フェルン@と救出作戦
そして、4chへ移動をした。
「本当に全く人が居ませんね」
4chへ移動をして初めて分かった事なのだが、1人もプレイヤーがいない。
少ないと言っても、2,3人はいるとは思っていたのだが、見える範囲にプレイヤーの姿は無い。
「ここに来るのはPKを楽しみに来る人だけじゃからのー。メインで使うチャンネル以外は人が集まらないからPKが出来んのじゃよ。じゃから人の集まらないところは、全く人がいなくなる訳じゃ」
返す言葉の無いくらいの正論だ。
対人戦をしに来て居る人達が、わざわざ好んで人の居ない場所に足を運ぶわけがないのだ。
「じゃあ、早速帰りましょうか」
特に俺達もここに留まる理由はないので、すぐさま帰路に就くことを提案した。
「来るときと同じ感じで戻ればいいですか?」
「そうじゃな。showさん、頑張って走るのじゃ」
ネロさんの了承をいただいたので、出発することにした。
少し進み、フェルン@さんに説明していないことに気が付いた。
「あっ、そうだ!フェルン@さん……」
歩みを止め、フェルン@さんに変えるときの注意点を説明しようとしたその時……。
コタロウさんのHPが一瞬で溶けてしまったのだ……。
犯人は言うまでもない……。
「敵襲!?」
コタロウさんを屠った張本人が何かほざいている……。
「オマエだよ!オマエ!」
「えっ?」
えっ?じゃない……。こいつには、学習能力と言うものは存在しないのだろうか……?
来るときと同じと言うことは、PKエリアであるこの場所では基本的には攻撃をしないと言う事だ。
そしてそれは、今、正にフェルン@さんに説明しようとしていた事でもある。
実際、他の人は理解していたようで、ユッキー以外の人は誰一人として攻撃する素振りすら見せていない。
「ワイを倒した奴はユッキー……。顔は覚えた……。絶対に許さへん……」
コタロウさんが親の仇を見たような感じで呪詛を唱えている。
「ち、違うのよ!今のはワタシ、悪くない!showが止まったのが悪いの!攻撃の合図だと思ったのよ!」
責任転嫁をし始めたユッキー。
「俺はフェルン@さんに攻撃をしないように言おうとしただけだ!他の人もここでは攻撃しないのは分かってた!攻撃したのはユッキーだけだし!」
しかし、そんな事を俺が許す訳がない。
何故なら転嫁先が俺だからだ!
「それは……」
流石のユッキーも、この件については、ぐうの音も出ないようだ。
そしてフェルン@さんに、このPKエリアで攻撃をすると誰かが今実践したような大惨事になるので攻撃をしてはいけないことや、範囲攻撃に巻き込まれないようにするため、少し距離を置くことなどを簡単に説明した。
まあフェルン@さんに攻撃されたところで痛くもかゆくもないだろうが、逆は即死だろうから攻撃されないことに全力を尽くしてほしいと思う。
そんなこんなフェルン@さんに説明をしているうちに、ネロさんがコタロウさんを復活させて回復も終わらせていた。
「ユッキー…、ワイに言うことあるやろ?ごめんなさで始まっていで終わる6文字の言葉や」
『ごめんなさ』で始まり『い』で終わる6文字って……。
「ごめんなさい」
どうやら、ユッキーの頭でも理解できたようだ。
「よし。今回だけは許したるわ」
「今後気を付けます」
コタロウさんとユッキーの茶番のような謝罪などが終わった。
コタロウさんが良い人で良かった。行きと帰りで既に2回もデスペナを食らっているのは正直キツいだろう……。
人を見かけなかったからと言って、あまりこの場にとどまっているのも得策ではない。気を取り直して出発しよう……。
そして、俺達はPKエリアを何の問題もなく走り抜けることが出来た。
ネロさんの言っていた通り、ここのチャンネルを使う人が極少数なので、他プレイヤーと鉢合わせになる確率は相当低いのだろう。
ここから先は、通常エリアなので仲間内で自爆することは無くなった。
「じゃあPKエリアを抜けたので、普通にモンスターを倒していきましょうか」
思う存分モンスターを倒していこうと思う。
「showさん、フェルン@くんの経験値をあげてみるって話じゃったのー。ワシとコタロウさんは攻撃しないからヘイト管理だけお願いするのじゃ」
ネロさんからの指示があった。
目的がフェルン@さんのレベルが上がるか上がらないかの検証なので、フェルン@さんに多くの経験値を入れる必要がある。
俺達のPTメンバーが攻撃をしてしまうとダメージ割合で経験値が分散されてしまう為に、ユッキー達のPTで分ける経験値が少なくなってしまう。
