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魔法の水はカイルに向かっていく。
その勢いは弱まることはなく強まる一方。水鉄砲なんてレベルじゃない。
「うそ……」
呆然としているうちに水はカイルの目の前にまで進んでいた。
あ、と気づいた時には遅く慌てて水を消そうとするけど間に合わない。
「危ない!」
そう声をあげるのと同時に水は周りに飛び散った。
「すごいよ、クリスタ」
私は、この水を吹き飛ばしたあなたのほうがすごいと思います……。
飛び散った水が雨のように降るなかで嬉しそうに楽しそうに笑うカイルに心の中でそう答えた。
※※※
濡れた洋服を着替えてカイルと向かい合わせにして座った。まだ暖かいとはいえ濡れたままだと風邪をひいてしまう。
「ねえ、急に魔法を使えって言ったのはこうなることが分かっていたから?」
温かい紅茶を飲みながら聞けばカイルは大きく頷いた。
「ああ。クリスタの魔力が前よりも強くなっていたから魔法も強くなってるんじゃないかと思って」
じゃあ、カイルの予想は当たっていたということか。
そしたら、聖属性の魔法も強くなってるのかな。あ、でも試す方法が無い。わざとケガをするわけにもいかないし、それにかすり傷程度のケガだったらあまり変わらないかもしれない。
……あ。治癒だけが聖属性の魔法じゃない。浄化もある。そして、それを試すのにもうってつけの場所が近くにある。
「明日、湖に行ってみよう」
よし、そうしよう。そうと決まったらリア様たちにも相談して……。
「ちょっと、クリスタ待って! 少し落ち着こう?」
「私は十分落ち着いてるけど」
そう言えばカイルは呆れたようにため息をついた。
「勝手に一人で決めるのはどうかと思う。それに、また体調が悪くなるかもしれないから明日は一日休んでて」
むぅ。勝手に決めてはいないし。ちゃんと相談しようと思ってたし。
体調悪くなったのはちょっと疲れがでただけだし。
「そんな事言ってもダメ。他の皆とも話し合って決めたことだからちゃんと従うこと」
カイルは一息ついた。
「それに、聖女であるクリスタが倒れたら誰が魔王と戦うの?」
そう言われた私は何も言えない。実際、体調を崩したのは私の管理不足でもあるから。
「分かったわよ。明日は休む。でも、明後日はもう一度湖行くからね」
「ああ」
さて、そうと決まったら明日は何しよう。カイルのお手伝いでもするかな。
「それにしても、リア様たち遅いなあ」
窓の外の橙色に染まった空を見ながら呟いた。




