望月祭k
「治くん、早く早く!」
「楓落ち着けって、」
そんなやりとりをかわしながら俺たちは望月祭を楽しんでいた。
当初の予定だと、一人で回るはずだったのだが、楓とルピナスが俺と回りたいと言い始め、結果的にじゃんけんという公平なジャッジによって今日は楓と一緒に回ることが決まった。
琴美は何か見たいものがあると言ってどこかに行ってしまったが、集合場所さえ把握しておいてくれればよっぽどのことがない限り絶対に失踪などという失敗はしない人だということはわかっているので、特に気にすることはない。
じゃんけんに負けて少し拗ねていた(と言っても表情は相変わらず変わらないが)ルピナスはそのまま帝国の図書館に直行してしまった。
先ほども言った通りこの帝国にはあらゆる国から人とものが行き交うので、当然蔵書の数も増えていく。
今回ばかりは少し図書館に行ってみたいと思ってしまった。
まあ、そんなことを考えてもいたが、楓と一緒に回る望月祭は思った以上に楽しかったので、今では図書館などどうでもいいと思えるほどには望月祭を楽しんでいる。
「治くん、あれ、輪投げがあるよ!!」
「お、やってくか?」
「うん、」
そんな軽いやりとりをかわして俺たちは近くにある輪投げの店に入る。
「いらっしゃい、どのコースで行きますか?」
頭を光らせ、顔をニコニコと満面の笑みで装飾した店主に言われて俺たちは差し出されたパネルに目を向ける。
パネルには、
『A:蚊を潰すレベル』『B:鬼と剣一本でタイマンするレベル』『C:ドラゴンと丸腰でタイマンするレベル』
と書いてある。
なんかいちいち日本っぽいんだよな、こういうたとえとか。
ちなみに、Aは銅貨5枚、Bは青銅貨5枚、そしてCはなんと大青銅貨5枚。
日本円に換算して順に50円、500円、5000円。それぞれ輪は5個ずつ支給される。
Cコース、怪しさダダ漏れじゃね?
「ねえ治くん、Cのコース金額設定からして明らかに怪しくない?」
同じことを思ったのか、楓も聞いてくる。
俺はちらりとCコースの景品の方に目を向けてみる。
そこに置いてあったのは“箒”だった。
「あの、Cコースの景品についてなんですけど……」
「お客様も挑戦されるのですか?あれはかの有名な錬成師さま、百年も前の時代から現在の帝国の技術力を超越していたと噂されるあの錬成師Sが最初から最後までフルカスタムしたとされるこの世に二つとない代物です。大青銅貨5枚で取れるんですから、非常にお得ですよ。」
相変わらず全く仮面を崩さない商人さん。正直めっちゃ胡散臭い。頭眩しい。ていうか錬成師Sのフルカスタムのオートマターなら仲間にいるんだけど?
「いいですね、Cコースやります。」
俺がめっちゃ怪しんでいると隣の楓が唐突に言った。
その顔は、間違いなく怒りを滲ませている。
「ありがとうございます。では、大青銅貨5まーー」
「あ、一枚でいいですよね?どうせ一発で終わるので。」
「は?」
商人さんはわけがわからないといった顔をする。
そんな商人さんを尻目に楓は大青銅貨一枚をテーブルの上に置き、輪を一つ箱から取り出す。
そして、Cのコースの目の前まで来ると、直後、膨大な神気を操り始める。
そしてそれらの流れがやがてまとまると、全てが“目”に集まっていく。
そう、神眼だった。
「楓、いつから制御できるように……」
「ああ、あの魔人族の人に捕まった時かな?強い魔力に当てられて少し耐性がついたみたいで、緻密な制御はまだだけど、量と維持する時間だけなら調整できるようになったよ。」
楓は少し怒っていた。
それはきっと、頑張って隠しているのだろうが、やはり長年一緒に暮らしている俺にはわかる。
怒っているのだ、箒を勝手に使った商人に対して、母親の遺品をずるい商売の道具として簡単に使った商人に対して。
楓が構えた輪投げの輪に神気が集まっていく。それを感じた俺も神眼を発動してみる。
目標はキラキラに飾りをつけられた中央の一番遠いところにある棒。
そこに見えたのはそれを何重にも囲む物理障壁。
あの金額設定にして絞れるだけ絞るつもりだったんだろう。でも、これで終わりだ。
楓が輪を投げる。
神気をまとったそれは楓によって遠隔操作され、的確に物理障壁を破っていく。
もともと魔力でできた障壁だ。神気に勝てるわけがない。
縦横無尽に動く輪を周りの人は目を瞬かせてみる。この世界の常識では属性魔法以外は存在しないものとなっているので、初めて見たのだろう。
が、その中で商人さんは立ち上がって抗議しようとする。
すると楓は振り向きざまに輪っかを毛の少ない頭頂部すれすれに飛ばし、少し睨む。
商人さんは顔をみるみるうちに青く染め、倒れこむように後ろの椅子に座る。
全ての障壁を破り終わり、無事に箒を手に入れた楓は商人さんの元に行った。
商人さんがビクビクしながら楓の方を向くと、楓は少し怒った顔で、
「次お母さんのものをこんな扱い方したら許さないから。」
と言って輪投げ屋を出た。
この日、帝国に『魔術ではない奇術を操るSの娘』が誕生した。
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◇視点琴美
私は治さんたちと別れた後、治さんに借りた“賢者の書”を使って確認したある場所にいる。
最高神が時空の神となったのはこの世界で千年前。百年に一度の間隔で勇者を召喚していたと治さんは言っていたけれど、そうするとどうもおかしな点がある。
一つ前、百年前の召喚で呼びだされたのは約120人。が、今回の場合は40人。
人数の差は魔力の差であるので、そう考えると前回は単純計算で約300年もの間召喚を行なっていないことになる筈だ。が、実際に文献では召喚されたことになっている。
そこで私は考えた。王国外で呼び出した勇者を王国に連れてくる方法はどうかと。
その時、ある文献が目に入ったのだ。
「……お前は、誰だ?」
「私は周防琴美と申します。はじめまして、文明の神リント様の神獣様でよろしかったですか?」




