俺は女の扱いが上手い
このままでは俺の生存が危うくなってきたので対処法を考えることにした。そもそもあいつらがあれだけいがみ合う原因は何か?
それはあいつらの異常なプライドの高さだろう…。彼女たちは顔に自信があり、怜治を取り合った時も自分が勝つと思っていた… それが他の女に怜治を持っていかれて、プライドは粉々に砕けた… そしてその原因をお互いのせいにして憎しみ合っている… そんな感じなんだろうなと思う…
だったら、彼女たちのプライドを満足させてやれば無意味な争いもしなくなり、俺も被害を被ることは無くなる…
俺は自分の身を守るために彼女たちのご機嫌取りに走った。彼女達に最高の気遣いと気配りを行う。そして俺に対してだけは敵意を持たないようにさせる…
俺は女性の心理について他の男よりも理解できる自信がある。いわゆる鈍感系ではなく敏感系だ。
男たるもの女性の心理を理解するのは当たり前だといって、女性の感情や考えに関して姉に知識を叩き込まれた。おかげで俺はいろんな場面で女の子が何を言って欲しいのか、どんな対応をして欲しいのかが理解できる。
痒い所に手が届くような対応をしてやれば、プライドも満たされて彼女たちの気持ちも和らぐ… こう考えた俺はそれを実行することにした。
それから俺は彼女らをよく観察し、どんな言葉が効果的かなどを考えた。取り敢えず朝のあいさつで容姿を褒めてやり、気分良くさせてやる。髪型などのちょっとした変化も見逃さず、周りから掛けてほしいと思われる言葉で褒めてやる。暇そうにしていればこちらから話し掛け、喋りたくなさそうであればそっとしておく。怒っていれば話を聞いてあげて「うん、うん、そうだね」ってな感じで理解してあげて気持ちを落ち着かせてやる。
特に気を使ったのはお互いに相手の悪口を言わせないようにすることだった。四方が八条の悪口を言い出しかけると、四方をほめる言葉で遮り四方の感情を別な方へ向けさせる… このような感じで互いに貶し合うことも無くさせる。
俺は言いたくもない誉め言葉や、かけたくもない優しさを思う存分彼女達に与えていった。すると彼女たちの感情も徐々に落ち着くようになってきた。
しばらくすると彼女達も表情は明るくニコニコするようになり、機嫌も凄く良くなってきた。そうして彼女達の争いも殆ど治まった。
俺の精神は毎日擦り切れていくが、彼女らの精神は安定していく。取り敢えずこれで何とかなったと思っていた。
それから1週間ほどが経過して、席替えしてからちょうど3週間がたった。彼女達と話す機会もかなり多くなって今ではお互いに名前で呼び合うまでになった。今では四方は朱莉、八条は紗奈江と名前で呼び捨てにしている。
今では彼女たちが喧嘩することもなく落ち着いているが、この2人が仲良くなったわけではない。ただ、睨みあうようなことはしない。そんな感じで毎日を過ごしていたが、ここ最近、2人の様子がどこか変化してきたように思う。
そんなある日、授業も終わり荷物も鞄に放り込み帰ろうとしていた時、ふと隣の朱莉の姿が目に入った。
朱莉は教科書も仕舞わず頬杖をついて窓の外を眺めていた。そう言えば沙奈江も授業中ぼけ~っとしていた。彼女たちに何かがあったんだろうとは思ったが、こちらからわざわざ関わらない方がいいだろうと思い何も声を掛けなかった。
次の日、いつものように学校に登校すると朱莉は既に席に着いてた。
「朱莉、おはよう… どうしたの?」
いつものように「可愛いね」と言おうとしたが、そんな言葉が言えなくなるほど雰囲気が暗い。
「あ、侑汰君 おはよう」
言葉にも元気がなく何かで悩んでるのは明らかだった。そのままにしておこうかと思ったが、さすがにそれも出来ない。