そうなると、最終的にフェルン@さんへ渡る経験値が少なくなってしまうからと言うネロさんの配慮だろう。
それと、いつの間にかネロさんがフェルン@さんを君付けで呼んでいる事には触れないでおこう……。
「了解です。コタロウさんもそれで大丈夫ですか?デスペナ分を少しでも取り返した方が良いんじゃないですか?」
俺とネロさんは良いとしても、コタロウさんは2回もデスペナを食らっている。流石に了承を取る必要があるだろう。
「ワイは大丈夫やで」
「コタちゃん、こっちのPTにおいでよ。5人PTになれば4人よりもPTボーナスで入る経験値が増えるから、そっちの方が良いでしょ?コタちゃんが来ないなら、showちゃんかネロちゃん来てよ」
コタロウさんの了承が取れたタイミングで、えーちゃんさんがPTに誘ってきた。
PTボーナスとは、3人以上のPTで付くボーナスの事だ。
取得経験値が3人で10%、4人で20%、5人で50%アップする。
このゲームはPTを組んだからと言って1人当たりの経験値が減ることは無い。
つまり、100の経験値のモンスターを1人で倒しても100、2人で倒した場合はそれぞれに100ずつと言った具合になる。
つまり、5人PTなら単純に150%の経験値が入ると言うことになるのだ。
当たり前のことだが、PTボーナスは同チャンネルの同エリアにPTメンバーが居なければならない。
言い方を変えれば同じエリア内に居さえすればいいのだ。
なので、エリア毎に経験値目的の為の野良PTの募集も多く存在している。
同じエリアで狩りをするなら、PTに入っているだけで他の人の狩った分の経験値を貰えて、さらに自分の狩った分の経験値は150%なのだからお得と言う話だ。
この手のPTは特に会話もないので、実質的にはソロ狩りと同じ感覚なのだが、経験値の入りが多くなるので、クエストのついでに入ったり、放置狩りをするときに入ったりと用途は色々だ。
たまにPTに入るだけ入ってそのまま放置して経験値を吸い取るだけの輩が居るので注意は必要だ。注意と言ってもデメリットはないので気持ち的な問題だ。
しかし、大抵の人はクエストの『指定モンスターを○○匹倒す』みたいなクエストのついでに入ることが多い。
このゲームはパワーレベリングや野良PTが可能なのでクエストの討伐数や次のレベルまでの経験値などが他のゲームに比べるとかなり多いのだ。ソロでやっていくにはかなり大変な部類のゲームだ。
「そう言う事なら、showさんどないします?」
「コタロウさん、俺に遠慮しないで行ってください。少しでも経験値を取り戻してください」
「ほな、遠慮なく行かせてもらうわ」
今回のデスペナの回数は俺が1回、コタロウさんが2回でコタロウさんの方が多いと言うこともあるのだが、コタロウさんが移動した方が討伐効率などを考えると、俺が移動するよりもコタロウさんが移動した方が良いと判断したのだ。
今はフェルン@さんのレベル上げの検証中なので、討伐効率を優先した形だ。
「じゃあ、出発しましょうか。どの程度釣ればいいですか?」
「普通に帰り道の途中に遭遇する分だけでいいのじゃ。レベルが上がらないなら何%動いたのかを聞けばいいだけなのじゃ」
何%動いたかと言うのは、経験値ゲージの事だろう。
ネロさんに言われるまで気が付かなかったが、確かにレベルが上がらなくても、そこがしっかりと動いていれば経験値は入っていると言うことになるのだ。
「了解です。フェルン@さん、今何%経験値入っていますか?」
「えーっと……。0%です」
フェルン@さんに聞いたのは良いのだが、これも良く考えれば分かった事だ。
フェルン@さんはあの環境下で毎日デスペナを受けていたのだ。経験値なんて残っているはずがなかったのだ。
「ごめん……」
「大丈夫です」
嫌な思いをさせてしまったと思い、すぐに謝罪をしたのだが、フェルン@さんはあっさりと受け入れてくれた。
気にしていないと言う事はは無いとは思うのだが……。
しかし、あまり掘り返していい話題でもないのでさっさと帰路に就くことにした。
そして、モンスターを討伐しながらの帰り道。
しばらくした時……。
「レベル上がったー!」
オットーさんがレベルアップを知らせてくれた。
「おぉ!おめでとうございます!」
やはり、フェルン@さんのレベルが上がらなかったのは何かのバグだったようだ。
「おめでとうございます」
ん……?何故フェルン@さんが祝辞を述べているんだ……?
