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「クリスタ。あげる」
そう言って渡されたのは耳飾り。
カイルの瞳と同じ色をした宝石がついている。
「それに、魔力を込めてある。クリスタを守ってくれるはずだよ」
「……ありがとう」
琥珀色の中心に深い青色の光。
すごいなあ。私にはできないや。
カイル、分かってるのかな。自分の色をしたものを渡す意味。
しばらく顔の熱が引きそうにない。
あれから、カイルと二人で温かい紅茶を飲みながら、魔法に関することとかこれからの方針とかいろいろ話をしているうちにいつのまにか外は真っ暗になっていた。
帰ってきたリア様は私の耳で揺れている宝石をみて意味深な笑みを浮かべていた。そんなリア様に私は精一杯平静を装うのだった。
私の髪の色が変わっているのはもちろん驚かれた。女神様にお会いしたことも含め聖女様だから仕方ないで納得された。でもね、聖女だからって納得するのは私としては複雑というかなんというか。その横でうんうんと頷くカイルの足をこっそり踏んだことも仕方ないよね?
※※※
「きれー」
客室の窓辺にたち空を見上げた。
前世のように電気が無いこの世界はこの時間帯になると光源がほとんどない。王都は火属性の魔術師が作った魔法石を使った街灯が設置してある。けど、高価な街灯はここにはない。でも、それのおかげできれいな星空を見ることができる。
窓から星空を眺めながら大変な一日だったなあ、と振り返り苦笑した。
馬車にゆられてホレン村について穢れがあるという湖に行って女神様に会って。自分でもわけが分からないくらいには大変な一日だった。
ベッドからそっと立ち上がってそばにある机に向かう。あの日、レイラ様に会ってから私は日記をつけている。毎日ではなくて気が向いた時だけだけど。
もしも、私が魔王を助けることができなかったときにレイラ様のように次の聖女へと託すために。なんて理由をつけてみたけどそこまで大層な理由はなくて本当になんとなく書き始めた。
日記をつけながらふと思った。
あの湖で感じた真っ暗な何か。あれは多分魔王の心そのままなんだと思う。何もかもが憎いという魔王の想い。その想いが穢れを作り出しているじゃないかな。
それと女神様の『心の闇に捕らわれないように』という忠告。これも気になる。
心の闇は魔王の想いのことだとして捕らわれるっていうのは具体的にはなにに気をつけばいいんだろう。あの時は、早く声のほうに行かなきゃって思って……。もう少し、詳しく教えてもらえばよかった。
今更考えたって意味ないけど。
一人で考えたって良い案は浮かんでこないのだから。こういう考え事はリア様とかカイルのほうが向いてる。
私はただ穢れを祓うことに集中しないと。魔力が強くなったといっても浄化を使いこなせるようになったわけじゃないのだから。




