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F@nd  作者: hiro.biz
8/23

フェルン@と初ID(3/3)

ユッキーも反省(?)をしている様なのでIDの周回を続けることにする。

「まあいいや。じゃあ次行こう、次」

「ジャンジャン回るわよー」

ユッキーは何故かやる気を出しているが、次が5周目で最終周だと言う事に気が付いているのだろうか?

恐らく気が付いていないだろう……。せっかくやる気を出しているところに水を差すのは野暮(やぼ)と言うものだ。そっとしておこう。

次の周回が終わった後、そのことに気が付いた時の反応がとても面白そうだから黙っておこうと言うのが本音だ。ID周回とはまた別の楽しみが出来た。


そして、全員がIDの外に出たことを確認し、しばらくしてからリセットをされているかをフェルン@さんに確認をする。

……と言っても、さっきチャットのシステムと言う項目をONにしたのでリセットをされたと言う表示がチャット欄に乗っているのは見えているのでリセットをされているのは確実だ。

今後リセットをされる前に間違えてはいる事の無いように確認の癖を付ける為、(わざ)とリセットをされているかを聞くだけだ。

「フェルン@さん、IDのリセットはしましたか?」

「はい、リセットしました」

「さっき間違えて入ったからね。ちゃんと確認できまちたかー。showちゃん偉いでちゅねー」

ユッキーの煽りがただただウザイ。笑いながら俺の事を馬鹿にしてやがる。

「オマエも気が付かなかったんだから同罪だがな!」

少しだけ反論しておいた。このまま突っ立っているとユッキーがまた騒ぎ出すのでさっさとIDの中に入りユッキーの非難(ひなん)から避難(ひなん)する。


しばらくするとユッキーがID内に入ってきた。

「ゴルァ!show、逃げるな!」

本当に五月蝿(うるさ)いヤツだ。

ユッキーに反論しようとした時、フェルン@さんもID内に入ってきた。

「さて、フェルン@さんも入ってきたことだし、早速行こうか」

ユッキーに対して正面から真面目に対応をすると面倒な事になりそうなので無視することにする。

「あの、showさん、1つ良いですか?」

まだ準備が整っていなかったのか、フェルン@さんが声を掛けてきた。

「あー、準備中だった?ごめんごめん」

「いえ、準備は大丈夫です。今更なのですが、名前、長くて呼びにくくないですか?」

誰の名前かは言っていないのだが、恐らく『フェルン@』が長いと言う事だと思う。

『ふぇ・る・ん・あっ・と』で発音にすると5文字なので、それほど長くは感じないのだが、フェルン@さん本人は気になるのだろうか?

「いや、特段長い名前でもないから、気にならないかな。フェルン@さんは呼ばれてて長いって感じる?」

やんわりとフェルン@さんの意見を否定しつつ、本人の意見を聞くことにした。

フェルン@さんが気になるようなら本人の意向を尊重しようと思っている。

「気にならないならいいんですが、呼ぶ時に呼びにくかったら省略しても大丈夫です。あと、さんは付けなくて大丈夫です」

もしかしたら、敬称を付けているので長く感じているのかもしれない。

本人が少し長いと気にしているようだし、少し省略して呼んでみることにする。せっかくつけた名前なので勿体無い気もするのだがフェルン@さん本人の希望なので仕方無いだろう。

