネロさん、それも十分すぎるほど殺傷能力のある鈍器じゃないですかーハハハハハ……」

ユッキーのトールが割とマジなので最後に笑って誤魔化しているものの乾いた笑いしか出てこなかった。

さっきから冷や汗が止まらない……。

「アイスおいしいです。ボク大好きです」

あずきバーと言うワードに反応したであろうフェルがズレた回答をしている。今の状況を理解していないのだろうか……?

「えっ?@ちゃん、あずきバーが好きなの?」

「あずきバーもおいしいです。でも、もっと甘いやつがいいです」

おっ?ユッキーの怒りが収まったのか、フェルの前と言う事を思い出して取り繕っているのかは分からないが、声のトーンが戻っている。

「一番好きなアイスは?」

「チョコモナカジャンボです。あとはチョコ味とイチゴ味のアイスは基本的にどれも好きです」

「カワイイ……」

ユッキーの声のトーンが再度変化した。通常トーンでも俺に向けられていた恐怖トーンとも違うヤバいトーンになり始めている。何と言うかウットリしていると言えばいいのか(あで)やかと言えばいいのか。……正直気持ちが悪い。

しかし、俺は助かったのか……?という疑問はまだ残っている。

「show!今回は@ちゃんの好きな食べ物が1つ判明したから許してあげるわ!」

どうやら助かったようだ。

/wis from ユッキー:次やったら許さんからな!後、今度会った時1発ぶん殴るからね♡

ふむ……。助かってはいなかったようだ……。

「これで一応全員揃ったかのー?本題に移っても良いかのー?」

ネロさんはユッキーの事を忘れていなかったようだ。本題に入るのを全員が揃うまで待っていたらしい。

無駄な時間を取らせてしまったことに対する罪悪感が生まれた。

「すみませんでした。お願いします。フェルを呼んだ理由ですよね?」

「うむ。運営に問い合わせをした結果と独自調査をした上での予想の話になるんじゃが……」

フェル救出の時にネロさんがフェルの事について運営に問い合わせをすると言っていた気がする。運営から何らかの回答が返ってきたと言う事なのだろう。

「まず、運営からの答えはバグではないと言う事じゃ。で、詳しい事は企業秘密と言うか禁則事項との事で教えてはくれんかったのじゃが、ヒントみたいな感じのものは教えてもらえたのじゃ。そこで、運営が言っていたことは、育成スピードに関する件で、大きく分けると早熟、晩熟、通常の3種類が存在するのは知ってると思うんじゃが……」

大雑把に言うと、レベルを10毎に区切って、1~5までのレベルが上がりやすいタイプが早熟、6~0までが上がりやすいタイプが晩熟、平均的に上がるのが通常タイプと言われる。

あくまでも大雑把に言っただけで、細かく分けると他にも色々なパターンが確認されているのだが、早熟(○○)や晩熟(○○)のような形が殆どなので、早熟、晩熟、通常の3パターンで呼ばれている。

「レベルが30になった時に発生するクエストをクリアした時に教えてくれるやつですよね?」

「うむ。そうじゃ」

「でも、アレってあまり意味ないよね」

ユッキーの私的通りあまり意味のある物ではない。

レベルを30まで上げる過程である程度の推定することは出来る。そして、分かったところでタイプを変更することが出来ないので、そもそも気にする必要すらないのだ。タイプが気に入らないとしても変更するにはキャラを再度作りなおさなければいけない。

30レベルなら数日で到達可能なレベルなのでやり直しても良いのだが、やり直すほどのメリットは無いと言われている。

「まあ、意味が無いのは確かなのじゃ。で、運営が言うには、その育成スピードにはシークレットタイプが1~5まで存在するらしいのじゃ。ワシが調べた結果は1人だけシークレット持ちが見つかったのじゃ。シークレットの種類はシークレット1との事じゃ」

俺はシークレットと言うタイプは聞いたことが無い。短い期間だったとはいえ、ネロさんが調べても1人しかヒットしなかったと言う事は相当レアな物なのだろう。

「で、結局そのシークレットって何なの?」

ユッキーがド直球な質問をネロさんにする。

「運営に聞いても詳しい事は教えてくれんかったんじゃが……、シークレット1の出る確率は約1/10000、2が1/20000、3は40000、4は80000、5は160000分の1で、フェルン@くんはシークレット5との事じゃ」

つまり、フェルは16万分の1で出るレアキャラと言う事だ。しかし、一番確率が良くて1万分の1とは……。俺が知らなかったのも当たり前か……。

「でも、運営も詳しくは教えてくれないと言うわりに、良くそこまで教えてくれたわね」

確かにユッキーが言うように、運営がゲームシステムの事をここまで詳しく教えてくれることは珍しい事だ。

レベル30にならないと育成スピードは分からない仕様になっているので、そこを教えてくれると言う事は本来無い事だろう。

「運営側も例の事件の事は重く見ていたようじゃ。フェルン@くんの事については色々と細心の注意を払って観察していたようじゃ。他の安全地帯に移してあげて欲しいと言う苦情も多かったらしいのじゃ」

運営側が気にしていたと言うなら、俺達の会話やチャットなどのデータが残っている可能性は高い。そう言う事を加味し、協議の結果、フェルを救出した時のメンバーの1人であるネロさんには情報を開示しても大丈夫だと言う結果に至ったと言う事だろうか?

