美女の仲直り
そして午後の授業も終わり放課後となった。クラスの皆が帰るのを待って二人になってから朱莉と話を始めた。
「朱莉、どんな話なの?」
「実はさ… 沙奈江との事なんだよね…」
俺は何となく沙奈江から話を聞いた時に朱莉もそうじゃないかとは考えた。やっぱり二人とも同じことを考えてる。
「どうしたの?」
「最近、自分が好きな人って誰だろうって考えてたんだよね… 前は確かに綺羅君が好きだったんだけど、一目惚れで実際に私は彼のことがどれくらい好きだったのか分からなくて… 今はもう何とも思わないんだ」
「今は他に好きな人がいるの?」
「う~ん… 気になる人はいるかな…」
「朱莉、もう綺羅の事を何も思わないんだったら沙奈江と仲良しに戻ったら?」
「侑汰君が何で沙奈江との事知ってるの?」
「実はさ、お昼に沙奈江から聞いたんだ。沙奈江は朱莉と仲良しに戻りたいって言ってたぞ…」
「そっか… 沙奈江もそんなこと思ってたんだ…」
「それで、朱莉はどうなの? 沙奈江ともう一度友達に戻れる?」
「私も戻りたいって思うんだけど… 今まで色んなことありすぎて… ね。今更ってところも…」
「でも本当は戻りたいんだろ? だったら戻れば?」
「でもあれだけ喧嘩したんだよ? いっぱい悪口言ったし… それがどんな顔して友達に戻ろうって言うの?」
「心配しなくても俺が間に入って何とかするから。その辺は俺に任せて」
「侑汰君がそんなことしてくれるの?」
「友達に戻るっていいことだろ? そのためだったらいくらでも協力するよ」
「そうなんだ… やっぱり侑汰君は優しいね」
「そんなことはないよ」
本当にそんなことはない。俺が協力しようと言う一番の理由は、仲良しに戻れば俺は彼女たちに一切気を使わなくて済むからだ。誰も好きでやってきたわけじゃない。俺に迷惑がかかるのを阻止するために彼女たちに気を使ってただけだ。
本音で言えば俺は一刻も早くこの席から離れたい。俺はもはや彼女たちを女の子として見ることはできない。彼女達を見ていてドン引きを通り越してトラウマになりかけている。これ以上彼女たちの近くでいると女の子自体を好きになれないような気がしてきた。
次の日の朝、俺は二人に「今日は俺達3人で屋上で弁当を食べよう」といった。朱莉も沙奈江も元気なく「そうだね」と返事をしたが、取り敢えず話し合いの場を持つことはできた。授業中も二人はぼーっとしてどこか上の空な感じで授業を受けていた。
お昼休みになり、いよいよ朱莉と沙奈江の仲直りのための昼食会を屋上で行う。なんとなく気まずい感じの2人を連れて俺は屋上に行った。
「取り敢えず、ご飯を食べる前に俺から言わせてもらうよ」
仲直りの話の口火を俺がきりだす。
「二人ともこの先にそれぞれ好きな人ができたり、付き合う人も出てくると思う。そんな時に今のことを思い出したら馬鹿馬鹿しく思えるんじゃないかな… 本当に好きかどうかわからない人を取り合って、結局友達まで失って、そこまでする必要があったのかなってね…。後になって後悔するなら今のうちに元の友達に戻ったほうが良くない?」
「私も… 最近それは考えてた。好きになった人を取り合って、沙奈江まで失って何してるんだろうって…」
「私も同じ… こうなるんだったら、いっそ私が引いて朱莉に協力してあげたほうが良かったって…」
「だったらもういいよね。全て無くなるより友達だけでも残ったほうがいい。それじゃ、仲直りしよう?」
「沙奈江がいいって言ってくれるなら私は戻りたい」
「私も朱莉が許してくれるなら戻りたい」
「じゃ、仲直りできたということで…」
二人は顔を見合わせ気まずそうにしてたけど、なんとなく安心した表情になっていた。本当はもっと早く仲直りしたかったんだろうけど… とにかくこれで一件落着。俺にも平穏な日々が戻ってくる… そう思った。
