復讐の炎は悪意の種を従える
タイトルは変えるかも
日が暮れるまで、話し合いは続きましたが、結局何も決まらず……それどころか、段々と剣呑な雰囲気が漂ってきます。
「お兄ちゃんは、どうしていつもそうなの!」
「いつもってなんだ! そういうお前こそ、治せるっていうのにどうしてなんだよ!?」
平行線で、先程から似たようなことしか言わなくなり、もはやただの兄妹喧嘩でしかありません。
「……はあ、不毛ですね。そこまでです、お二人とも」
「「……」」
「とりあえず、また誰か来ないうちにここから離れましょう」
ここらへんには明かりがないので、真っ暗ですが火がないなら灯せばいいでしょう。
私は小さな灯火は点けられませんが、エリナさんは生活魔法を使えるため問題ないでしょう。
ほんと、どうして私は火に関しては【火】以外で扱えないのでしょう?
「何処に行くっていうんだ? 俺らには他に当てがないぞ」
「知っていますよ。大丈夫です、私が用意しますから」
「それは、一体?」
「……私の服装を見て、想像できませんか?」
「教会、ですよね」
「ええ、そうですよエリナさん。私がいれば教会の治療室の空きくらいなら貸し出してくれるはずです」
教会には必ず一人は治癒のできるものが存在します。
そして、重症患者のための部屋が存在します。
まあ、他にも神官用の寝泊まりする部屋もありますが、私は信徒ではありますし『代理人』でもありますが神官ではありませんし、関係のない人をそこに寝泊まりされるのはいい顔をしないでしょう。
……そうですね、とりあえず私の患者として紹介することにしましょう。
らら〜♪ と、人魚のような耳心地のいい歌声がとある地下施設に響き渡る。
「それで、あなたたちはあの三人が失敗をするところを見て……逃げたというのね」
「……っ、言い訳する余地もございません」
「で、そんな負け犬のあなたたちはワタシに何をもたらすというの?」
重要な部分しか隠されておらず、半透明な布で、身体を彩る。
天女の如き美しさに、他者を屈服させるその姿は恐怖さえ快楽に変えるだろう。
「ワタシの駒はそんなに弱かったかしら? 役立たずではないはずよ?」
「はっ! 敵の能力とその正体、危険性について、捕らえるよりも報告すべきだと愚行いたしました!」
「……それで?」
薄水色の髪を限界まで伸ばし、同じ色の瞳は見下していた。
少女のような容姿に付き従う、屈強な男たち。
ありていに言って、異常な光景だ。
「……敵は、神官のようです。私めが与えた毒が効いておらず、制圧しそのまま拷問にかけるほどの強者です」
「なるほどね……この臆病者! ――といきたいけど、今回は見逃してあげる。後でその神官の詳細についてまとめて提出なさい」
「ありがとうございます!」
命令を受けて、恍惚とする。
やはり、ここは歪な空間だと、その天女の後ろに控える男は考える。
「はぁ……まあ、『感染源』だけでも生きてたからいいとしましょうか。『毒ガス』は何度でも培養すればいいわけだし……ねえ、とりあえず百人ほどくれないかしら?」
「無茶言わないでくれ、あの力に耐えられるやつなんて百人も用意できるか」
「あら、問題ないわよ。ワタシの『呪歌』があれば、例えか弱い子供でも一兵卒にしてあげるわ」
「……それも、それでおかしいのだが……まあ、よかろう。掛け合ってやる」
「いいわよね、その力も便利で」
「ふん、どちらかといえば『花』のほうだ。これはその子である、『種』の使い方の応用でしかない」
「ふぅん」
その男――商人もどきは目をつぶり、さながら人形を操るように手を動かす。
しばらくすると、目を開け、汗を垂らしながら天女に告げる。
「三日後だそうだ。三日後に届けるそうだ。それと、心強い用心棒も」
「そう、なら準備を急がないとね」
「ああ……すべてはワーグルスを潰すために」
――ワタシは違うのだけどね。
そう言っても、ドロついた復讐の炎に取り憑かれた男には届いていなかった。
何事もなく無事に辿り着け、今はミラさんとミアちゃんの宿泊に関して説得している最中だ。
「……ですから、彼らは一見健常者のようですが類稀なる病を抱えています。して、その治療には時間を要します」
「事情は理解しました。されど、神の箱、天使の籠たる教会にそのような背信者を受け容れることはできかねます」
「ふむ? 背信者、ですか」
そして、相対するは老成した熟練のシスター。
以前訪れたときの若いシスターではないのは、遅い時間だからだろう。
「……ええ、祈りを捧げれば救われるというのに、そのようなことにはなっていないでしょう?」
「……なるほど」
つまり、こうして苦しんでいるのは信仰が足りないからだと。
信仰さえあれば、病に罹っていないと。
「……で、あれば尚の事受け容れてもらう他ありません」
「は?」
「私が彼らを見つけ救うと言うのです。これを神の導きと言わずしてなんと言いますか」
「くっ……」
「では、これにて。……それと、あなたには後で少し話があります。ただ祈れば救われるという傲慢。救いを求める声に手を差し伸べ、道標となるのが神官。年月を重ね凝り固まったその思考をしっかりと教育し直しましょう」
「……ッ、何を偉そうに……!」
憎まれ口を叩かれますが、無視をしてあいている治療室に向かいます。
自らの感情に溺れた憐れな人。
そうとしか言いようのない人でした。
伏線張るのって難しいね