「運営もそこまで把握してるなら、さっさと移動させればよかったのよ!」

ユッキーがかなり憤っている。

しかし、運営もフェルがあの場所から脱出したいかどうかと言う事は、本人の口から聞かないと分からない事だ。

いくら他人が何十人、何百人と脱出させてほしいと懇願したところで、本人が留まりたいと思っていた場合、勝手に移動させたことが逆に問題になってしまうのだ。

よって移動させずに静観していたと言うのは仕方がない事だろう。

「まあ、それは仕方がないんじゃないかな?」

「うむ。そのおかげと言っては変じゃが、スキルの事も少し詳しく聞けたのじゃ……」

ネロさんが話を続けようとしているので、フェルについての秘密はまだまだあるような気がする。

「スキル習得もシークレットが何種類かあるらしいのじゃ。こっちは何種類かまでは教えてもらえんかったのじゃ。ただ、ワシの調べた限りなのじゃが、ツリー状になっていないスキルツリー持ちを2人と、モンスター系のスキルを使える人1人の確認は取れたのじゃ」

ネロさんが調べた限りで合計3人なので、スキル系のシークレット確率はまあまあ高いのかもしれない。

高いと言っても育成スピードのシークレットよりは高いと言うだけで、かなりレアなのは間違いないだろう。

「じゃあ、スキルは探せばまだまだ居そうですね」

「うーーーん……。そうなんじゃが、そうでもないんじゃよ」

この短期間に3人も見つけたのに何故かネロさんの歯切れが悪い。

「何か問題でもあるんですか?」

「いやいや、問題ではないんじゃが、両方該当している人が見つからんのじゃ」

「ツリー構造をしていなくて、尚且(なおか)つモンスタースキルも覚えられる人が居ないって事?」

ユッキーが質問をしている通りの事だろう。

「うむ。それと、聞いた限りでは全員SPさえあればスキルを覚えられると言う事なのじゃが、フェルン@くんのように、スキルを覚えられないと言う事は無かったのじゃ。加えて、モンスタースキルは最低でもSPを2は消費するみたいで、これもフェルン@くんの言っていたSP1で全部覚えられると言うのと合致しなかったのじゃ」

フェルのスキル習得の一番の謎である部分のSPがあるのにスキルが覚えられないと言う事の真相にはまだ迫ることが出来ていないようだ。

「ただ、調べていて1つ気になる事があったのじゃが、SP1で全部のスキルを覚えられる人が居ると言う噂を聞いたのじゃ。その人は自分がスキルを食らったりすると覚えられるようになるらしいんじゃが……」

今まで聞いた限りではこれが一番フェルに近い。……と言うより、コレな気がするのだが、ネロさんが確信を持てない理由があるおだろうか……?

「それはフェルのスキル習得と同じ条件じゃないんですか?」

「ワシもそう思ったんじゃが……」

おもむろにネロさんがフェルに回復系のスキルを放つ。

「フェルン@くん、回復スキルを使えるようになったかのー?」

恐らくスキル欄を確認しているのだろう。

しばらくしてフェルが返事をする。

「いいえ、何も変わってないです」

「やはりそうじゃろうな」

「どういうことですか?」

これについては全く訳が分からない。

ネロさんは確認をする前からこの条件ではフェルがスキルを覚えることが出来ないと言う事を確信していたとしか思えないような返答だった。

何故、ネロさんは条件が違うと判断したのだろうか……?