「あれ……?フェルン@さんがレベル上がったんじゃないの?」
「いえ、違います」
「あれ……?」
「僕!レベル上がったのは僕!」
レベル上がったーと声をあげた本人が主張する。
そういえば、出発前にレベルが上がりそうでデスペナが嫌だとか言っていたような気がしないでもない……。
「紛らわしいのー」
ネロさんが率直な意見を述べる。
俺とネロさんはPTが違うので、あっち側のPTの状況が分からないのだ。本当に紛らわしい……。
「ごめん」
オットーさんも少しは反省したみたいで、素直に謝罪している。
「でも、おめでとうなのじゃ」
「ありがとうございます。紛らわしくてすみませんでした」
「いえいえ、謝らなくても大丈夫ですよ。おめでとうございます。フェルン@さんはまだ上がらないですか?」
「はい、ボクはまだまだです」
やはり、フェルン@さんのレベルはまだ上がらないようだ。
そうこうしているうちに街に到着してしまった。
フェルン@さんにターゲットを合わせステータスの確認してみるがレベルは変わっていなかった。
「フェルン@くん、あと何%でレベルアップするのじゃ?」
「76%くらいです」
「今76%じゃなくて、残り76%であってるかのー?」
「はい、今24%くらいです」
フェルン@さんのステータスを確認しながら色々と考えている時に、ネロさんとフェルン@さんの会話が聞こえてきた。
「フム……。一応経験値は入っていると言う事じゃな……。少しステータスを確認させてもらうのじゃ」
「はい」
「やはり、出発前と変わってないのー。レベルは上がってないと言う事で間違いなさそうじゃ。しかし、レベル2にしては異常なほどステータスが高いのじゃよ。レベルが上がったときに貰えるポイントは何に振ってるのじゃ?」
ネロさんはPKエリアを出発する前にフェルン@さんのステータスを確認していたらしい。
実はレベルは上がっているのだが、表示のバグでレベルが上がっていないように見えるだけ。と言う可能性もあったと考えての事だろう。
俺はそんなことは全山思い至らなかった……。
勿論フェルン@さんのステータスを出発前に確認しているなんてことはしていない。
そして、今見ているのだが、ネロさんの言うようにフェルン@さんのステータスは異常な程高い。
「ヒーラーがやりたかったので精神に振ろうと思っていたのですが、スキルを覚えていないのでまだどこにも振っていません」
「マジか……。装備もチュートリアルで貰えるレベル1装備のじゃし、基礎値が高すぎるのじゃ。チーターを疑うレベルなのじゃ……」
ネロさんが言うようにフェルン@さんのステータスはチートの一言で片づけてしまうのが一番楽だと思えるくらい異常な数値なのだ。
「違います!チートなんてしていません!」
フェルン@さんが少し焦ったような雰囲気で声を荒げながら否定する。
「すまぬ、今のは軽はずみな発言だったのじゃ。チーターだったら、あんな場所にいつまでも留まってないでとっくに脱出しているはずじゃ。変なことを言って申し訳なかったのじゃよ」
自分で考えた1つの仮説を言っている途中で矛盾に気が付いたのだろう。フェルン@さんに対して謝罪をしている。
「ボクの方こそ大きい声を出してしまってすみませんでした」
「フェルン@くんは謝らんでも大丈夫なのじゃ。不正をしていないのに疑われたら怒るのは当たり前じゃよ。それより、さっきも言ったのじゃが、運営にワシからも色々と問い合わせてみるのじゃ。フェルン@くんも直接問い合わせてみるといいのじゃ。第三者が質問するよりも有意義な情報が得られるかもしれんのじゃ。ワシも何か分かったらメッセ送るからのー」
「ありがとうございます。ボクも何か分かったら連絡した方が良いですか?」
「そうじゃのー、ワシは関係ないから連絡はしないでもいいのじゃ。でも、時間があるようなら、教えてほしいのじゃ」
ネロさんもフェルン@さんも先程の件はあまり気にしていないようで、何事も無かったかのように話は続いている。
「これで解散?」
オットーさんが唐突に質問してきた。
「はい、フェルン@さんも無事この街で登録したようなので、これで解散して大丈夫だと思います」
「えーちゃん、遊びに行こう」
「はいはい」
どうやら、えーちゃんさんと遊びたくて堪らなかったらしい。
ここまで我慢してくれたので、特に何も言うことは無い。
「あっ、そうじゃ。フェルン@くん、まだ時間が大丈夫なら少し付き合ってほしいのじゃ。たぶん数分で終わると思うのじゃ」
「はい」
まだ、ネロさんはフェルン@さんに用事があるようだ。
「何かあるんですか?」
「天空城に連れて行こうと思っているだけじゃよ。あそこは登録してた方が便利なのじゃ」
「なるほど、他の方は解散で大丈夫ですか?」
「ウム。ワシとフェルン@くんだけで大丈夫なのじゃよ」
「了解です。では、皆様解散です。お疲れさまでした」
「今日はありがとうございました」
「「「おつかれー」」」
これで、フェルン@さん救出作戦は無事終了した。
「ネロさん、ワタシも一緒についていってもいいですか?」
皆が解散した後、残ったユッキーが事有り気にネロさんに相談していた……。
ユッキーがネロさんに一緒について行くことを表明したのだが、登録するだけなので時間もかからない。
ユッキーは何を考えているのか……?
