告白ラッシュ
最近、昼休みや放課後になると朱莉と沙奈江は必ずと言っていいほど呼び出されて教室を出ていく。誰が見ても告白されているのは明らかだ。しかし、告白が止まらない、言い換えるとまだ誰にもOKを出していない状態だ。
誰かと付き合うことが決まればすぐに噂になり告白しに来るやつもいなくなる。これだけの人数が来るんだからあいつらも迷っているんだろうと俺は思っていた。
そんなある日の休憩時間に不意に朱莉に話しかけられた。
「侑汰君ってさ、彼女とか作らないの?」
「俺に興味を持ってくれる奇特な女の子はまだ現れないね。それより朱莉はどうなの? そろそろ彼氏を決めた?」
「今まで来た人は全部断ったよ。多分これからも断ると思う…」
なんで? どうして? 俺には意味が分からない… 一人ぐらいイケメンでいい奴いるだろ?
「あれだけ来ててタイプの人はいないの?」
「私ね、前も言ったけど気になる人がいるんだ…」
彼女が何を考えてるのかよく分からなかったが、気になる人がいるんじゃ確かにしょうがない… でも何か引っかかる。
「その人とは喋ったりするの? 発展とかは?」
「少しは話してるけど、何にも発展なんかしてない」
「朱莉だったら自分から迫れば一発でカップルになれるんじゃないの?」
「そんな自信ないよ~ それにきっかけはこっちで作っても告白はやっぱり向こうからして欲しいし…」
あれだけ可愛い朱莉でも自信がないことに驚いた。最近よく笑う朱莉の表情は以前の数倍可愛く見える。この笑顔で迫られて断る男もそうはいないと思う。現に今俺と話してる表情も優しそうで凄く魅力的で…… そういえば何かおかしい…
「だったら自分から少しだけ近付いてみたら? 案外相手もすぐに気づいて告白するんじゃない?」
「そうかな~ だったらいいんだけどね…」
そういった彼女の視線、表情を見てて何か違和感を感じる…
朱莉とそんな話をしていた日の放課後、今度は沙奈江に話しかけられた。
「侑汰ってさ、好きな人とかいないの?」
「今はいないかな… まだ高校始まったばっかりだし、どんな女の子がいるのかも知らないしね」
好きな子どころかお前たち二人の相手だけで手一杯だったよと言ってやりたかった。そういえばこいつらのおかげで俺はほかに知り合いや友達が全然できていない。このままいくとボッチへ直行してしまう。
「でも朱莉とか凄く可愛い子も隣にいるでしょ?」
「朱莉や沙奈江みたいな可愛い子と俺が釣り合うわけないでしょ? その辺はわきまえてるよ」
「そんなことないんじゃない? 釣り合うとか関係ないじゃん…」
そう言った沙奈江の表情… やたら真剣だ。何かおかしい…
「そういえば沙奈江も朱莉と同じくらい告白されてるよね? お前の方こそ彼氏は決まったの?」
「あれは全部断った。今は告白されても全部断るつもり…」
「そうなんだ、今は誰とも付き合いたくないんだね…」
俺はわざと彼女にそんな言葉をかけて、注意して彼女の表情を見ていた。
「そうじゃないけどね…」
最後の返事は明らかにこっちを見て言っている。
女の子がこういう話題をこんな表情で話す場合、それにどんな意味があるのか姉ちゃんに教えられた覚えがある。さっきから感じていた違和感もやっと理解できた。この席にやってきた当初は、俺と笑顔で話してても彼女たちは俺に全く興味ない目や表情をしていた。虫を見る目と変わらない。
しかし、最近俺と話すときの表情は優しさを含んでいる。妙に温かい。明らかに彼女たちは俺を見ている。 なんでこうなった? どこで間違えてこうなったの?
冷静に考えよう… 彼女たちの態度、話した言葉、視線… 多分俺はこの二人に好かれている。ただ、今のところ何となくぐらいだろう… 何とかしないとこのままじゃマズい。あいつらとの発展なんて考えたくもない…
彼女たちの次のターゲットは明らかに俺になりかけてる。 ロックオン寸前の状態… しかも何故二人揃ってそうなの? あいつら馬鹿じゃないの? 俺は泣きたくなるような感情を抑えて対応策を考えることにした。
取り敢えず現時点での絶対防衛ライン… スマホのアドレスを死守すること! 絶対に教えない…
これを突破されると不味い… 自由に連絡されまくる。 無視するのがどれほど恐ろしいかも思い知らされている…
その日の夜 朱莉の家
朱莉はお風呂も済ませてパジャマ姿で机に向かい明日の授業準備をしていた。それを終えると机に肘をついて何やら考え事を始めた。
結構前から侑汰君のことが気になり始めたんだよね… 侑汰君は私が望むことを本当によく理解してくれる。あれって私のことをずっと見ているからできるんだろうな… そうじゃなかったら、あんなに私の気持ちを理解できるはずがないもんね。
やっぱ、侑汰君って私のことが好きなのかな? やっぱり私って可愛いし キャハハ。
でも不思議なのはあれだけ私に気を使ってくれてるのに何も私に言ってこないんだよね… 私に気があるんだったらそろそろ言ってきてもいいはず… あれだけ周りから告白されてるのも知ってるわけだしね。今日話した感覚でも女の子と付き合いたいって思ってるのかどうかも分からない。
なのに何であんなに優しいんだろ? もしかしたら遠慮とかしてるのかな?