「うむ。この条件でスキルを覚えることが出来るとしたら、あの場所にとどまっている最中に、強力な攻撃スキルの1つや2つは覚えていると思ったのじゃ。それが、フェルン@くんに直接向けられた攻撃であれ、偶然範囲攻撃に巻き込まれたにしてもじゃ」

確かに言われてみれば、フェルが覚えているスキルは初期スキルとモンスタースキル数個だった。

先日行ったIDで、フェルがボス戦などでダメージを負ったかどうかまでは覚えていないが、先日のIDをその後フェルが1人で周回していたなら新たにスキルをいくつか覚えているだろう。

単純にフェルが言わなかっただけという可能性や、ID周回をしていない可能性もあるのだが、スキルの話になった時点で何か変化があれば『最近新しいスキルを覚えました』の一言もあったのかもしれない。

その時点で俺にもさっきの条件がフェルのスキル習得に当てはまらない可能性が高いと言う推測は出来たはずだ。

「言われてみればそうですね」

「うむ。仮に通常とは違う条件のスキル習得方法の人が1000人に1人の割合でいたとしても、その複数形となるとレア度も跳ね上がるという訳じゃ」

「えーっと……。聞いている限りだと、1000人に1人が3つ重なっているから1/3000?」

「掛ける3じゃなくて3乗な!1000を3回かけるの!」

ユッキーのおバカ加減にも嫌気がさす。昔から数学は苦手だったが、これ程の物とは……。

「1000×1000×1000だから……」

「10億です」

フェルの方がユッキーよりも早く計算をし終わったようだ。

「10億!?」

ユッキーが驚きの声を上げている。

ユッキーは気が付いていないようなので、それ以上に重要な事実を指摘することにした。

「でもさ、それってスキルだけの話で、しかも確率は仮定の話でしょ?フェルの場合はそこに育成のレア度も加わるんだから、16万掛けないとダメだよね」

「10億×16万だから……」

ユッキーが計算に入る。恐らく指を一生懸命折りながら考えているのだろう……。

「160兆です」

ユッキーが考える隙も与えない様なスピードでフェルが答える。しかし、物凄いスピードで答えた気がする。驚異的と言っても良いスピードだ。

「160兆!!!?」

ユッキーが五月蠅いのはいつもの事なのだが、今回は驚きのあまり叫んでしまうのも仕方なないだろう。

「それにしても、フェル、計算早かったね。電卓を用意しておいたの?」

「それな!」

ユッキーは賛同しているが、ユッキーの場合は時間をかけたとしても間違えていた可能性が高いだろう。

「計算は得意なんです」

「へー。19×36は?」

フェルの返答を受け、突然ユッキーが問題を出している。ちなみに、この数字は今の時刻が19時36分なのでそこから来たものだろう。

「684です」(即答)

「へっ?」

あまりの速さに驚いてしまった。驚きのあまり間抜けな声が出てしまった。

電卓ソフトを起動し計算をしてみる……。684で間違いなかった。

「フェル、ちょっと良い?」

「はい、何でしょうか?」

フェルを疑っている訳ではないのだが、ここまでのスピードで答えられてしまっては、問題を出したい衝動に駆られて仕方がない。

「63×91×648は?」

これは先程の答えと時間を逆にしただけの問題だ。数字に意味はない。

「2122848ですが、なんの数字ですか?」(即答)

「ごめん、今、計算するからちょっと待って」

答えは……2122848で合っている……。

「いや、おかしいやろ!」

あまりの出来事に思わず声を荒げてしまった。

「ごめんなさい、計算ミスしていましたか?」

「えっ、あっ、うん、違う違う。あっ、違うって言うのは答えが違うって意味じゃなくて、うん、計算は合ってたよ。ごめんね、急に大きな声出しちゃって」

フェルに対し、なんと言って良いのか分からず、とりあえず謝ってしまった。

しかし、この計算速度は尋常ではない。さっきの『おかしい』は勿論、この計算速度がおかしいと言う意味だ。

「フェルン@くんは計算が早いんじゃのー。本当に電卓を用意してないのかのー?」

例え電卓を用意していたとしても電卓をはじく時間があるので即答は不可能だろう。

たぶん、俺が電卓で計算しても良いと言われて勝負をしても負ける自信があるくらい即答だったのだ。

「はい。暗算です。3桁の掛け算は簡単なので電卓を使わないでも大丈夫です」

「いやいやいや、簡単な訳ないだろ」

フェルがサラッととんでもない事を言いだしていたので、思わずツッコミを入れてしまった。

3桁の掛け算が簡単とか言い出したら、全国のお店からレジが消えてしまうレベルだ。

「show、@ちゃんってもしかして……」

数字が苦手なユッキーでも、この異常な計算速度には気が付いたようだ。

「超絶カワイイし、頭もいいから、ゲームキャラ以上にレア度が高いんじゃない?」

ユッキーに期待した俺が馬鹿だった。

それに人間に対してレア度って何だよ!!

もう、この一言だけでツッコミ所が多すぎるんだよ!