「別にいいのじゃが、今からワシが登録地を変えて戻ってきてテレポして終了じゃぞ?」
ネロさんもユッキーの意図が分からず少し困惑しているようだ。
「うん、それでもいいの」
「まあユッキーがそれでいいならワシは構わんのじゃが……」
ユッキーの意図も分からず、特に断る理由もないので渋々了承したというところだろう。
しかし、ユッキー事だ。きっと碌なことは考えていないだろう……。
ユッキーの動向が心配だったので俺も付いていくことにした。
ユッキーが暴走するようなことがあったら何とかして止めなくてはいけない。
「じゃあ、俺もついでに」
「分かったのじゃ、ワシは飛べるように登録してくるから少し待っていてほしいのじゃ」
ネロさんはそう言い残しこの場を去って行った。
「何でshowまでついて来るのよ」
ネロさんが居なくなった瞬間に文句を言いだしたユッキー。
「別にいいだろ?それとも何かやましいことでも考えてるのか?」
「べ、別に考えてないわよ!」
少し焦ったような感じで声を荒げ反論し始めるユッキー……。
怪しい。怪しすぎる……。
「ただいまなのじゃ。なんじゃ?夫婦喧嘩かのー?」
登録地の変更を行ってきたネロさんが戻ってきた。
「「夫婦じゃありません!」」
ユッキーとハモってしまった……。
「息ぴったりじゃのー」
ネロさんにおちょくられてしまった。
ハモった瞬間に何か言われることは予想できたが、ユッキーと夫婦だとか、息がぴったりだとか不名誉の極みである。
「ユッキー、フェルン@くんを連れてさっさと飛びたいからPTに入れてほしいのじゃ」
「今、PT送ります」
「俺にも」
「嫌」
何の迷いも躊躇もなく、ノンストップで断ってきやがった……。
「おい、PT送れって」
「あら?それが人に頼むときの態度かしら?」
「オネガイシマスPT二ショウタイシテクダサイ」(棒読み)
「オホホホホホ……。お断りよ!」
正直かなりイラっとした。
「痴話喧嘩はいい加減にするのじゃ!そんなものは後にするのじゃ!フェルン@くんも待っとるのに失礼じゃろ!」
ネロさんに怒られてしまった……。
ユッキーが全部悪いのに……。
そして、ネロさんの仲介(?)もあり、ようやくPTに入れてもらうことが出来た。
「じゃあ、飛ぶのじゃ」
「お願いします」
そして……。
天空城に到着……。
「フェルン@くん、ここは登録しておいて損は無い場所なのじゃ。登録しておくといいのじゃよ」
ネロさんがフェルン@さんに説明をしている。
レベル30になった時、ここへ来る為のクエストが発生する。
普通にやるとレベル30まではここに来ることは出来ないのだが、今のネロさんとフェルン@さんの様に誰かに連れてきてもらう人も多い。
RPGを主にやっている人達は自力でここまで辿り着く人も多いのだが、他のコンテンツをメインに活動している人は誰かに連れて来てもらう人が多いのだ。
このゲームでは30レベルまでが初心者と言う扱いになっていて、色々なチュートリアルを挟みながらクエストを消化していけば1日で到達できるレベルである。
遅くても普通にやっていれば3~4日で30レベルにはなる。
ただし、30レベルまでは早いのだが、その後のレベル上げは結構ハードモードなのだ……。
しかし、RPGには興味がなく、カードゲームやボードゲーム、懸賞などをメインでやっている人達にとっては、その30レベルすらも面倒なのだろう……。
他のゲームなどで知り合った人達にここまでタクシー業務を頼む人が多いのだ。
そして、何故みんながこの場所に集まるのかと言うと、この場所は露店、オークション、イベント、大会など色々な場面で使われることの多い重要な場所なのだ。毎週行われているGM達との交流会もここで行われている。
そう言った意味でも重要な場所なのだが、実はここのゲートを使うとほとんどの場所に1Sで移動する事が出来るのだ。今のところはPKエリア以外すべての場所と言ってもいい。
他の場所のゲートを使うと距離に応じて支払う金額が大きくなっていく設定になっている。