何か侑汰君らしくって可愛いな… そんな態度取られたら余計に好きになっちゃいそう。中学の時も結構な人と付き合ったけど誰もあそこまで私のことを分かってくれなかった。その辺侑汰君はすごい… ちゃんと分かってくれてる。
だから話してても凄く落ち着けるんだよね… はじめは侑汰君に好かれているのかなぁ~ なんて思ってたけど、今は私の方が好きになっちゃってるかも…(キャッ) でも、もうちょっと私の気持ちも侑汰君の気持ちも確かめないとな…
やっぱ、早くアドレス交換とかしないといけないよね… そういえば何で今までしなかったんだろう…
ま、明日にでもアドレスは教えてもらおう。本当は侑汰君も聞きたかったのかもしれないしね…
今回は特別に朱莉ちゃんから教えてあげましょう… こんなにサービスするの侑汰君だけだからね、えへへ。いきなり私からアドレス教えてあげたらその日のうちに連絡してきて「実は朱莉さんが前から好きだったんです」なんて言ってきたりして~ きゃああああ! どうしよう? そんなことになっちゃったら… すぐにOKしちゃう?
朱莉の脳内妄想はその後も果てしなく続いた。朱莉は可愛くてモテる割には妄想癖を持つ。
いわゆるイタい子だ。
一度妄想が始まるとその暴走は止まらなくなる。朱莉の中では侑汰はもはや「あかりちゃんだいちゅき」状態となっている。
実際には明日朱莉が侑汰にアドレス交換しようとしている事こそ、侑汰が最も恐れている事だとは知る由もない。
その日の夜 沙奈江の家
沙奈江はベッドに入っていたがなかなか寝付けなかった。
侑汰ってなんでこんなに私に気を使ってくれるんだろ? この前も強引に屋上へ連れて行ったのに真剣に話を聞いてくれた。それに朱莉ちゃんも説得してくれた。あんなに私のために行動してくれる人って今までいなかった。
みんな綺麗とか可愛いとか言ってくれるけど口ばっかりで私が困ってても誰もちゃんと助けてくれない。侑汰は彼氏でもないのに一番して欲しいことをしてくれる。こんなに思いやりがある人と出会ったのは初めて… 侑汰は本当に優しい、侑汰の横だったら安心できる。
やっぱ彼氏にはあんな人の方がいいのかも… 最近気付いたんだけど、多分私は侑汰のことが好きだ。侑汰に優しくされるたびにその気持ちがどんどん大きくなっていく。でも、今日侑汰と話した感覚では侑汰は私に特別な感情を持ってないのかなって思う…
でもあれって照れ隠しなのかな? きっとそうだ! 間違いない。多分侑汰は照屋さんなんだ。私と二人っきりになった時も少し震えてたし… 恥ずかしがり屋さんなんだから… もう…
これだけ私に気を使ってくれるんだから私のことが好きなはず! 私から少し押せば侑汰は告白してくるかも… そうだ! 明日から侑汰に告白させるように圧力をかけていこう。侑汰、いつでもおいで… 私の準備は出来てるよ!
沙奈江ははっきり言って物事を正確に判断できない。いわゆる「勘違い」な人だ。小学校高学年までペリカンを白鳥だと勘違いしていた。
彼女の中では侑汰は自分に夢中だということで決定した。
それと沙奈江はこの世に「パワハラ」という言葉があるのを知らない。沙奈江の大好きな言葉「力こそ正義」どっかのゲームで聞いたことのあるような言葉だが、沙奈江はこの言葉に心酔している。力を使えばこの世のことはたいてい解決すると思いこんでいる… 当たってないわけでもないが、的は外している。
こうして朱莉と沙奈江はまたも同じ男を狙うこととなった。
その日の夜 侑汰の家
侑汰はじっとスマホを見つめていた。画面には何も表示されていない。
これを今すぐ叩き潰したらどうなるんだろう? やっぱ姉ちゃん怒るかな?