「じゃあ、お言葉に甘えて……。フェルン@さんは、どこまで省略されても気になりませんか?フェルン@、フェルン、フェル、フェ、フ」

最後の2つは完全にネタの範疇(はんちゅう)だ。

流石(さすが)に1文字だとアレですが、呼びやすいように呼んでもらって大丈夫です」

フム……。実際に声に出して複数の呼び名を発音してみると確かに@は呼ぶ時に邪魔な気がする……。と言うより意外と発音しにくいかもしれない。

候補としてはフェルンかフェルの2択だろう。

個人的には、敬称を付けたと仮定して『フェルさん』の方が呼びやすい気がするので他の人も略称で呼ぶ時を考慮して『フェル』と呼ばせてもらうことにしよう。

フェル本人にそのことを伝えようとした瞬間……。

「じゃあ、ワタシはダーリンって呼ぶから、ワタシの事はハニーって呼んでね!」

ユッキーが例のごとく仕様もない事を口走った。正直頭が痛くなる。

「OK、ハニー」

ここまで行くと犯罪スレスレな気もするので、俺がユッキーの暴走を止めることにした。

「show!テメーは黙ってろ!お前はユッキー様とかで良いんだよ!」

「ハニーがご乱心でごじゃる!フェル、ハニーの事は気にしないでいいから、(ほど)良く距離を取るのが賢明な判断だよ」

ユッキーを馬鹿にしつつ、フェルに注意喚起をする。

「show!絶対に許さんからな!」

少し弄り過ぎたようだ。ユッキーの怒りが頂点に達している。

「分かりましたshowさん。ユッキー様も落ち着いてください」

「えっ?あっ、うん……。様付けもちょっと嬉しいけど、なんか微妙ね」

フェルの返事で少し自我を取り戻したユッキーが冷静に対応している。

しかし、ユッキーの事をフェルも馬鹿にしている様な気がするのは俺だけなのだろうか……?

「じゃあ、何て呼ばれるのがいいんだよ?ハニーとかふざけたのはダメだぞ」

素朴な疑問が生じたのでユッキーに直接()(ただ)してみた。

「えーっと……。ユッキーって呼び捨て……?いや、呼び捨てならあだ名じゃなくて本名がいいな……。意表をついてユッキーおねえさんとかか……?これは姉弟みたいで嫌ね……。無難にユッキーさんか?ユッキーちゃんは何かアレだし……。ゆきたんとかか?……」ブツブツブツブツ

ユッキーが小声で何か言いながら真剣に考えている。

正直気持ちが悪い。

「じゃあ、行こうかフェル」

ユッキーの答えを待つつもりはない。

答えを聞いた所で(ろく)な答えは返ってこないだろう。

「はい」

フェルは後ろをチラチラと確認しながらついて来る。

ユッキーを置き去りにしていることを気にしているのだろう。

「あっ!待ってー」

チッ!ユッキーが早くも妄想世界から現実世界に戻ってきてしまったようだ。


最終周と言うこともありフェルの立ち回りも始めに比べるとだいぶマシになってきた。

ユッキーも1撃で倒す心配が無い事が分かったので中ボスにも躊躇(ちゅうちょ)なく初撃をぶち込んでいる。

そして、このIDのラスボスも問題なく倒すことが出来た。

最後の最後でミスなしの立ち回りが出来き、やっと連携らしい連携でIDの攻略を終了した。

これからの残り時間はID周回後のお楽しみでもある戦利品についてあれこれ話す時間だ。

まあ今回は低レベルIDなので俺とユッキーは特に欲しい物は無いのだが、フェルに少しでもIDの楽しみを知ってもらう為に必要な儀式のようなものだ。この戦利品話を含め、ID周回の醍醐味と言うものだ。少しでもそう言ったものを知ってもらう為の時間だ。

「周回おつかれー。フェル、何か良い戦利品出た?」

「えっ?おっ?あれ?……show、まだ……?んっ?終わり?」

やはりユッキーは最終周だと言う事を理解していなかったようだ。

ユッキーがパニクっているので説明をしてあげなければいけないようだ。解説後の反応も楽しみだ。

「ユッキー、まず俺がリーダーで1周回っただろ?」

「うん」

「次に、フェルにリーダーを変わってもらって1周回ったよな?」

「そうね」

「そして、フェルがリセットをし忘れて全員が入って1周」

「あっ……!」

どうやら理解したようだが、ダメ押しで説明を続けることにした。

「ユッキーがしっかり連携を取らないで1周、今のが5周目で最終周が終わった」

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」

ドンドンドンドンとPCデスクを叩いている音と共に、ユッキーの今にも泣き出しそうな、それでいて消え入りそうな叫び声がID内に響いている。

ここまで残念そうな反応をされると相手がユッキーだとしても、今まで黙っていた事を多少は申し訳ないと思ってしまう。

「何かごめんなさい」

ユッキーの反応を見て自分がリセットをし忘れたのが原因だと思ったのだろう。

本当に申し訳なさそうにユッキーに謝罪している。

フェルがリセットをし忘れていなかった場合でも、10分くらいしか差は無かったと思う。そんなものは俺からしたら誤差の範囲なのだが、ユッキーにとってはショタ(フェル)と少しでも一緒に居るための貴重な時間なのだろう。

