勇者サイド 白銀の狼
ある人は言った、『強欲は七つの罪の一つだ』と。
ある人は言った、『人間が欲したから文明は進んだ』と。
「……ここは?」
『おう、目覚めたか兄ちゃん、』
「……強欲の剣」
『覚えてくれていたとは光栄だ。』
頭がふわふわ、ぽわぽわとする。記憶が曖昧だ。
確か、ギルドに行って、洞窟探索の依頼を受けて、ケルベロスが出て……
「治……治はどこだ!」
『これまたテンプレな反応を、、大丈夫だあいつは並みの魔獣、それこそ天災級で殺せるかどうかだよ。』
天災級、確か上級の三段階上の魔獣。
ケルベロスで苦戦しているような俺ではすぐにやられることが目に見えている、そんな相手。
「そう、か……」
治はすごい、それは分かっているつもりだった。
でもやはり、こうも違いがはっきりしてしまうと思うところがないわけではない。
『あー、黄昏てるところ悪いんだけどよ、そろそろお前の仲間が目を覚ますから用件だけ言うぞ……』
「用件?」
『ああ、といっても俺からはひとつだけ、強くなれ、これさえ守ってくれれば文句はねぇ、質問がある場合は今夜頼む、お前が眠っている間は干渉しやすい。』
「おい、ちょっとまt――」
『質問は後だ、今お前の意識を戻す。目の前の奴を見たら驚くだろうがお前らのパーティーを救ってくれた恩人だ、間違っても攻撃はするな、わかったら意識を戻すぞ、』
「わ、わかった。」
『じゃあ、また夜で……』
感覚機能が下から順番に働き出すのが分かる。
変な表現だと言うことはわかっているが、長いこと使ってなかったものがゆっくりと再起動する感覚というか、そういうものを感じながらゆっくりと回復した視力で周りを見回す。
『お、目を覚ましたか。大分危険な状態だったんだぞ。』
ふと、背後から声がかかる。
ゆっくりと首を回すと見えてきたのは全身の銀色が映える『凛々しい』を体現したような狼。
なるほど、あの剣が言っていた意味がわかった。
攻撃を仕掛けるなというのはそういう意味だったのか。
『ふむ、攻撃はおろか構えすらしないとは、牽制ように用意していた魔法の出番はなくなったな。』
「ええ、助けてくれた方に無礼を働くような真似はしません。」
まあ、知らされてなかったらわからないけど、
と、心の中で付け足しておく。
『さて、お前の仲間たちもそろそろ起きてくるだろう。お互いあまり知らんもの同士だ、詰まる話もあるだろう。目が覚めたら奥の部屋に来い。
まずは……そうだな、治との関係から話してもらおうか。』
「治を知っているんですか?!あいつは一体、どこに?!」
『落ち着け、あいつらが目を覚ましてからまとめて話す。どうも無関係ではなさそうだからな。』
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◇視点???
「おい旦那、その付近でまた魔獣喰らいが出たらしいし、今日のところは違う場所での探索でいいんじゃないか?
東側の方でもゴブリン程度ならいると思うぞ。」
「あぁ、親切にありがとう。でも私はその魔獣喰らいに興味があるんでね、こっちに行かせてもらうよ。」
そう言って防具を整えるフリをする。
本当に親切な人だ、初めて見る見ず知らずの人にここまで心配をしてくれるとは、この帝国も捨てたものじゃないということか。
「そうかい、でも気をつけろよ、冒険者はほぼ100%自由な行動で稼ぐから文句は言わねえが、相手は五年前から尻尾も掴ませない謎の魔獣だ、一つしかない命は大切にな、」
後ろから聞こえてくる声に軽く右手を挙げて答えた後、進行方向に向かって左側、西側の森に向かう。
「さて、今日はどんな魔獣を喰らうかな。」




