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第20話

 再びこの近くに悪魔が現れたらしい。

 もう日が傾きかけた街をエリカを先頭にして俺達は走っていた。


「近づいてきたわ。すぐそこよ!」


「うう……やはりいざとなると少し緊張しますね……」


 俺の隣を走る咲の顔は固い。

 気持ちは分かる。

 俺も一回目はそうだった。


「多分だけど、そんな緊張する必要はないと思うぞ。出てくるのはただの変態だ」


「それはそれで緊張しますよ!?」


 言われてみればそれもそうか。

 命に関わる相手じゃないにしても、変態に好んで近寄りたい奴なんでいないわな。

 なんだか感覚が麻痺してきているような気がする。


「いいえ、かなり邪気が強いわね。上級悪魔かもしれないわ。身構えておいた方がいいわよ」


「上級だとやっぱり違うのか?」


「単純に魔力が強いし、実体があるから力もある。並の祓魔師(エクソシスト)では手に負えない相手もいるわね」


「……俺達が一緒で大丈夫か?」


「大丈夫よ。問題ないわ」


 それどこかで聞いたことあるぞ。

 ダメなフラグのやつや。


「飛鳥、この悪魔を倒した後で……」


「おいこれ以上はやめとけ」


「……そうね、今はやめておくわ。だから、後でね」


「なんかもう手遅れな気がするけどな」


 主に死亡フラグ的な意味で。

 どうすんだよ、咲は緊張が解れるどころか冷汗流しながらエリカを見てるぞ。


「エリカ先輩、お願いだからもう言っちゃってください。このままでは勝てる気がしません!」


「大丈夫よ。上級悪魔だろうがあっという間に白目を剥かせてやるわ」


「だからどうして負けフラグをポンポン言うんですか!?」


 ここまで臆すことなくフラグを立てていくとなると逆にすごいよ。

 ヤム○ャさんもビックリするレベルだ。


「えーちゃん……えーちゃんはいい子だったよ……!」


「なんで過去形なのよ!?」


 里奈に至ってはもう負けた扱いにしてるし。

 俺もエリカの活躍はちゃんと胸にしまっておくからな。

 安心して逝ってこい。


「いたわ! あいつよ!」


 そうこうしているうちにエリカが悪魔を見つける。


 学校近くのビリヤード店から駅に向かって数分。

 息が苦しくなってきた所だ。

 息を整えながらエリカが指し示す方向を見る。


 ここは駅の商店街の入口だ。

 一般人がそれなりにいる。


「……どこだ?」


 前に見たツインテール悪魔のような、分かりやすい変態がいないか探してみたがどこにもいない。

 誰も彼もが普通の格好だ。


「あのブレザーを着た男ね」


「……普通だな?」


 エリカが特徴を挙げた男は言われた通りブレザーを着ている。

 下は模様が入ったスキニーのパンツでちょっとお洒落だ。

 紙袋を被ってないし、顔もしっかり見えている。

 歳は……三十前後くらいだろうか。

 ちょび髭が生えていて少しダンディだ。

 こういう人もいるだろう。


 本当に悪魔なのか……?


「そこの悪魔! 祓魔師である私が来たからにはもう好きにはさせないわよ!」


「いかにも私は悪魔である。よく来たな祓魔師よ」


「正直に悪魔だって名乗るのは様式美なのか?」


 確かツインテール悪魔も堂々と名乗ってたよな。

 誤魔化すって方法も取れなくはないと思うんだが。

 案外悪魔も正々堂々としたものである。

 この悪魔は立ち振る舞いも綺麗だし。

 紳士悪魔と呼んでもいいかもしれない。


 しかし見た目といい紳士的な態度といい、これは当たりを引いたかもしれない。

 親父以外に見る初めてのまともな悪魔だ。


「ふふふ……絶対領域を司る私に勝てるかな?」


「……絶対領域?」


 思わず気になった単語をオウム返ししてしまう。

 どんな能力かは分からないが、すごそうな雰囲気だけは伝わる。

 あれか、ATフィールド的なやつだろうか。


「見よ! これが私の絶対領域だ!!」


「こ、これは……!」


 え、なになに?