ついでに別れる時の心の準備が必要だったのかもしれない。

「いいの。@ちゃんは悪くないわ。ワタシが……」

「「@ちゃん!?」」

俺もフェルもユッキーの悲しそうな反応よりも別の所に疑問を持ったようだ。

「ユッキー、そっちは本体じゃないだろう……?」

「本体?」

フェルがまた違う所に反応している。

フェルンと@は名前と苗字ではないし、@の部分がセカンドネームと言う訳でもない。上手い言葉が思い浮かばなかっただけなので気にせずスルーしてほしかった。

「初めはshowと同じように、フェルちゃんって呼ぼうと思ったんだけど、えーちゃんがフェルちゃんって呼んでた気がするから、他の人が呼んでない特別な呼び方にしようと思ったの……。ダメ……?」

そう言えば、えーちゃんさんは前にフェルちゃんって呼んでいたような呼んでいなかったような……。鮮明には覚えていないのだが、コタロウさんをコタちゃん、ネロさんをネロちゃんなど頭文字(かしらもじ)2つと『ちゃん』付けで他の人を呼んでいる気がする。

あくまでも推測だが『フェルちゃん』と呼んでいた可能性は高い。

それはさておき、ユッキーの記憶領域は無駄な所にリソースを割いている気がする。

その無駄に使っている記憶領域を少しでもゲーム攻略の方に割いて欲しいものだ……。

「えっと……。うーん……?ダメではないですが呼びにくくないですか?」

フェルは渋々了承しているようだが確かに少し呼びにくいと俺も思う。

素直に『フェルちゃん』か他の人が呼ばない呼びかたならば『あっちゃん』などの呼びやすい方が良い気もするのだが、フェルがNoと言っていないのでこのまま放置しても丸く収まる気がするので余計な口出しはしないでおこう。

「そんなことないわ!@ちゃんが良いなら@ちゃんって呼ばせて!お願い!」

呼び方ひとつでここまで熱くなれるのか。と(なか)ば呆れながらその様子を観察する。

結果はどうあれフェルがYesかNoかをはっきりすればこの問題は終了するだろう。

「うーん……。ユッキーさんがそれで呼びにくくないなら大丈夫です」

「やった♪」

100%は納得していないようなフェルと了承されて喜んでいるユッキー。

本人たちが納得しているなら、これ以上呼び方の件は問題になることは無いだろう。

「はーい、じゃあこの問題はこれで終わり。……で、フェル、今回のIDはどうだった?分からないと事か疑問に思ったこととかあれば聞いて。答えられる範囲で答えるよ」

「スリーサイズと体重はヒ・ミ・ツ」

フェルの呼び名が決まってから小躍りしそうなくらい浮かれているユッキーがウザイ。

「何、何?好きなタイプと彼氏の有無とか?」

ユッキーがウザイ。

「いえ……、あの……」

「好きなタイプは@ちゃんみたいな可愛い男の子で、彼氏は募集中です」

ユッキーが(ry

フェルもユッキーへの対応で困っているようなので助け舟と言うか、フェルの質問に答えると言う本筋に話を戻そうと思う。

「フェル、ユッキーは無視して大丈夫だから。……で、何か分からないことでもあったの?」

「はい、1つ目はどうやってshowさんは後ろを確認していたんですか?」

「どこでの話?」

後ろの確認と言われても後ろを振り返れば良いだけだ。疑問に思うような場所があったのだろうか?