「何か悩み事でもある?」
「ん… ちょっとね…」
「俺ごときでいいんだったらいつでも相談してね」
「ありがとう… そう言えば侑汰君ていつも私に優しくしてくれるね…」
「そうかな? 普通じゃない?」
「あのさ… 今日放課後、教室で話を聞いてくれない?」
「ああ、いいよ」
いつも優しいのはお前にコンパスで刺されないようにするためだと言いたかったが、朱莉は一体何を悩んでるんだろ? 妙に真剣な様子だし… 本当はあまり関与したくないんだけど、あんなに暗い表情をしてるのに放ってもおけないので、放課後話を聞いてやることにした。
その日も午前の授業が終わり、昼食となったので弁当を持って友達の所へ行こうとしたらいきなり沙奈江に腕をつかまれた。
「今日はお弁当一緒に食べよ」
そう言って、沙奈江は自分の弁当を持って俺の腕をつかんだまま引っ張って歩きだした。今まで沙奈江と弁当どころか2人きりになったこともない。
「沙奈江、どこへ行くの?」
「屋上で食べよう」
沙奈江に屋上へ連れていかれるなんて恐怖でしかない。あいつは女にしておくには勿体ないほど戦闘能力が高い。
「この辺で食べよっか」
「……」
「何してんの? 早くこっちに来て」
「な、何でいきなり屋上で弁当なわけ?…」
俺、怖くってしょうがないんだけど… 足はガクガク震えてるし…
「ちょっと話したいことあるんだ…」
「どんな事?」
「実はさ………」
話の内容は朱莉と対立するようになった今までの経緯だった。
入学式の時に朱莉と沙奈江はお互いに初めて顔を合わせたが、すぐに意気投合して仲良くなったらしい。美少女同士だから気が合ったのかもしれん。高校に入って初めての友達なので沙奈江は大事にしたいと思っていた。
その後、クラスで綺羅怜治を見て沙奈江は一目惚れ。沙奈江は恋の悩みを朱莉に相談することにした。すると朱莉も怜治に一目惚れしたことが分かった。初めは沙奈江も引こうかと考えたらしいが、やっぱり諦めきれないので朱莉とガチンコで競り合おうとなった。
初めは普通に競っていたが、他の女の子も狙ってることを知って二人とも焦ったらしい。それでつい相手の悪口を言い始めてしまい後は泥仕合…
結局、怜治は後から来た子と付き合い沙奈江と朱莉はフラれた挙句、お互いに因縁が出来てしまったようだ。
「でもね、今考えるとそこまで綺羅君のことが好きだったのかよく分からない… 朱莉とこんなことになるなら私が引いておけばよかったって思う…」
沙奈江は真剣な表情で俺に話していた。その話を聞かされた俺も色々と考えることはあった。結果論で言うとこうなっても仕方ないというか、誰が悪いとも言えない状況だと思う。問題は沙奈江と朱莉が仲直りできてない事だろう…
「最近ね、侑汰が私達の間にいて気を使ってくれるから冷静になれて… やっぱり朱莉とは友達に戻りたいなって思う…」
いつも元気な沙奈江が小さな声で俯いて話している。それを見ると何処か可哀そうにも思えてくる。二人にはさんざん酷いことされたけど、仲直りしたいんなら協力するしかない。元に戻ればすべては解決するし…
「だったら俺が朱莉にいってみるよ。本当は沙奈江は仲直りしたいって…」
「でも、もし朱莉が嫌だって言ったら…」
「大丈夫、必ず俺が説得する。約束するよ」
「侑汰君… ありがとう。ゴメンね、我儘言っちゃって…」
「気にしないでいいから」
俺は俄然やる気になった。あの二人が仲良くなるなら俺にとっても願ってもない事だ。それに、元々仲良しなんだったら、元へ戻してやりたい。都合がいい事に朱莉の方から今日の放課後に話があるって言われている。