 エリカだけは驚いてるけど俺にはよく分からない。

 悪魔は胸を張って何かを主張しているが、本当に胸を張っているようにしか見えない。

 それとも邪気を感じられない俺だけがそうなのだろうか。


「あの悪魔は一体何をしてるんですかね。特に魔力を展開してるとかでもなさそうですが……」


 咲も俺と同じで分かってないらしい。

 咲が言うからにはフィールド的な何かを張っているわけでもないようだ。


「あっくん、さっちゃん! 足だよ!」


「……足?」


 里奈に言われて見てみるが、特に変化は見られない。

 立ち方的に少し股間を強調しているように見えるのは気になるが、変かと言われると変ではない。

 もちろん俺の足にも変化はない。


「別に普通に見えるが……」


「違うよ! スキニーパンツと見せかけて、あの人短パンにサイハイソックスを着ているんだよ!」


「えっ」


 確かに言われてよく見てみると、里奈の言う通りだ。

 悪魔の脚はパツンパツンの黒のタイツ――いや、サイハイソックスで覆われている。

 ってことは、模様に見えていた部分は悪魔の生足……?


「ふふふ……ちゃんとムダ毛は処理しているから安心するがよい」


「そこは心配してないけど!?」


 むしろムダ毛処理してたのかよ。

 見た目三十路の男がムダ毛処理とか逆に気持ち悪いよ。


「というか、絶対領域とサイハイソックスにどんな関係が……」


「ふむ、絶対領域をご存知ないか。絶対領域とはボトムスとソックスの間から微妙に覗く素肌の太ももの部分のことである! つまり私にあるのは絶対領域!」


「それは知ってるけど!? ってか男の見ても何も嬉しくないわ!」


 あれは女の子だからいいんだよ。

 ムダ毛処理してようが男の筋肉質な太腿見て喜ばないよ。


「この悪魔……強いわ。欲望を自らにまで反映し、それで力を増幅させている……!」


「そんなんで強くなっちゃうの!?」


 自分に絶対領域持たせて強くなるとか嘘だろ。

 嫌だよ見たくないよ。

 悪魔が強化されてるんじゃなくて、嫌なものを見てこっちが弱体化させられるだけな気がする。


「仕方ないわね。こっちも早速変身よ!」


「……変身?」


 初めてエリカの変身を見る咲が驚いている。

 無理もない。

 人間が変身するって普通思わないよな。


「テクテクマヤコムテクテクマヤコム! エリーカフラッシュ!」


「えっ、なんですかこれ」


 エリカが変身前の呪文を唱えると、例の光の靄がエリカを包む。

 相変わらず際どいが、隠す所を隠しているのは見事と言う他ない。


「これ物理法則どうなってるんですか。なんで何もない所が光ってるんですか。エリカ先輩の制服どこ行ったんですか」


「咲がそれを言っちゃいけないと思う」


 半分悪魔で魔力を扱う奴のセリフじゃない。

 ファンタジー要素否定したら自分の根幹否定するようなもんだぞ。


 咲と話をしているうちにエリカの生着替えは完了し、光の靄が解けてミニスカ巫女さんになったエリカが現れる。

 くそ、今回も大事な所が見えなかった。


「魔法少女みこみこエリカ! 神に変わってお仕置よ!