「このゲームは他のゲームと違って自分の姿を見るような視点じゃないですよね?」

「うん、一人称視点だね」

因みにフェルが言う『自分の姿を見るような視点』と言うのは三人称視点と呼ばれている。

「一人称視点って言うんですね。それで、背中の方は見えないと思うんですが、ボス戦でこっちが見えていたのは何でかな?どうやったのかな?って思いました」

確かにフェルの言う通り、普通に操作しているだけでは後ろを振り返らないと後方の確認は出来ないのだが、このゲームには小技が存在する。

「フェルはスクリーンショットを撮ったことある?」

「まだないです。Print Screenのボタンを押せばいいんですよね?」

フェルはまだこのゲームで画像の保存をしたことがないようだ。しかし、保存方法は知っていたのでそこの説明は省略させてもらおう。

「そうそう。それが基本的な保存方法。じゃあ、何かのイベントとか記念とかで皆が集まった時の記念写真で自分も画面内に入りたい場合はどうする?」

「誰かに撮ってもらってから送ってもらう」

まあ、あながち間違いとも言えない。

「それも1つの方法だけど、それだと撮影者が写れないでしょ?……で、そんなときの為にこのゲームには撮影モードがあるんだよ。半径100m以内なら好きな位置にカメラの設置が可能だよ」

「へー、どうやるの?」

いきなりユッキーが会話に入ってきた。

ゲームをプレイしているならこの程度の知識は持っておいて欲しいのだが、この撮影モードを知らない人は結構いるので、この件に関してははユッキーを責めることは出来ない。

「Ctrl と P を同時に押すとワイプが出てくるから、ワイプをクリックすればカメラの位置と角度を変えることが出来るよ」

ユッキーの質問に答えるついでにカメラの撮影モードについて説明をする。

「えっ?カメラの見る位置しか変わらないけど、どこで操作するの?」

「ワイプの画面を左クリックしながら動かすとカメラの角度変更で、マウススクロールでカメラが離れてり近づいたりして、矢印の上と下で高さ調整で左右がカメラ位置の移動」

「おっ!出来た。これで撮影すると、どのサイズで保存されるの?」

「サイズはゲームをしている状態と同じサイズになるよ。800×600ならそのサイズだし、1280×1024なら1280×1024.フルスクリーンならモニターのサイズ。壁紙とかに設定したいような画像を撮りたい時は、撮影する時だけゲーム設定をフルスクリーンに設定するといいかもね。説明が分かりにくかったら試しに撮ってみるといいよ」