そう思ってたけど、実際はここからが始まりだった。後になって思ったこと… 彼女たちが俺を巻き込んだのか、それとも俺が彼女たちを巻き込んだのか… 確かなのは3人がいたから始まったことだけだ。
昼ご飯を食べ終えて二人は久しぶりに悪口ではなく普通の会話をすることができた。二人ともプライドは高いが自分が悪かったと反省している様子はそれぞれから感じた。いきなりは無理でもこれから少しずつ前のように仲良くなっていけるだろうと思い、何となくよかったと感じてほっとした。
すると突然二人が俺に向かって言った。
「侑汰君、なんかいっぱい迷惑かけちゃってごめんね、ありがとう…」
「侑汰、色々ありがとう。侑汰はやっぱりいつでも優しくしてくれる」
二人は今までに見たことのないような優しい表情で俺にお礼を言ってくれた。その表情は元々奇麗な顔をより引き立たせるもので、思わず見惚れてしまった。俺は正直ドキッとした。
「こんな表情もできるんだ… その表情で好きな男に迫ったら、絶対に落とせるよ」俺は彼女たちにそう言いたかった。
それから教室に戻り午後の授業を受けたが、休憩時間になると自然に朱莉と沙奈江2人で会話できるようになっていた。
それから数日後のこと、昼休みになりいつものように弁当を持って中学からの親友でクラスメイトの『山縣 亮佑』の隣に座った。亮佑の席は窓側の一番前だ。
「侑汰、なんか最近お前のお隣さん二人とも前より凄く可愛くなってねーか? 噂になってるぜ…」
「そうだな、二人共笑顔が多くなって前より魅力的になったと思うよ」
「冷静に言いやがって… どうせ隣で緊張しまくって喋ることもできねーんだろ?」
「前より緊張はしなくなったよ…」以前は毎日命の危機を感じてたもんな…
「ちょっと前まで彼女たちの表情が厳しかっただろ? それでみんな彼女たちに近寄らなかったんだけど、最近機嫌が良さそうだからみんな告白のタイミングを狙ってるみてーだぞ」
亮佑が言うように最近、休み時間になると俺の周り、すなわち四方と八条の周囲に男子が群がってくるようになった。みんな彼女たちの様子をずっと窺っていたみたいだ。
「そのうち彼女たちにもふさわしい彼氏ができんじゃないの?」
「侑汰、お前は何にも思わないの? 席が隣なんだしどっちかを狙おうとかさ…」
亮佑、俺がそんな馬鹿なことするわけがないだろ? あいつらの中身の恐ろしさを知ったらみんなドン引きするぞ。今んとこ知ってるのは俺と彼女たちに迫られた綺羅怜治ぐらいだろうけど… 何にせよ誰か彼女たちを引き取ってくれるチャレンジャーが現れたら俺はその人に礼を言わせてもらう。
俺から見れば朱莉はデビル、沙奈江はサタン、どっちをとっても悪魔に変わりはない。
「なあ侑汰、お前はどっちが好みなんだ?」
しつこく亮佑が訊いてくるので質問を質問で返してやった。
「亮佑はどっちがいいんだ?」
「俺は朱莉派だな。あの可愛い顔に可愛い仕草がたまんないね~」
そうか、お前はデビル様を選ぶんだな…
「けど、沙奈江を推してるやつも俺の周りに結構いるな…」
サタン様も人気があるようで…
「そうかぁ、二人とも人気あるんだな…」
俺が気の抜けた返事をすると
「お前はどっちも好みじゃないのか? そんな贅沢言えんの?」
かなりムカつくことを言ってきたが、これ以上この話を続けたくないので、
「両方とも俺には高嶺の花だよ。俺は現実主義だから興味はない」
と言った。
「やっぱそうか、お前には無理だから最初から諦めてるんだな…」
なんか一人で勝手に納得してくれたみたいなので放っておいた。無理は無理でも人間としてあいつらと付き合うのが無理だと思っているとは言っても分かってくれないだろう…