極端な話、この場所を登録しておけば世界の端から端まで2Sで移動が出来ると言う事だ。
勿論この場所を登録地にしておけばテレポを使ってここに戻って移動となるので1Sで移動出来ることになる。
しかし、IDの前や狩場周辺などを登録地にすることも多いので、ここを中継地として2Sでの移動が基本となるのだ。
「ワシは用事も終わったし、これで失礼するのじゃ」
「ありがとうございました」
「了解です。お疲れさまでした」
そう言ってネロさんは去って行った。
俺達も他にやることはないので解散しようとしたその時……。
「フェルン@ちゃん、まだ時間ある?」
ユッキーが突然フェルン@さんを誘ったのだ。
「そろそろ落ちようと思っています」
しかし、フェルン@さんはゲームを終了する時間が近いようだ。
「そう……。明日とかもダメ?」
「明日ですか?明日なら大丈夫です」
フェルン@さんは普通に了承しているのだが、用件を聞かずに大丈夫だと言うのは少し危険だと思う。
リアルでもそうなのだが、ユッキーはまず予定から聞いてくる人間なのだ。
聞かれる身としては、どういった内容で呼び出されるのかを聞いたうえで予定が空いているのかどうかを教えたいのだ。
呼び出された内容がただの雑用ならば、たとえ1日中寝て過ごすような暇な日だったとしても、その日の予定は1秒の空きもなくなるのだ。
「本当!?なら明日、ここの案内をしてあげる!この場所で待ち合わせしない?」
どうやら、この天空城を案内するようだ。
イベントの関係などでここを拠点とする人も割といるので、案内をして悪いと言うことは無いだろう。
しかし、ネロさんにわざわざついてきた理由がこんな事だったとは……。
ユッキーの事だからショタとお近づきになりたいとか疚しい気持ち満載だろう。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「じゃあ、俺も。明日何時に待ち合わせする?」
下心だけで積載量オーバーしているユッキー1人では心配だったので俺も同行することにした。
「何でアンタまで来る流れになってるのよ!」
「何か問題あるの?案内するだけでしょ?ま、まさか何か後ろめたいことでも考えてるの?」
最後は少し芝居がかっていたが、これで同行することは断りにくくなっただろう。
「べ、別に何も考えてないわよ!」
怪しい……。
怪しすぎる……。
「じゃあ、OKだね。フェルン@さんも大丈夫ですか?」
「はい」
よし、フェルン@さんから言質を取った。
これでユッキーが断ることは100%無理だろう。
「フェルン@ちゃんは明日何時頃IN出来るの?」
ユッキーは何事も無かったかのように、話を続けた。
俺が同行することを拒否出来ないと理解して、空気と同じ扱いにするつもりだろう。
しかし、これでユッキーが暴走する確率は少し減っただろう。
空気的な扱いだったとしても、その空気には監視の目があるのだから……。
「7時までにはIN出来ると思います」
「じゃあ、明日の7時半にここに集合ね」
「19時半了解」
「分かりました。今日はありがとうございました」
「また明日ね。バイバイ」
明日の予定を立てて、フェルン@さんはログアウトした。
「何でアンタまでついて来る流れになってるのよ」
案の定文句を言われた……。
「色々と(フェルン@さんの身が)心配だからだよ。ユッキーも1人だと案内が大変だろ?」
後半の言葉は取って付けただけの思い付きの言葉だ。
ユッキーとフェルン@さんを2人っきりにすると、ユッキーが限界化して暴走したり、制御不能になったり、自我を保てなくなったり……。
考えるだけでフェルン@さんの身の危険を感じてしまうので手綱を握る人間は必要だろう。
「まぁいいわ。ワタシたちのデートの邪魔だけはしないでよね」
いつから、街案内がデートになったのかは知らないが、この発言だけ取ってもでフェルン@さんの身に危険が迫っている気がする……。
「はいはい」
とりあえず生返事だけを返して今日は終わることにした。
- To Be Continued -