百聞は一見に如かず。時間はまだありそうなので実際に撮影してみることを勧めてみた。

「ワタシ、撮影したこと無いんだけど、どこに保存されてるの?」

「このゲームのフォルダ内のスクリーンショットって名前のフォルダの中です」

どうやらフェルの方がスクショの件に関してはユッキーより知識が上らしい。

「あー、あったあった。ありがとう@ちゃん。これで盗s……、記念撮影し放題ね」

今、不穏なワードが出た気がするが聞かなかった事にしよう。

「フェルは出来た?」

「はい、出来ました。記念に1枚撮りたいです」

「ワタシも@ちゃんと撮りたい!」

2人とも記念写真を撮りたいと言う事なのでフェルの初ID記念を撮ろうと思う。

「じゃあ、このIDのボスの死骸があるから、このワニをバックに1枚撮ろうか」

提案をしながら所定の位置に移動をする。

ワニの前に移動し終わるとユッキーが俺の右側に移動してきた。

それを見てフェルが俺の左側へ移動する。これはフェルがユッキーを避けていると言う訳ではなく、単純に俺が中央付近に居たのでバランス調整で左右に分かれただけだろう。

「じゃあ、撮ろうか。みんな同じ方向向いてね」

「ちょっと待って」

撮影しやすいように全員が同じ方向を向いて止まったのだが、ユッキーがストップをかけてきた。

「ユッキー、何?」

「show、場所変わりなさいよ」

フェルの横に移動したいのだろう。自分で反対側に回ればいいと思うのだが、仕方がないので場所を変わってやることにした。

「仕方ないなー」

しかし、そこはユッキー……。更なる暴言が俺を襲う。

「って言うか何でshowまで一緒に写る気満々なの?空気読んでツーショットで撮らせなさいよ」

「カメラの位置を上手く調整して俺が写らないようにすればいいだろ?場所変わってやったんだからそれくらいは我慢しろよな」

心の中でため息をつきながらユッキーにアドバイスを送る。

「show……、オマエ、天才か!?」

この程度で天才呼ばわりされたら世界中の9割以上の人間は天才になってしまうだろう……。

ただ単にユッキーがおバカなだけだ。

「はーい、じゃあ全員動かないでねー。撮り終わったら教えてね」

「撮り終わりました。ありがとうございます」

早々にフェルはSSを撮り終えたようだ。

……しかし、しばらく待ってもユッキーが、撮り終わってくれないのだ。

「ユッキーまだ?」

「なかなか操作が難しいわね。@ちゃんのワンショット写真がまだ撮り足りないわね……」

ふむ……、コイツには1度、鉄拳制裁をしないといけないような気がしてきた。

「記念写真を撮るだけだって言ってんだろ!?それにワンショットが撮りたいなら普通にSS撮ればいいだろ!?カメラ仕舞え」

こう言う事が続くとフェルや他の人にも今後迷惑になる可能性があるので、今回は少し強めに注意した。

「show、オマエ……」

あっ……、少し強く言いすぎたかもしれない。怒っていると勘違いされても困るので少し訂正しよう。

「天才か!?普通に撮ればいいのか!!」

前言撤回。絶対に訂正しない。

反省する素振りも見せないので本当に怒っても許される気がしてきた。

それと、俺が天才なら(ry

「はぁ……。フェル、ユッキーの事は放っておいていいから、他に質問があればどうぞ」

ため息をつき、ユッキーの事は諦めフェルに次の質問をするように促す。

「あっ、はい。アイテムでカードを手に入れたんですがこれは何ですか?」

「カード?フィールドのモンスターでも手に入るはずだけど知らない?……ちなみに何色?」

カードとは恐らくモンスター情報などが書かれているモンスターカードの事だろう。

「はい、カードは持ってはいたんですが、使い道が分からなくて全部捨てるか売るかで処分していました。今回手に入れたカードは緑色です」

カードは色によって書かれている情報が違うと言うことは無いのだが、レア度が高いほど表示されるモンスターのエフェクトが派手になるのだ。あと微妙にポージングが違っていたりする。

後からゆっくりモンスター情報を見る時に役に立つのだが、基本的にボス情報は覚えているし、雑魚は覚える必要もないので使う機会はあまりない。

だた、このゲーム専用のカードゲームをする場合、遊ぶのに必要になるので強いカードは需要がある。

「フェル、Ctrl と M を同時に押してみて」

「モンスター図鑑?」

フェルに教えたコマンドはモンスター図鑑を開くためのショートカットだ。


少し手間なのだが、カードはモンスター図鑑にストックしておくことが出来る。

1枚でもカードをストックしておけば図鑑を開くだけで基本情報を見ることが出来る。ドロップアイテムの情報など役に立つものもあるので便利そうなものなのだが、残念ながらモンスターの名前でしか検索が出来ない。よって必要なアイテムがあったとしてもある程度当たりを付けてモンスターを見て行かないといけないので、攻略サイトで情報を探した方が早いのだ。

なので、このモンスター図鑑は使いそうで意外と使わないシステムの1つと言ってもいいだろう。

「うん、そう、そこにカードをドラッグアンドドロップすれば図鑑に情報が出るようになるよ。カードは1種類999枚までストック出来るから、売るのが面倒だったら図鑑にしまっておけばいいよ」

カードはNPCの店に売るとレア度などを完全無視で全部1C(カッパー)と言う道端の石ころと同程度の価値しか見出さない。

「スキルとかも表示されるんですね」

「うん、後はトレカで遊びたい場合はそのカードを使う事が出来るから、その時は使うと良いよ」

「はい。……どうせなら青とか赤の強いカードの方が良かったなー」

「あっ……、うん……。ちょっと言い出しにくいんだけど……」

「あっ!showさんトレカやるんですか?ボクはいらないので使ってください!今カード取り出しますね」

俺が考えていた事とは違う風にフェルは捉えてしまったらしく、俺がカードを欲していると言えないと勘違いしているらしい。

「違う、違う、カードが欲しい訳じゃないの。カードのレア度が上がってもモンスターの能力とかは変わらないって言いたかっただけなの。勘違いさせてごめん、フェルがもっとレア度の高いカードが欲しかった場合、それを聞いたらガッカリすると思って言い出しにくかっただけだよ」

