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閉じ込めて閉じこもる

 さすがにシスターというべきか、あれだけ憎まれ口を叩こうと、それ以上何かをしてくるわけではありません。


「ここが、現在空いている部屋になります」

「はい、ありがとうございます」


 案内してくれたのは、老婆シスターではなくあのときの若いシスターです。

 案内された部屋は狭く、寝泊まりすること以外に何も考えていないシンプルな部屋です。


「あぁ……屋根もあるし、温かい……!」

「隙間風もないし……何よりベッドが柔らかいよ……」


 しかし、手狭な部屋でも彼らからしたら天国のような場所らしいです。

 一体、どうしたらここまで感動できるのでしょう。


「では、私はこれで帰りますけど不備がございましたらお申し付けください」

「いえ、ベッドだけで十分すぎます!」

「ありがとう、シスターさん……!」

「……っ、い、いえ」


 感謝を伝えただけなのに、そこまで動揺するとは……変なシスターですね。

 それとも、感謝されることが少ないのでしょうか?


「私たちは領主館に戻りますが……大丈夫ですね?」

「ああ、世話になったな」

「いえ、まだ治療は終えていませんので、ミアちゃんの様子には注意を払ってください」

「分かった、何から何までありがとう」


 すっかり遅くなってしまいましたが、ワーグルス閣下もエリスさんも何も言わずに暖かくただいまと言ってくれました。

 ……いいですね、人の温もりとは。


「……やはり、伝えるべきでしょうか」


 私は一人で入るには大きすぎる浴場で考えます。

 街の危機ではありますし、何より敵の狙いはワーグルス公爵のようです。

 ただ、あれ以来あの商人もどきの姿が見えないのがなんとも不気味ですね。


「……どうしたものか」

「何がですか? ユキナさん」

「……っ、エリナさんでしたか、驚かせないでくださいよ」


 突然、背後から話しかけられてビクッとしてしまいました。

 というか、普通に入ってきてますし気づかないほど熟考してただけですね……。


「ふふ……ごめんなさい。ですが、中々出てこないのでそれなら、一緒に入ろうかと思いまして」

「ああ……すみません」


 どうやら、結構湯船に浸かっていたようです。

 悪いことをしてしまいましたね。


「構いませんよ、それに……こうして一緒に入ってみたかったですから」

「そう、ですか」

「はい、妹たちも大きくなって一緒に入ってくれなくなったので寂しかったんですよ」


 ああ、私も挨拶しましたけど気難しい年頃ですからね。中々攻撃的でした。

 まあ、可愛らしいかったですけど。


「もう少し大きくなったら、きっと一緒に入ってくれますよ」

「だといいですねぇ」


 ふぅ……と脱力して肩まで浸かる。

 水滴が頬から、胸までを伝う様はとても艶かしく、美しかった。


「……? どうかしましたか?」

「いえ、エリナさんはスタイルがいいな、と」

「そうですかね? 私はユキナさんくらいがかわいくて丁度いいと思いますけどね」


 そう言って、エリナさんは抱きついてきます。胸が押し当てられ、当たった部分が沈みこんでとても柔らかかったです。

 そのまま膝に載せられ後ろから抱え込まれる。


「ふふっ……ユキナさんはこんなに強いのにかわいくて、柔らかいですね……」

「まあ、私の強さは魔法によるものですから」


 力不足は否めないけど。

 それでも、世界のトップクラスではないかと思います。


「それに、柔らかいのはエリナさんのほうです。その、胸、とか」

「……そうですか、ありがとうございます」


 更に抱きつかれ、当てられます。

 なんだが、気恥ずかしくなりぶくぶくと口元まで沈み込みます。


「……かわいい」

「……っ、私はもう上がります!」

「えぇっ! ……そうですか……」


 残念そうな声が聞こえてきますが、今はこの火照った顔と体を夜風で冷ましたい気分です。









 お風呂から出て、魔法できれいにした法衣を着込み部屋に戻ります。


「はふぅ……」


 ベッドに倒れ込み、枕を抱え込むようにうずくまる。

 そうでもしないと、屋敷中に響き渡ってしまいそうだから。


「ううぅぅぅ〜〜っ!」


 枕で口を覆い隠し、漏れでないようにして何とかこの感情に履け口を設ける。


「なんなんですかぁ……エリナさん……」


 この感情の矛先はエリナさんに向かっている。

 彼女といるだけで幸せだし、あちらも幸せだと思ってくれるなら更に幸せだろう。

 この感情に名前をつけるとしたら……それは、友愛でも親愛でもなく――恋心というやつでしょう。


 ただ、この恋が報われることは決してない。報われてはならない。


「……私には、敵が多い……これから、もっと増えるでしょう」


 巻き込むわけにはいかないでしょう。

 大切に思うなら、尚更。


 ですから――


「仕舞いこめ、この恋は錯覚。ただの気の迷いです。彼女……エリナさんの、ことなんて……っ!」


 心の奥底まで、鍵をかけ閉じ込めます。

 二度と表に出ることのないよう、頑丈に厳重に。


「うっ……ぐすっ……えぅ……」


 涙で頬をぬらし、考える。

 エリナさんは、素敵な人だ。

 優しくて、料理も上手で、女性の理想と言っても過言ではない。

 芯も通って、例え危機的状況でも気丈に振る舞う。


 そんな人にはもっと、相応しい人がいる。

 それに彼女は、公爵家の人間だ。


 いずれ、王族貴族かあるいは他国に嫁ぐのだろう。

 どの道、釣り合うとは思えない。


「だから……私は、恋なんて……して、いない」


 見守るべきです。

 私という立場の者は、ひそかに幸せを願い、見守るだけの存在であるべきだ。


 何度も、何度も何度も何度も何度も、そう自分に言い聞かせる。


 気が付いたら深夜となり、月が頭上で光輝いていました。


「……伝えましょう。そうして、出ていきましょう。この街の神敵を討伐したら、すぐにでも」


 まずは、そうですね。

 協力を仰ぎ、騎士団を派遣してもらい根城を見つけ、速やかに遂行しましょう。


「……勝つためにも、睡眠など不要ですね。【火】で回復させつつ、鍛えましょうか」


 手始めに、近くの森で魔物狩りでもしつつ、闘い方の実験でもしましょう。

 私のステータスだとここいらの魔物では相手にはならないですし、丁度いいはずです。

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