幕間
少年の家は貧しい農家だった。
貧しいといっても冬を越せる蓄えはあったし、優しい父と美人な母。生意気だけど大好きな妹の四人で幸せに暮らしていた。
しかし、その平穏は突如崩れ去ってしまった。
領主が母親を妾にと連れ去ってしまったから。
もちろん、彼らは拒否して抵抗したけれど、命令だと無理やり連れて行ってしまった。七歳になったばかりの妹も一緒に。大量の金貨と引き換えに。
二人がいなくなり、父親と二人だけになった少年。父親はやけを起こして酒に逃げた。少年はどうにかして母親と妹を連れ戻そうと王都に領主の横暴さについて手紙を出したが返信はなかった。
そして、一年、二年と時は過ぎ母親が帰ってきた。
しかし、それは母親ではなかった。心を壊して、何も言わず何もしない。少年の優しい母親はどこにもいなかった。
妹は帰ってこなかった。死んだらしい。母親を連れてきた使者らしき人物が吐き捨てるように言っていた。
なんで、なんでもっと早く助けに行かなかった。
心を壊した母親は衰弱して死んだ。
父親も酒を買いに出かけたきり帰ってこなかった。
少年は一人になった。
かつて、家族四人で過ごした家にただひとりきり。
暖炉は冷えきり、暖かった家は冷え冷えとしていた。
何もかもに絶望した。
母親を連れていった領主に。妹を殺した貴族に。助けてくれなかった村人たちに。王都にいる役人たち。王族たち。……何も出来なかった自分に。
そんな時、小さな小さな声がした。
『誰が憎いか?』
少年は答えた。
領主が憎い。母親を妹を連れていった使者が憎い。助けてくれなかった村人たちが憎い。この世界の全てが憎い。
声は次第に大きくなる。
『復讐したいか?』
したい。
『ならば、力をやろう』
その声とともに少年はいなくなった。
少年はいなくなり魔王が誕生したのだった。