レア度が上がってもカードとしての性能は変わらないのだ。

ゲームをしてモンスターを召喚した時、レア度が高いと派手な演出で登場する程度の違いなのだ。

但し、レア度別に縛りがある大会もあるのでトレカを中心として遊んでいる人は全レア度を集めている人もいる。あとは単純に収集目的と言う人も少数だが居るには居る。

使えるカードは各種レア度が高値で取引されることもある。強い高レベルのボスカードなどは出回っている数も少ないので一番下の白品質でも高値で取引されているものもある。

緑のみなどなら簡単に揃うようだが、金のみの大会などは雑魚カードでデッキを埋めるしかないなどの苦情もあるようだ。

「勘違いしてすみません」

「大丈夫、気にしてないから。それに、カードのレア度を上げたかったら10枚合成すれば1つ上のカードに出来るよ」

緑のカードが欲しいときは白のカードを10枚。

青のカードが欲しいときは緑のカードを10枚(白100枚分)

赤のカードが(ry

と言った感じだ。言うのは簡単なのだが、赤のカードが欲しい場合は白のみだと1000枚必要になるのでかなり大変だと思う。その上の金になると雑魚カードならともかく、強いボスカードなどは1発で金カードをドロップすることを祈らなければ不可能なレベルだろう。

「ワタシ、いちいち図鑑を開くのが面倒だから全部捨てちゃってるわよ」

ユッキーの言う通り図鑑を開かないといけないのは面倒だ。インベントリ内のカードをダブルクリックなどの動作で簡単に図鑑へ移動して欲しい気持ちはある。

「ボスカードはオークションとか露店とかで売ればお小遣い程度にはなるから売れるなら売った方が良いよ」

雑魚は二束三文程度の物が多いのだが、ボス系は強いカードが多いのと、雑魚と違いデザインが良いなどの理由でコレクターなどには結構な高値で売れたりもする。

「ここのボスはどの程度の価値がありますか?」

売る気満々なのか、興味があるだけなのかは不明だがフェルがカードの価値を聞いてきた。

「そうだなー……。ここはボスと言っても弱いからなー。スキルも強いって訳でもないし、緑なら20~30C(カッパー)ってどころじゃないかな?」

「へー。弱いのにしっかり値段は付くんですね」

値段が付くと言っても高く売れてと言う話だし、30C(カッパー)は一番初めのフィールドだったとしても雑魚30匹倒せば手に入る額だ。金銭面だけで見るならここのボスで稼ぐより雑魚狩りをした方が手っ取り早い。

「まあ高く売れたとしてだからね。基本的には売れないって思った方が良いよ。ただ、図鑑を埋めたいって人もいるからレベルの低いIDのボスカードはそういう人向けかな」

「何となくその気持ち分かります!ボクも色々集めたり、図鑑埋めたりするの大好きです」

どうやらフェルも収集癖(しゅうしゅうへき)のあるタイプの人間らしい。

俺は色々と回っているうちに勝手に埋まるだろうと思っているタイプだ。わざわざ集めるはしないと言う感じの人間だ。

ユッキーは言うまでもなく、そう言ったことには全く興味が無いだろう。

「じゃあ、そろそろいい時間だし、質問が無ければ解散する準備しようか。フェルにドロップ品を渡したり、アイテム整理をしたり色々と始めようか」

「えー、もう少し良いじゃん」

ある程度予想はしていたのだが、ユッキーがごね始めた。

しかし、明日も仕事があるので今回は却下することにした。

「嫌よ!そろそろ寝ないとお肌が荒れちゃうわ!夜更かしは敵よ!」

「「……」」

ユッキーもフェルも黙ってしまった。

反論でも馬鹿にするでも良いので何かしらの反応はしてほしいものだ。

「……ごめんなさい」

とりあえず謝ることにした。

「分かればええんやで、反省しぃや」

ユッキーが似非(えせ)関西弁で返してきた。正直かなりイラっとするのだが、明日も仕事があるので色々と準備をして寝たいと言うのも事実としてある。

ここで何か反論をすればゲームが終わる時間が遅くなってしまう。

不本意だが今回は我慢しておこう。

「はいはい、ごめんなさいねー。じゃあ外に出ようか」

ユッキーを適当にあしらいつつ、IDの外に出ることを促す。

もちろん促しただけでID内に留まると雑にあしらった事に対して文句を言われそうなので、さっさとID内もといユッキーから退散する。

外に出てしばらくするとフェルとユッキーも出てきた。

「フェル、おつかれー。面白かった?じゃあ、いらないアイテムあげるからトレードしようか」

何か作業をしているアピールをしないとユッキーがさっきの事で文句を言ってくる事が予想されたので、ユッキーに文句を言う隙を与えない為にもフェルにトレードと言う名のゴミの押し付け作業に移ることにした。