「みこぉ!?」


 それにしてもいいリアクションするな、咲は。

 見ててこっちが面白いよ。

 俺も里奈も二回目にして慣れたものである。


「なんでお二人はこれ見て平然としてられるんですか!?」


「俺達は二回目だしな。毎回ツッコミ入れてたらキリないし」


「私はあっくんがそれでいいなら特には」


「適応能力高すぎません!? 私何回見てもモヤる自信しかないんですけど!」


 俺だってモヤってるけど。

 でも実際キリないぞ。

 衣装を変えるにはパワーアップが必要だ。

 それが変身モノの定番だからな。


「外野! うるさいわね!」


「ほら咲、怒られてるぞ」


「私が悪いんですかこれ!?」


 だれが悪いかと言われたら咲が悪いだろう。

 魔法少女の変身シーンを邪魔した罪は重い。


「ほう、悪くない変身衣装だ。しかし祓魔師よ。ソックスが短いぞ!」


「あんたのリクエストに応える義理なんてないわよ!」


 エリカの巫女さん衣装はスカートは短いが生足部分が多い。

 これでは確かに絶対領域とは言えないだろう。

 生足はそれはそれでいいけど。


「てやぁ!」


「ふんっ!」


 エリカは悪魔の身長よりも高く跳躍すると、空中で一回転して飛び蹴りを悪魔に繰り出す。

 しかし悪魔はそれを軽く避けると何かを飛ばすような仕草をする。


「ちぃっ!」


「ふふふ、たくさんあるぞ!」


 悪魔は身振り手振りでいくつもの何かを飛ばす素振りを見せる。

 エリカはそれを舞うように回避を行っている。


 ……なにこれ、エアドッジボール?


 それともド○ゴン○ールごっこかな。

 小学生の時に俺もやったよ。

 後で虚しくなるんだよなこれ。


「なんだなんだ?」

「何かの撮影か?」

「後でCGでもつくのかな」

「あの衣装かわいー」

「生足対決だ!」


 ここは駅近くなので人もたくさんいる。

 自然と周りに人集りができ始めていた。

 ギャラリーの皆さんもエリカと悪魔によるエアドッジボールを観戦している。


 というか最後の人、目がいいな。

 悪魔の生足部分をちゃんと見抜いている。

 そこまで分かってるならサイハイソックスな所に疑問を持ってほしいけど。


「すごい、あんなに高純度な魔力弾をいくつも飛ばしてるなんて……!」


「でもえーちゃんも全部避けてるよ! えーちゃんがんばえー!」


 ってあれ?

 里奈と咲はなにか違うものが見えてる様子だ。


「ああ! 悪魔が力を溜め込んでいます!」


「えーちゃん気をつけてー!」


「悪魔が魔力波を放ちました! しかしエリカ先輩、これを真正面から受け止める! 弾いたァーッ!!」


「きゃー! えーちゃんかっこいいー!」


「いや、あの強力な魔力波はブラフ!? エリカ先輩の後ろに本命の魔力弾が!」


「えーちゃん避けてー!」


「寸前の所で気付くも避けきれずに被弾ー! エリカ先輩が呪いに掛かってしまいましたー!」


「えーちゃん負けるなー!」


 なんという素晴らしい実況。。

 こっちから見てるとエリカが何も無いのに踏ん張ったり、いきなりよろけたりしてるだけでシュールな光景だったからとても助かる。


 ってかエリカがピンチになってしまったのでは。

 魔力弾が当たったらしいエリカは地面に膝をつき苦しそうにしている。


「ククク……祓魔師よ。これでお前は絶対領域を持ちたくなっただろう」


「くっ……私は……こんな呪いに屈したりは……!」


「いいことを教えてやろう。すぐそこのアパレルショップにサイハイソックスが売っている。その衣装には白がきっと似合うだろうな……」


「や、やめて……」


「なんと今なら二割引のセール中である!」


「ああー! それ以上はやめてぇー!」


 一体なんのやり取りをしてるんだこれは。

 ちょっとよく分からない。

 分からなくはないんだけど、脳が理解を拒絶している。


「ならば最後のひと押しだ。電子決済なら更に5パーセント還元! 会員カードのスタンプも二倍だ! 買うなら今しかない!」


「くっ……覚えておきなさい、次に会ったら容赦しないわよ! ちょっと買ってくる!」


 エリカはそう言うと脱兎の如く商店街へと消えていった。


 結局行くんかい。

 いや確かにお得だとは思うけど。

 この悪魔どこの回し者だ。


「ふふふ……また絶対領域を増やしてしまった……」


 悪魔はエリカの背中を見守りながら勝利の愉悦に浸っている。


 こうしてエリカは悪魔の呪いにかかり、戦線を離脱してしまった。

 まぁアレだけ負けフラグ乱立させてたからな。

 負けない方がおかしい。


「さて、ではもっと絶対領域を増やすこととしよう」


 悪魔はエリカとの戦いを観戦していたギャラリーにゆっくりと目を向ける。


 ……あれ、これってもしかしてピンチなのでは。

 戦う人がいなくない?


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