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不思議なあの娘に贈りたい ――sideエリナ

 今朝、起きてからというのもユキナさんの様子がおかしかったです。

 というのも……出会った頃のようにちぐはぐでツギハギだらけなのに意志は通っている。

 誰の影響も受け付けない。自分は独り。

 それに、私との接し方が露骨に変化しました。


「おはようございますエリナさん。今日はいい天気ですね」

「……はい、そうですね。おはようございます」


 まるで、仮面を被った貴族を相手に――心を明かさず殻に閉じこもった感じです。

 昨日は……少なくとも一緒にお風呂に入ったときまではいつも通りでした。


「では、私は行くところがありますので」


 ユキナさんは朝食を食べ終わるとすぐに屋敷から出ていってしまいます。

 顔色だけをみるなら健康そのものですが、頭がより働いているようで判断力が鈍っているあの感じは寝不足です。


「どうして……ユキナさんは」


 原因はやはり昨日の入浴の一件でしょう。

 私に反応したということは。


「あの、『代理人』さまが魔境に入っていったと報告があがったのです。……ご本人は神命だと『代理人』の権限を用いて、止められず……」

「魔境に……? それは――」

「――大丈夫です。お父様」


 我が家の使用人がお父様に報告しに来ますが、私ははっきりと告げる。

 魔境は魔力が穢れを持ち淀み、物質化、凝縮した危険な場所です。

 到底一人では向かうことのできない危険地帯ですが……私は心配はしていない。


「ユキナさんは倒れることなく、無事に帰ってきますよ」

「む……そうか……」


 あの状態だと、特に。余計な情報が頭に入らず、自分の目的を果たすあの状態ならユキナさんは負けない。

 狂信……その言葉はまさに彼女のためでしょう。


「……『帰ってきたら、あなたはきっと……鋭く尖った刃の如く輝くでしょう。自分自身を傷つけてまで』……」


 ある有名な物語の一節を詠う。

 物語では、悲恋として恋人を遺して主人公は世界の平和を守りますが……私は違う。


「私はあなたを守る鞘となる」


 今はまだ収めることはできずとも、いつか必ず。

 だからそれまでは――


「ユキナちゃん……私のかわいい、お人形」


 ――私は愛を詠う。


 愛を囁いて、心に楔を打ち付けよう。

 彼女の、信仰の器にヒビを入れる釘になる。

 偽りでもなく、まやかしでもない……真実の愛を。


 お人形――聞く人はたいてい、都合のいいかわいい玩具ですが……彼女はお人形だ。

 私だけの量産されたモノでもない。

 誰かに渡るモノでもない。


 私のささやかな贈り物。


 それは、役割。


「ふふっ……私が愛するモノという、些細な役目」


 世界に繋ぎ止める、細い糸……。

 壊れないよう丁寧に、欲望のはけ口にはしない。


「ああっ……愛してます……ユキナちゃん」


 この愛は、報われない。

 私は彼女に愛を注ぎたいだけ。

 私が彼女と幸せになることを望むことではない。

 なにより私自身が報われたいと思わない。


 この身が汚され、犯されようと彼女の幸せになる……最悪、不幸にはならないなら受け止めよう。

 そして、死ぬ前に伝えるんだ……愛していると。


「そうすれば……少なくとも愛していたと伝わるから」


 誰もいない部屋で独り、微笑う。


 幸せ、愛、承認欲求。


 足りない、まだまだ足りない。


「……なら、やはり私は死ねない、汚されない犯されない。ユキナちゃんが、愛を知るまで」


 そのためには……付き添う他ない。彼女の旅に。

 強くなる。突発的でも、代償を払おうと。


「……禁じ手……確か、『精霊憑依』でしたか」


 愚かな人が考える、最低な行為だ。

 ただし、その効果は絶大。


「世界そのものと一体となり、災害のごとく力を振るう」


 古い文献で見かけた、忌まわしき過去の記録。

 その時は、儀式の内容も代償も全て惹かれて覚えましたが……このときのためだったのです。


「……『精霊憑依』せずとも似たようなことはできますし、最後の手段ですね。ただし、代償は変わらないですが」


 代償は……■■の欠落。


 構いません……それすら、彼女に捧げましょう。それでなお私が刻み込めるなら、贈りましょう。



 この愛を、全て。

押して引くという、恋愛における基本技能を無自覚に行うユキナちゃん……っ!

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