無事、フェルにゴミを押しt……、トレードが終わったのでフェルに少しアドバイスをすることにした。

「ID内で入手した武器はフィールドで拾える武器よりも品質が同じなら強いからお金とか武器在庫に余裕があるなら合成してレア度の高い武器にしていった方が良いよ。今はヒーラー志望みたいだけど、ゲームを進めているうちに違う職をやりたくなるかもしれないからレベルが低いうちは色々な職を試してみるといいよ」

これは俺がゲームをやっていて感じたことも踏まえた上でのアドバイスだ。

俺はゲーム開始当初は前衛職を志望していた。ゲームもユッキー達と一緒に開始したのだが、盾職なんてものは全く興味が無かった。

しかし、一緒にゲームを始めた友達が何人か辞めてしまい、残った人達で色々な職を試しながら楽しんだ結果、盾職が一番しっくり来たと言う訳だ。

一番しっくり来たと言う表現は少し間違いかもしれない……。ユッキーは全く盾の才能は無く、他の人も俺と同程度の下手さだったのだが、俺が致命的に前衛アタッカーと盾以外の才能が全く無かったが原因だ。

それに、アタッカーにしても友達が引退するまでの間アタッカーをしていたので他の職よりも慣れていたと言うだけで特段上手いと言う事もなかった。

そんな訳で、やりたい職と向いている職が違うと言う事例は多々あるし、やってみたい職=面白い職とも限らない。やってみたけど向いていない又は面白くなかったと感じたりすることもあるだろう。

特に、上手い人のプレイ動画などを見て面白そうと真似してみたら全く同じ動きが出来ずに面白みを見いだせなかったなどと言うこともあると言う事だ。

スキルなどが派手な職は人気がある反面、ゲーム慣れしていない人などは操作が忙しすぎて諦める人もいるくらいだ。

そんなこんなで、いついかなる理由で職を変えたくなるかは分からない。あとから他の職を試すよりもレベルが低いうちに色々と試した方がプレイスタイルなどの修正はしやすくなるのだ。

「show、トレード終わったの?ワタシもあげるね」

どうやらユッキーはさっきの事を忘れてくれたらしい。フェルとのトレードに一生懸命のようだ。

「沢山ありがとうございます」

ユッキーとのトレードも無事終了したようだ。

「フェル、合成してレア度を上げるだけなら同じレア度の同じ種類の武器で1スタックに(まと)めることが出来るけど、強化したり、装備したりしてロックすると(まと)められなくなるから注意した方が良いよ」

強化をして能力値が変わった武器や、装備などトレードが出来ないようになった場合はインベントリを圧迫し始める。

さっきは色々な職を試した方が良いと言ったのだが、色々な武器をロックしてしまうと武器だけで荷物が一杯になってしまうのだ。

一応、インベントリの枠を拡張するアイテムも存在する。課金アイテムやイベントの景品などで入手可能だ。……しかし、不要な物の為に拡張する必要はないので強化などは必要最低限にしてアイテムを圧縮した方が良いだろう。

「必要のない物は売っても大丈夫ですか?」

「売ってもいいけど、後で使うかもしれないって思うならインベントリ内の武器や防具とかを右クリックして『カードに変える』を選択してカードにしておけばさっきのモンスター図鑑みたいに登録することが出来るよ。ショートカットはCtrl と i の同時押しだよ」

これは所謂(いわゆる)アイテム図鑑と言われる物を使った小技で、インベントリ内を整理する時などに使われている技の1つだ。

「出来ました。戻す時はどうすればいいですか?」

「戻す時はダブルクリックか右クリックでアイテムに戻す」

「おっ」

反応から察するに無事出来たようだ。

「これも注意点が有るんだけど、トレカで遊んでデッキに1回でも入れて使うとロックがかかってアイテムに戻せなくなるし、図鑑にも戻せなくなるから注意してね。トレカ用カードって部類でトレカ画面を開いた時にしか見ることが出来なくなるから。モンスターカードも同様ね」