「「「……」」」

そして、ユッキーの発言により、その場に居た全員が黙ってしまった。

誰一人として会話を続けようとはしない。ユッキーの質問に対して答えるつもりも全くなく、全員が呆れているのだろう。

ユッキーにはこの責任を取って、ぜひともこの場の空気改善に尽力してほしいものだ。

「ユッキー、退室する?」

そこにネロさんから容赦のない一言。

「何でよ!」

「今回は真面目な話をするための集まりなのじゃ。ユッキーは不要じゃなって思っただけじゃよ」

「かなり必要性が高いでしょ!!」

「「「……」」」

3人で黙り、それぞれの顔を見て様子を窺っている。

恐らく全員がユッキーに対して思っていることは同じで、誰がその事実をユッキーに告げるかを押し付けあっている所なのだろう。

「黙るな!」

ユッキーがキレ始めた。

「まあ、退場はしないでもいいから、邪魔だけはしないって約束はしてよ」

誰も言わないので、仕方なく俺がユッキーを(なだ)める。

「ふん!まあいいわ!続きをどうぞ」

少し拗ねたようにユッキーが邪魔をしないことを了承した。

その後、ネロさんが調べた事や推測を話しているのだが……。

「あの~……。ユッキーさん……?」

ずっとフェルの周りをグルグルと回りながら何かを観察しているユッキー。

初めのうちは無視し続けていたのだが、遂に痺れを切らし、困惑しながらもユッキーに声を掛けたのだ。

正直言うと、俺も視界の端でウロチョロされていて目障りだったので丁度良かった。

「何?@ちゃん。お姉さんの事で聞きたいことでもあるの?」

誰がお姉さんだ!!

「ユッキーおばさん、邪魔。ウロウロしてたら話に集中できないだろ?」

「showさん、もう諦めるのじゃ。話の腰を折られないだけマシとするのじゃ」

ネロさんは(さじ)を投げたようだ。

/wis from ユッキー:誰がおばさんだ?後で殺す

これは本気でヤバそうな感じだ。早急に謝罪をしておかなければ抹殺される恐れがある。

/wis to ユッキー:ごめんなさい。先日フェルと行ったIDで教えた撮影モードでお願いします

/wis to ユッキー:そっちの方がフェルに気付かれないで好きに観察出来るだろ?

どうやらユッキーは指示に従ってくれたようで、動きを止めた。フェルには悪いがこれでユッキーも心置きなく好きなだけフェルの事を観察することが出来るだろう。

/wis from ユッキー:showにしては上出来ね

何故上から目線……?

しかし、これにツッコミを入れると、また一悶着ありそうなので黙っておこう。

こうして無事(?)ユッキーも大人しくなったところでネロさんに続きを促す。

「ネロさん、続きをお願いします」

「まあ、続きと言っても今からその育成シークレット持ちの知り合いにコンタクトを取って直接話を聞けるなら聞いておこうかなってだけなんじゃが……、フェルン@はどうする?相手の都合もあるから今日会えるかは分からんのじゃが、会ってみたいかのー?」

「会えるなら会ってみたいです」

「了解じゃ。連絡を取ってみるので少し待つのじゃ」

しばらく待つと相手から欄楽があったようだ。

「今、その人はID周回しているみたいなのじゃ。30分ほど待ってくれれば今日会えるそうじゃ。どうするのじゃ?」

「じゃあ、少し待つのでお願いしてもらってもいいですか?」

フェルはその人物と今日会う事を決めたらしい。

興味があるので俺も同行出来るようならしようと思う。

「俺も興味があるのでついて行ってもいいですか?」

「たぶん大丈夫だと思うんじゃが、一応確認してみるのじゃ。待つのじゃ」

しばらく待つと相手から返事が来たようだ。

「OKだそうじゃ。ID周回が終わったら連絡すると言っておったのじゃ」

「はい、ありがとうございます」

その後、たわいない話をしながら時間を潰していると連絡が来たようだ。

「今IDが終わったようじゃ。どこに行けば良いか聞いておるが、どこで待ち合わせるのじゃ?」

待ち合わせ場所としては、ゲートに全員で向かうか噴水周辺がゲートから近くて分かりやすいかな……。などと考えているとユッキーが急に喋り始めた。

「はいはーい。喫茶店が良いです」

何を考えているか、ある程度予想が付く。予想通りなら俺にとって不利益になる事は何もない。犠牲になるのはたぶんフェルだけだろう。

他の人の異論がなければ遠すぎると言う事もないので採用してやろうと思う。

全く関係ない事だが、いつの間にかユッキーも同行することになっているのは気にしたら負けなのだろう……。

「ネロさんとフェルが大丈夫なら喫茶店で待ち合わせにしましょうか」

「はい、大丈夫です」

「ワシもどこでも大丈夫なのじゃ。喫茶店で良いならそれで連絡をするが、良いかのー?」

ネロさんとフェルの了承が取れたので、今回はユッキーの希望通り喫茶店に向かうことにしよう。

あとはネロさんが連絡をするだけだ。

……しばらく待つと返事があったらしく、全員で喫茶店に向かうことになった。


-To Be Continued-

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