ロックを解除するアイテムもあるのだが、課金アイテムなのでカードに使う人はあまりいない。

ロック解除は使っていた強化済み装備を売りに出す時などに使うのが一般的な使い方だ。レベルが上がって次の装備に新調する時にサブキャラに渡したり、フレンド、ギルメンにプレゼントしたりすることもある。

「えーっと……。強化したアイテムもカードにすることは出来なくなりますか?」

「うん、レア度を上げる強化なら問題は無いけど、能力値を上げて+1にしたり効果付けたりするのはダメ。ロックがかかってるアイテムもカードに出来ないから、色々な武器を試すなら低レベル装備で試すといいよ。高レベルになって試してもいいけど、売っても安い武器で試した方が失敗して無くなった時に後悔しないで済むかな」

「確かに……。ワタシも今から槍以外の装備を育てるのはちょっと嫌かな……」

ユッキーも共感してくれているのだが、カードについての事ではない。会話の最後の最後『失敗してなくしても~』の部分だろう。それ以外の話は興味が無くて聞いていなかったのだろう。

しかし、強化についても低レベルのうちに失敗して覚えた方が良いと言うのはあながち間違いではない。これについては共感してくれる人も多いだろう。但し、失敗しないで覚えるのと言うのが1番理想的だ。

「はい、色々試してみます」

「で、@ちゃんはまだレベル上がらないの?」

ユッキーが唐突に何の脈絡もなく意味不明な質問をし始めた。

恐らく、IDを周回したのにレベルが上がらないのが不思議だとでも言いたいのだろう。

「俺とユッキーのレベルが高すぎるんだからフェルには適正レベルだったとしてもPTの平均レベルが高すぎて経験値は1匹で1しか手に入らないだろ。レベルが上がる訳がない」

「あっ!そうか!!」

そうか!じゃない。少しは脳みそを通過してから発言して欲しいものだ。

「でも、IDはフィールドよりも経験値が多いから同じくらいのレベルの人が居るならPTで回っても良いし、フェルならソロでも余裕だと思うからここのIDをレベル上げの拠点にするのも良いかも。ここのIDならPT募集は数合わせだと思うから職は選らばないし、気軽に入って行って大丈夫だよ。気を付けるのは他の人のレベルかな」

「ソロ用ってやつに入ればいいんですか?」

「まあソロ用でもいいけど、PT用でもここなら1人でも回れる強さだから、一緒に回る人が居るならPT組んでボーナス付けて回って、人がいないようなら1人で回ればいいと思うよ。ソロの方も経験値は多少少なくなるけど、フィールドよりは効率良いから回る時間があるなら回った方が良いよ。リセットのし忘れには気を付けてね」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

フェルも納得しているみたいだし、特に質問なども無さそうなので今日は解散することにする。

「じゃあ、今日はこれで解散ね。お疲れさま。分からない事とかがあったらメールでもチャットでもいいから気軽に話しかけてね」

「@ちゃん、また遊ぼうね」

ユッキーが名残惜しそうにふぇるに別れを告げている。

「今日はありがとうございました。またよろしくお願いします」

一通りの別れの挨拶をしてフェルはログアウトした。

「show、今日はアナタにしては良くやったと思うわ。ワタシも今度遊ぶ約束もしたし……」

何故か上から目線で語りだしたユッキー。

遊ぶ約束をしたと言っているのだが、またよろしくお願いしますと言うのは確実に社交辞令の(たぐい)のものと言っても過言(かごん)ではないだろう。

「それとshow、また今度@ちゃんを誘って遊びなさい。勿論その時はワタシの事も呼びなさい。@ちゃんとワタシが揃った後は居なくなっても大丈夫だから」

「遊びたいなら自分で誘え!」

本当に寝言は寝てから言ってほしいものだと思いながらツッコミを入れる。

……こうして無事1日が終わりを告げた。


-To Be Continued-

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